54 令嬢はルナの兄を探す①
ルナの両親は隣町へ向かう途中で魔物に襲われたと聞いたので、もしかすると冒険者ギルドに依頼していたかもしれないと思い、私はまず妖精の円舞曲のシエナに情報を尋ねてみた。
しかし、シエナは困った顔で、隣町の短い距離では金のない旅商人は無茶をして、依頼を出すことはないと教えてくれた。
でも代わりに、レストランの女将ならば、客たちの世間話から何か知っているかもしれないと提案され、すぐに女将に話を聞いてみると、まさか本当にルナ達の話を知っていた。
女将に教えられた住所を頼りに、私はルナ達が住んでいた家を目指した。
中央広場からかなり離れたその場所では、南へ進むにつれて道を行き交う人々の服装が徐々に変わり、擦り切れた布や継ぎ接ぎのある服を着た者が増えていく。
地図に記された小道へ入ると、荒れた石畳の床には小さな石ころが散らばり、湿った空気に混じる奇妙な臭いが鼻を掠めた。首に掛けた指輪を握り締め、我慢してようやくたどり着いたその場所には、小さな二階建ての建物があった。
だが、一階には女将が教えた雑貨屋ではなく、すっかり古着屋に改装されていた。店長らしい女性が積極的に客に商品を勧めており、看板には『新店舗オープン 20%割引』と大きく書かれている。
私は戸惑いながら地図と道標を見比べて、場所を間違っていない思うが、念のため隣の肉屋に立ち寄り、女将に話を聞くことにした。
「あの、すみませんが、おばさん。あそこのお店って、雑貨屋さんじゃなかった?」
「雑貨屋だったのよ。でも、公爵様に徴収されて、もう古着屋に変わったのよ。坊や、何かを買う?」
買う?あっ、そうだ、情報を尋ねるにはまず対価を払うべきかもしれない。
私は店内の商品棚を見回し、目に飛び込んできた新鮮な血が滴る生々しい肉に一瞬ぞっとして、それを避けて干し肉に目を留める。
「じゃあ、角兎の干し肉を一袋でお願いする」
「はいよ、大銅貨三枚ね」
言われた金を渡し、私はさらに情報を引き出そうと女将に尋ねた。
「あの、おばさん。それで、その、昔の雑貨屋さんのことなんだけど、ちょっと聞きたいの。そこに住んでた人たちって、今どうなったのか、何か知ってる?」
そう言い出した途端、さっきまでご機嫌だった女将は突然笑顔を消し、疑わしげな視線を向けてきた。
「アンタ、誰に言われてあの家のことを探ってるんだい?何が目的だ!」
えっ?まさか、怪しい人物だと疑われている?
「ち、違います、私は…ルナの従兄弟です。お母さんがルナ達のことを心配してて、それで代わりに様子を見に来ただけなんです!」
咄嗟に考えた言い訳は女将の疑いは晴れないどころか、彼女はさらに険しい表情になる。
「ハアー、子供まで使って情報を聞き出そうだなんて。アンタら、今さら現れて、この店を乗っ取ろうとしてるんだろう?残念だな、この店はもう別の店主に売ったんだよ!」
「だから本当に違いますって……」
私って、嘘が下手かな。
「言い訳はいいのよ。従兄弟だなんて、本当かどうか怪しいもんだね。だから、アンタらみたいな厄介者を防ぐために、公爵様がまとめて孤児たちを管理してるのさ。とにかく、あの家の子供たちは既に公爵様の救済院に引き取られたよ。信じられないなら、救済院に行って自分で確かめな」
「……たち?二人ともですか?」
「当然さ。それじゃなきゃ、公爵様がわざわざ店を徴収する理由がないだろ。子供二人を養うのには金も時間も掛かるんだよ。ま、アンタみたいな子供にはそんな事は分からないだろうけどさ」
女将が当たり前の顔でそう言い放ったが、それは私が救済院で知った事実とは異なるものだ。
近所のおばさんがこの認識なら、ここの大人たちはルナとその兄が二人とも救済院に引き取られたと信じ込んでいるかもしれない。
「……そうですね。何の為に、家を徴収しておきながら、子供一人しか保護しなかったのか」
私はある信じがたい結論に辿り着き、小声で呟いた。
情報を提供してくれた女将に礼を言い、静かにその場を離れた後、私は近くの小さな広場へ行った。
遠くで遊ぶ子供たちの姿が見えたので、彼らに近づき、先ほど買った干し肉を餌に、ルナ達の事を聞く。
「ルナちゃんはお姫様になったのよ。あの綺麗な白い建物の外で見たもん!」
「ルナの兄?トム兄のこと?一緒にじゃないの?足が悪いから、きっと部屋に籠ってるんだよ」
「いいなあ、手伝いしなくて」
「え?トム兄?そんな人、知らないよ?」
「ルナちゃんとトム兄ちゃんはえらい人の馬車に乗ったのよ」
「お兄ちゃん、僕も干し肉が食べたい」
「トム兄ちゃんの特徴?ええとね、足が悪く、ルナと同じ緑の髪をしてる。あ、メメも同じだよ!」
「……」
子どもたちの無邪気な言葉の中には、さまざまな情報が入り混じっていた。私は一つ一つの言葉を拾い上げ、パズルのように頭の中で組み立てていった。
ルナとその兄、トム。
二人は確かに救済院の馬車に乗せられた。しかし、救済院で保護されたのはルナ一人だけだった。
家が徴収され、住む場所を失ったトムが救済院で生活できないとなれば、彼は本能的に元の家に帰ろうとしたはずだ。
だが、肉屋の女将や子供たちの話しぶりからすると、トムがここへ戻った形跡は全くない。
咎人は保護の対象外と明言していた救済院院長に、あの子が別の場所で保護されているとは到底思えない。
もしかしたら、救済院は領民たちに『孤児をすべて引き取る』と思わせておきながら、実際にはトムを馬車から降ろし、行き場のない彼をどこかに捨て置いたのではないか?その上、彼を元の家に戻れないよう、何らかの手を回しているかもしれない。
ならば、今、トムはどこにいます?




