49 令嬢は救済院を訪問する①
本日、私は叔母様と従姉妹のカトリーヌ、ルクレティアと共に救済院を訪問することになっている。
ルクレティアは私より一歳年上で、金髪の髪に青い瞳を持ち、叔母様とよく似ていて、その上活発な性格で、自然と人々の注目を集める魅力がある。
一方、カトリーヌは私より四歳年上。顔立ちは叔父様譲りで、金髪の色はルクレティアよりも濃く、瞳は深い墨色。彼女の落ち着いた雰囲気とおっとりとした性格は、妹のルクレティアとは対照的で、今年の春には王都の学園に通う予定になっている。
三人が並ぶと、その姿は誰が見ても一目で家族と分かるだろう。
彼女たちの中に挟まっている私だけが、どこか不自然に感じられる……
公爵令嬢である私の身分は従姉妹よりも上であるため、自然と私が叔母様の隣に並び、従姉妹たちはその後ろに続くという並びになっている。
馬車を降りて歩く途中、何気なく横を見ると、ルクレティアが笑顔でカトリーヌに何かを話しかけていた。その仕草や声の響きには愛らしさが漂い、カトリーヌは控えめに小さく頷きながら、静かに彼女の話に耳を傾けているようだった。
「ステンベルク侯爵夫人フローレラ様、並びにステンベルク侯爵令嬢カトリーヌ様、この度も救済院へお越しいただき、誠に光栄に存じます。そして――スペンサーグ公爵令嬢フリージア様、ステンベルク侯爵令嬢ルクレティア様、お初にお目にかかります。救済院院長を務めるウェイド・グリーンと申します。このような貴女方にお会いできる機会を賜り、大変光栄に存じます」
救済院の入り口で私たちを出迎えたのは院長である恰幅の良い中年男性だった後ろには数人の先生らしき人物や使用人が控えており、院長はその先頭に立ち、片膝をついて深々と頭を下げ、丁重に礼を尽くして挨拶をしてくれた。
叔母様とカトリーヌは以前にもこの救済院を訪れたことがあり、彼と顔見知りの様子だったが、私とルクレティアにとって彼は初対面の相手であった。
しかし、社交場でない限り、未婚の貴族令嬢は親族以外の貴族男性とは、無闇に会話を交わすのは慎むべきとされているため、私とルクレティアは微笑みだけを浮かべて控えめに挨拶を返す。
その場を代表する叔母様が一歩前へ進み、柔らかい声で言葉を紡ぐ。
「グリーン男爵、お招きいただきありがとうございます。このような機会を頂けて、わたくし達も嬉しく思っておりますわ」
グリーン男爵と叔母様が会話を交わしている傍ら、私は静かに救済院の建物を見上げていた。
百年前の世界大戦の終結を記念して建設されたというこの救済院の外壁は、長い年月を経て風化し、石の表面には歴史の重みが刻まれている。
院長は先頭に立ち、私たちを施設内へと導いた。廊下を歩くと、大きな窓から降り注ぐ陽光が、薄明るい光となって床を照らしている。
その向こうからは、子供たちの楽しげな笑い声が微かに聞こえ、私たちはその音に引き寄せられるように、足を進めていった。
「こちらは親を無くした孤児たちが日中を過ごす居室でございます。時には簡単な文字、算数、礼儀などの勉強を行いますが、今は休憩時間でございます」
救済院は困窮している人々を助けるための施設であり、貴族が慈善活動を行う際には、その窓口として機能している。また、孤児の引き取りや養育も救済院の重要な役割の一つである。
窓越しに見える部屋の中では、木製の机と椅子が整然と並び、小さな棚には本やおもちゃがぎっしり詰まっている。中央では子供たちが集まり、いくつかのグループに分かれて遊んでいた。
私たちに気づいた子供たちは、驚いたり、興味深げにじっと見つめたり、恥ずかしそうに友達の後ろに隠れたりと、思い思いの反応を見せた。その仕草一つひとつが、心を和ませてくれる。
そのすぐ傍らでは、子供たちを見守る若い先生方が、私たちに気づくと静かに一礼した。無遠慮に私たちをじっと見つめていた子供たちには、優しく諌めている姿が見えた。
「ふふっ、元気な子供たちですね」
叔母様は優しく顔を綻ばせ、グリーン男爵にそう言った。
その後、私たちは施設の庭、面談室、備品室、寝室などを案内されながら、救済院の中を歩き回った。どの場所も整理整頓されており、運営はきちんとされている様子が伺えた。
最後に、院長室に案内され、グリーン男爵から救済院の運営状況について具体的な説明を受けながら、整理された資料を見せられた。
この救済院はスペンサーグ公爵家が主導し、貴族たちの協力を得て設立されたものだ。公爵家に定期的な報告を行う義務はないが、慈善事業の一環として救済院を訪れる際に運営状況を確認し、必要と判断した場合には追加の物資や資金を提供しているらしい。
「お母様、わたくし達、他の場所をよく見てみたいですわ」
「もう、仕方のない子ですね。カトリーヌはわたくしと一緒に書類を見ているから、貴女はフリージア様と二人で見て回ると良いわよ」
「えぇ?うっ、分かりましたわ」
私と一緒に行動するよう告げられた時、ルクレティアは一瞬だけ綺麗な眉を顰めたが、すぐに元気よく返した。
「それでは行きましょう、フリージア」
「はい、ルクレティア」
昔、彼女を『ルクレティアお姉様』と呼ぼうとした時、わたくし達の年齢が一つしか違わないと指摘され、お互いに名前で呼び合うことになっている。それを親愛の証だと思い込んでいたが、今になって振り返ると、彼女はずっと前から私を嫌っていたのだと気づかされる。
目の前のルクレティアは記憶にある成長した彼女とは違い、まだ幼い。言葉や視線の隅々に、私への嫌悪の感情を隠しきれずにいる。
私はルクレティアに引き摺られるように退室し、子供たちが遊んでいる居室へと向かった。




