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やり直し令嬢は箱の外へ、気弱な一歩が織りなす無限の可能性~夜明けと共に動き出す時計~  作者: 悠月


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◎ライラ視点 お嬢様の為に?②

 さて、と。休憩時間も終わったし、誰も私を監視しないけど、私も仕事に戻ろうかね。


 腰を伸ばし、私は乾いた布団を片付けるために洗濯室へ向かう。


 洗濯室の隣、布団を干してる裏庭にに着いたら、乾いた洗濯物や服を片付ける使用人たちが数人いた。彼女たちは私を見つけるなり、雑談を止め、無表情で悪意のこもった視線を一斉に向けてきた。


 もちろん、そんなの今さら気にするわけがない。


 私は無視して、力任せに布団を引っ剥がそうとした瞬間、横からお節介な声が飛んできた。


「それじゃダメよ、そんな扱い方じゃ布団が傷むわ」


 声の方を見れば、小柄で灰色髪の中級使用人アンナが立っていた。彼女は洗濯室の管理を任されてる。


 チッ、またかよ。

 故郷じゃ年寄りを尊重しろって言われたので、その視線に少しな苛立ちを覚えつつ、私は面倒くさいから言い返さず、無表情でそのまま布団に手を伸ばした。


 そしたら、アンナが私の手をピシッと叩いてきた。


「こっら、だからそうじゃダメでさ、こうするのさ」


 彼女の手は、長年洗濯仕事をしてきたせいか、無駄のない動きで布団を丁寧に扱ってる。


「見てなさい、こうやって布団を取って、から、こうやって畳むんだよ。無理に力を入れないで、布の目を揃えて……ほら、こう」


 そして手を動かしながら、いちいちコツを教えてくれるが、私は無言で彼女の動作を見てるだけ。

 学ぶ気なんてさらさらないので。


 その時、隣で暇そうにしてるスズメたちがクスクス笑ってるのが、いやでも耳に入って来る。


「ほんと、無様ねぇ」

「教えてもらっているくせに、やる気ゼロじゃん」

「猫のくせに、不器用ね」

「やったな、粗野な獣人だから、乱暴な動作しかできないんでしょ」

「本当に品がないわよね、あの猫」

「フリージアお嬢様、いったい専属メイドとして何を見て、彼女を選んだのかしらね?」

「うーん、あの陰鬱(いんうつ)なお嬢様も、あんなの側に置くなんて、趣味が悪いわよね」


 ほんとう、うっとうしいわね。


「アンタたちも、ここでの仕事が終わったら、さっさと次の仕事に行けよ」


 でも意外にも、私が怒り出すより早く、アンナが彼女たちに反応した。


 一応、上位者からの命令ってことで、スズメたちは「はい」って返事して、またわざとらしく、クスクスと笑い合ってこの場を去っていった。


「ほら、あんたも、さっさと行きなさい。フリージアお嬢様の側には、アンタ一人しかいないのだから、もしかしたら探しているかもしれないわよ」

「おう」


 アンナは綺麗に畳んだ布団を私に渡し、少し優しげな声でそう言った。 私はそれを受け取り、適当に返してから、それ以上の説教は勘弁と、そそくさここを離れた。


 まあ、お嬢様は今、屋敷にいないけれどね。



 ***

 最近、公爵邸の使用人どもが私に対する態度が妙に変わっていた。


 まあ、私がこの屋敷でお嬢様の専属メイドになって、それなりに地位が上がったのは確かだ。

 でもさ、だからって、バカにする視線がなくなったわけじゃないし。むしろ、罵る声やら嫉妬に満ちた目線が増えた気がする。


 当然、それは別にいいんだけど。悪意なんてどこにでも転がってるし、放っときゃ勝手に湧いてくるもんだしね。

 私には関係ねぇよ。


 けどさ、一部の、もともと大人しかった連中が急に友好的な態度に変えてきたのは気色が悪い。アンナもその連中の一人だ。

 前までは、あんだけ私を無視してたくせに、最近じゃ時間さえあれば寄ってきては、<メイドとしての心得(こころえ)>だの、世話を焼いてくる。他にもいろいろと、何かしらの便宜まで図ってくれる始末だ。


 ……はあ?何これ?

 対価もない善意ほど怖いものはねぇっての。


 だから、怪しい連中の動きをこっそり監視してやることにした。寝室の外で盗み聞きしたり、誰かに気づかれないようにじっと見張ったりしてな。


 それでわかった結果が、馬鹿らしくて笑っちまうよ。


 なんでも、あいつら昔、お嬢様のお母様、つまり公爵夫人に恩を受けたことがあるらしい。

 メイド長や執事長の命令で、お嬢様には近づけなかったんだとか。だけど今は、私が専属メイドになったから、私を通じてお嬢様を助けることで、公爵夫人への恩を返そうとしてる……ってさ。


 バカじゃないの?


 お嬢様を助けたいなら、さっさとやれよ!今まであんたらが何もしなかったから、お嬢様はこんな風になっちまったんじゃねぇか。

 臆病で、どこまでも優柔不断で、いつも悲しそうな顔してるし、妙に大人ぶってるけど、実際はちょっと風が吹いただけで崩れそうな、そんな弱っちい子供になっちまったんだろうが!


 ……ったく、私には関係ねぇよ。


 私はただのメイドだし、貴族の事情なんて知ったこっちゃないし、関わるつもりもねぇし。契約が切れる5年後にはこの屋敷を出ていくしさ。


 ……


 でもまあ、お嬢様に害がなけりゃ、こっちだって利用できるだけ利用するだけだよ。自己満足に付き合う義理はないけどな。


 それに比べたら、脅迫まがいの紙を突きつけてくる連中よりはマシだろう。


 私はポケットから何枚かの紙を取り出した。これは自分の部屋のドアの隙間に挟まれてたやつだ。


『専属メイドになったくらいで偉そうにしないでよね!』

『お嬢様に選ばれたからって、わたくしたちより上だなんて思わないで。』

『半人前のくせに調子に乗るな。』

『獣人の匂いが臭いわよ』


 ……などなど、いかにも幼稚でくだらない言葉が並んでいる。


 まあ、書いたやつの顔なんて、匂いで大体見当がつくけどな。

 お嬢様が不在だし、私も暇だし、だからこれらの紙をわざわざ残したんだよ。

 だって、仕返ししないなんてもったいないだろ?


 私は頭の中で今晩の悪戯の計画を練り、ククク…と喉を鳴らしながら笑みを浮かべた。鏡を見なくても、自分の顔が興奮に歪み、凶悪な表情になってるのが分かる。



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