◎リリア視点 あたしは冒険者になるわ
あたしはリリア、元々は、とある小さな酒場を営んでる家の娘。
少し年の離れたお姉ちゃんが一人いて、昔からしっかり者の彼女に頼りきりだった。
「リリアもそのうち、お姉ちゃんみたいに夜の酒場で働くんだよ」
小さい頃、お母さんが笑いながらそんなことを言ったのを、今でも覚えている。
酒で賑わうカウンター越しに、お姉ちゃんが愛想よく笑って男たちに酒を注ぐ姿を見ながら、あたしはぼんやりと自分も大きくなったら、ああなるのかなって。
笑顔を振りまいて、酒臭い男たちと話をして、時には気に入られた客にお金が渡され、部屋に呼ばれることもある。
――そんな未来を考えるだけで、正直吐き気がするわ。でも家のためだし、仕方ないって思い込もうとしてたんだ。
でも、そんな良いとも言えない日々は、あっという間に壊れてしまったんだ。
お父さんがギャンブルにハマって、酒場の金を全部使い込んだ挙句、最後は酔っ払った勢いで川に落ちて、そのまま帰ってこなかった。
そしてあたしたち家族に残ったのは、莫大な借金だけだった。
マジで、バカげている話だわ!
追い詰められたあたしたちは、どうにかしようと必死だった。お姉ちゃんは、自分を奴隷として売ってでも、借金を返そうとした。
そんな最悪の状況に、あたしたちが絶望していた中、セリオンさんが現れたんだ。
冒険者ファミリー<妖精の円舞曲>の副会長のセリオンさんは、あたしたちがたまたま作った新作デザートを気に入ってくれて、家族ごと雇ってくれたの!
それだけじゃないわ、借金を分割払いにしてくれるように、手配までしてくれたんだ。
あの日から、あたしはセリオンさんに憧れるようになったの。
そして決めたわ!あたしも凄い冒険者になるって!
もうあの借金取りたちに家を荒らし回るのは、こりごりだ。
ただ泣きながら震えて、お母さんとお姉ちゃんがあたしを庇ってくれるのを、黙って見ているだけなんてもう嫌。
次こそ絶対に、あたしの力で家族を守るんだ!
***
でも、冒険者になるって決めたら、お母さんにもお姉ちゃんにも猛反対されたわ。
「危険だ」とか、「危ない」とか、「女の子がすることじゃない」とか、口を酸っぱくして言われてね。
あたし、元々そんな言いなりになるような『いい子』じゃないけど、その時、初めて彼女たちに反抗したの。
「 あたしの人生なんだから、あたしが決める!」って言い張ったわ。
それで、魔術師協会が定期にやっている無料の授業に通い始めたわ。
あれ、新人冒険者とか魔術師見習い向けのやつなんだけど、意外とちゃんとしててすっごく役に立つの。
正式に冒険者ギルドに登録できるのは12歳からだから、それまでは見習い登録してFランクの雑用をこなしていたわ。
まあ、地味の雑用ばかりだけど、『これも経験だ!』って、思えば割り切ったわ。
もちろん、反抗期だからって、家のレストランの手伝いもちゃんとしていたわよ。
本音を言えば、妖精の円舞曲のメンバー専用の食事だけ作ってればいいのにって思うけどね。
でも現実はそう甘くないわ。お父さんが残した借金が、まだ山ほどあるんだから。お母さんがセリオンさんにお願いして、一般客も受け入れて接待することになったのよ。
まあ、昔の酒場みたいにガラの悪い客が来るわけじゃないし、お姉ちゃんが女給の仕事を押し付けられることもないから、それでもいいだろう……金は大事だし。
あたしも手伝い合間に、狙いの妖精の円舞曲のメンバーたちといい感じに仲良くなって、魔術師や冒険者としてのコツをいろいろ教えてもらっていたわ。お互いにとってウィンウィンってやつね!
冒険者について知れば知るほど、お母さんとお姉ちゃんの心配が正しいってことも、まあ分かるのよね。冒険者なんて確かに危険な職業だし、高い星の魔物に無謀に挑んで返り討ち、なんて話も珍しくない。
でも、あたしは違うわ!ちゃんと授業受けて、一番の成績を取っているし、準備だって怠らない。ヘマなんか絶対しないし、無謀なこともしないわ!
絶対に未来のS級冒険者になってみせるんだからね!それで金儲けして、お姉ちゃんたちを楽させてやるんだ!
そんな感じで順調に頑張ってたんだけど……でも!いざ<妖精の円舞曲>に入ろうとしたら、今度はシエナさんに『年齢が』とか『実力が』とかで、やんわりと断られちゃったのよ!
そりゃ、妖精の円舞曲は、人数としたら小ファミリー扱いだけど、実際のところメンバー全員が中級魔術師以上で、冒険者ランクだってCからスタートする実力者ばっかりなのよ。
ほんっと、これで小ファミリーなんて呼ぶのはおかしいって、いつも思っている。
だからあたしも、せめて12歳になって正式に冒険者登録する時に、同時に初級魔術師の資格を取ってから妖精の円舞曲に入るつもりだった。
でもさ!でもだよ!なんであたしが頑張っている間に、あたしより年下で、実力もダメダメな男の子が先に入っちゃうわけ!?
はぁー、ありえない!
一日の差としても、もう、悔しすぎてどうにかなりそうなんだけど!!




