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やり直し令嬢は箱の外へ、気弱な一歩が織りなす無限の可能性~夜明けと共に動き出す時計~  作者: 悠月


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31 令嬢は冒険者ファミリーに入る

 城下町へ出掛けた翌日、私は体調を崩し、熱で床に伏せることになった。もともと丈夫ではない自分の体を嘆き、ライラが用意してくれた薬のおかげで、なんとか三日で回復することができた。


 そして、回復したその夜。

 静かな部屋の中、窓を開けて、月を眺めている時、スズが散歩から戻ってきた。珍しく何かを咥えていて、近づいてくるとそれを私の前に置いた。


「これは……?」


 それは一枚の紙だった。広げてみると、冒険者ファミリー『妖精の円舞曲(ワルツ)』の登録用紙であることが分かる。


「これを私に書いてほしいってこと……かしら?」


 スズに問いかけたが、彼はただ黒い目でじっと私を見つめているだけで、何も答えてくれなかった。


 仕方なく、私は戸惑いながらも用紙を持って勉強机に置いた。魔導ランプを書き物にいい光量に調整してから、机に置き、ペンを持って、紙の内容を確認する。

 名前、年齢、得意な属性、魔力量や冒険者としての志望理由などなど……


 冒険者たちを支援する組織として、<冒険者ギルド>が存在している。ギルドは、冒険者の登録や依頼の仲介、情報提供、初心者の指導、交流の場の提供など、多岐にわたる役割を担っている。

 冒険者たちは、任務の内容や目標の規模に応じて、さまざまな形で仲間を集めている。よく見られる形としては、短期的な目標を達成するための数人単位の<チーム>、そしてクエストが大規模になったり、長期的な目標を追求する場合には、固定メンバーで<パーティー>を組むことが多い。

 さらに、強い信頼と目標を共有する共同体<ファミリー>という形も存在する。ファミリーは、意気投合した冒険者たちが集まり、血の繋がりはなくとも、時には実の家族と同じように安心感や帰属意識を提供し合う、特別な関係を築くことができると言われている。


 以前、ヴァルハン村で冒険者ファミリーについて紹介された時、少し心が揺さぶられたのを覚えている。しかし、魔物退治や戦闘など、到底自分にはできそうにないと思って、冒険者になる選択を断ったのだった。

 戦うなんて怖いし、自分には縁のない世界だと思っていた。


 私は目の前の登録用紙を再度見つめる。


 ――怖い!


 私はバカだ、アリスティア様にお願いする時、もっと自分の要求を明確にするべきだった。

 そう、こう言うべきだった――「植物魔術が使えて、薬草に詳しく、魔力量がレベル8以上の魔術師の先生」と!


 いいえ、やはりダメだ。レベル8の植物魔術を専攻する魔術師なんて、今は存在していないのに、それでは逆に恩人に無理を言っているだけではないか。


 どうしよう……

 私はお母さんの願いで、薬師になりたいとは思ったが、冒険者になりたいとは一言も言っていないが……

 魔力量を上げたいとは考えているが、冒険者のような危険な仕事に就きたいわけではない。


 どうしましょう……

 スズが持って来たということは、これはアリスティア様の弟子、シズさんが決めた事だよね。前おお話した、私の今後の訓練メニューの一部かもしれない。


 私がいろいろと葛藤している時、ふと一つの考えが浮かんだ。


 ――『前線』に出ることなく、サポート役なら、私にもできるかもしれない?例えば、薬師として?


 そう思うと、目の前に隠れたドアが見つかった気がして、ほんの少し決心がつける。


 不安を感じつつ、私は再び視線を登録用紙の一覧表に向ける。しかし、すぐに困ったことがあった。中には何を記入すればいいのか分からない項目がいくつかあった。

 もし何か参考にできるものがあればいいのだけれど、こんな夜遅く、ライラも寝ているだろうし、明日になってからライラに意見を尋ねてから書いたほうがいいのかしら?


「チュン、チュンチュン――」


 ながなが書けない私に、スズが催促するように声を上げ、丸い体で私がペンを持っている手に押し寄せてきた。


「今日中に書かなければならないの?」


 私の言葉を聞いたスズは、愛らしく首を傾くだけで、又ふわふわとした体を私の手に押し当ててきた。

 慣れない温もりに私は思わず手をずらして、スズから離そうとしたが、彼は離してくれない。


「分かりました、スズ、今から書きますから」


 彼にそう言うと、スズはやっと体を離し、用紙の隣にちょこんと座って、じっと私の手元を見詰めている。

 文字が読めないはずなのに、こんなにも真剣に見ているのが、内心少し微笑ましかった。


 こうして、スズの監視下で、私はかろうじて自分の考えをまとめながら、必要な項目を書いた。

 書き終わり、内容を再度確認する前に、スズは素早く、まだインクが乾いていない紙を咥え、私が反応する暇も与えずに、羽を広げて外へ飛び立ってしまった。


「えっ?ちょ、ちょっと待ってください!スズ!」


 慌てて声をかけるも、スズは返事をせず、夜の闇へと姿を消していった。その飛び去る方向は多分シズさんのところだろう。


 あっ、あの紙の第3問と第7問、やはり修正したかったのに、もし意味が書き間違えていたらどうしよう……

 それに、サポート役としでも、本当に私にできるのか、そもそも冒険者ギルドは魔力量がレベル4以上の人が入る場所ではないの?私は今レベル2で、役立たずだよ。


 あああああ、冷静に考えると、やっぱり急ぐべきではなかった、ライラに意見を尋ねたほうがいいのだ!


 不安を抱えたまま、私は窓を少し開けて、スズが途中で紙と一緒に戻ってくるのではないかと、少し期待して、ベットで窓を眺めながら、次第に睡魔に抗えず、眠りに落ちてしまった。

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