投獄
王都までは一本道だから迷わないのはいい。途中の町並みは綺麗でこの国は豊かだというのがわかる。夜店も沢山出ていた。誘惑に駆られるが、私は持ち金が少ないから無駄な買い物をせず、安宿に泊まり、やっと王都に着いた。
セタイト王国の王都は賑やかだし、治安はすこぶるよかった。食べ物屋台が祭のように出ている。旅の疲れもあったが、持ち金は少ないが王都に着いたことが嬉しくて屋台で食事をすることにした。
とても美味しい。料理が美味い国に悪い国はない。
これは前世の私の持論だ。
とりあえず疲れたので王都の宿泊所に行き1泊した。今日は少しいい宿にした。安宿はお風呂がないから水拭きをしただけだ。有力者に会うのに服も洗いたいし、体を綺麗にしたい。だからお風呂に入れる宿にした。手持ちのお金が少ないが、帰りは野宿でもいい。
△△△
翌日、王城を目指して歩く。今日も暑い。長い道のりだったが、やっと門番さんのいる場所まで来ることができた。若い門番さんがいた。私は少年から預かっていた剣を見せることにした。少しでも早く有力者に会いたい。
「あの~よろしいですか」
「旅の方ですか。何の御用でしょうか?」
「これを見せたら、有力者の方を紹介していただけると聞いたのですが?」
「こ、これは……、怪しいやつ。こいつを捕まえろ」
私はその場で複数の兵士から押さえつけられ、後ろ手に縛られ、そのまま取調室まで連れて行かれ、すぐに拷問が始まった。私は取調室で私の名前や剣を持っている理由を聞いて、剣をくれた本人にも確認をとり、それが嘘だったら初めて拷問かと思った。服は着たままだったが、両手を縛られ、背中を鞭打たれた。
「この剣をどこで手に入れた?」
「あ、はい、旅の少年からいただきました」
「そんな見え透いた嘘をつくな」
何度も同じ質問をされた。きちんと答えているのに信じようとしない。『盗みました』と言わせたいのだろう。でも貰ったのだから嘘はつけない。
「鞭を打たれてもそれほど痛くないと思っただろう? 白状させるための拷問に使う鞭は悲鳴をあげるほど痛くない。無実の罪の場合があるから国王から殺傷力の強い鞭を禁止されている。だが、拷問の方法まで規制されていない。あとは拷問官の腕だ。俺は名人と言われている。この鞭でこれまで何人も殺してきた。心配するな、拷問は俺の趣味でもある。俺は1日でお前を殺すようなことはしない」
確かに痛いのだが、私が想像したほど痛くはなかった。だがこの拷問官は同じ箇所を何度も鞭打った。だんだん痛みが増してくる。夏だから薄い服装だけど、服を着ているからなんとか耐えられた。
「この女の上着を脱がせろ。直接皮膚に当てれば白状するだろう」
それでも私は盗んでないのだから、拷問官の望んだ返答をしなかった。
そうしていると業を煮やした拷問官は私を全裸にし、正面を向かされ、両手・両足を磔のように括られ鞭を打たれた。こんな恥ずかしい姿をさせられたのは初めてだ。背中はもう痛みすら感じなかったが、今度は前を向かされ鞭打たれたため、さらに新たな痛みが増した。嘘をついていないのに、彼等の返答は『嘘をつくな』だった。
「いいえ。本当のことです。確かクレメスと名乗っていました。彼を呼んでいただけないでしょうか?」
「クレメス様が貴様のような薄汚れたやつに名乗るはずないし、会う訳ないだろうが!盗んだのだろ。どこで盗んだ。白状しろ!!」
「だって、貰ったのは本当のことだもん」
「白状するまで、拷問は続けるぞ」
「もう止めて。私は盗んでいない」
それから私が気を失うと、水をかけられ、あらためて鞭を打たれた。何度も気を失ったが、その度に頭から水を掛けられ起こされた。そしてとうとう気を失っても目を醒ますことはなかった。おかげで今日の拷問は終わった。
「ちっ!とうとう気を失いやがった。俺はこの女が無実であろう構わん。こいつを牢屋に入れておけ。気がついても食事を与えなくていい。どうせ明日には拷問に耐えられずに白状するだろう。また明日も楽しみにしておけ。たっぷり拷問してやる」
何時間経ったのだろうか?私は鉄格子の中で裸のまま横になっている。夏でなかったら凍死していた。手首と足首は縛られていたので、縄の跡で、糜れている。最初は背中をむち打たれたが、そのうち正面を向いて鞭打たれた。ずいぶん拷問されたがどれくらいされたか覚えていない。
後ろ向きでも恥ずかしいのに、正面を向き、両手両足を括り付けられ鞭打たれた。拷問官は男性だったが、もう恥ずかしさなどない。たとえ服がそばにあっても体中痛くて着ることが出来ない。
しかもクレメス様のことを気軽に言った口が悪いといって殴られたから、口の中も切れているし、唇も腫れている。体中痛いけど、婚約パーティーで生玉子を投げられたときのように心は痛くない。それだけでもましかも?と思っている私にはまだ余裕があるの?
あの少年が変な物をくれたおかげで私は拷問のうえ鉄格子の中よ。下地は堅いし、トイレはないし、これでもこの年になると恥じらいくらいはあるのよ。トイレくらい用意しなさいよね。自分のものでも臭いのよ。でもトイレがあっても動けないから垂れ流しだ。
結局、毛布も食事も出ないまま、寝ないで夜を過ごした。体中痛くて寝られない。
◇◇◇
夜が明け、裸の私の前には、鉄格子を挟んで少年が土下座をしている。間違いに気づいてくれたのはありがたいけど、私も一応文句だけは言いたい。
「クレメスくん、私へのお礼は顔を殴って、裸にして体中に鞭打ち、気絶したら頭から水をかけ、さらに鞭打つことなのかな? 裸のまま水も食事も与えず牢屋に入れることなのかな? まあ、出されても口が腫れて食べられないけどね。水くらい欲しかったな」
「ごめんなさい。僕はちゃんと親衛隊隊長に言ったんだ。僕の剣を持参した子が訪ねてきたら、丁寧に対応して僕のところに連れてきて欲しいと。だけど門番には通知されていなかった。本当にごめん。親衛隊隊長は警備隊長に言っていたが、警備隊長は門番から僕の剣を持参した少女のことを聞いていたが握りつぶしていた。親衛隊隊長と警備隊長は日頃から仲が悪かったが、まさかここまでとは思わなかった。警備隊長と拷問官は全員クビにして投獄した。相応の処分を受ける。君があまりにも遅いから今朝直接門番に聞いて分かった。本当に申し訳ない。今すぐここを開けるからね」
「開けなくていいわ! 動けないし裸のまましばらくここで過ごすわ。部下が大きな間違いをしたときは、偉い人が謝るのが常識よね?」
横になったまま話したが、彼からは私の腫れた顔と鞭打たれた胸が見えている。隠したくても手を動かすのも痛い。もう裸を見られてもどうでもいい。それ以上の辱めを受けた。どうせ痛くて動けない。体の傷はたぶん跡が残る。一生消えないだろう。こんな体になってはお嫁に行けない。
「確かにそうだね。怒るのは当然だよね。一番偉い人を説得して連れてくるから、そのまま待ってね」
「いいわ。どうせ動けないし行くところもないから」
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