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短編

すやすや

毎週、水曜日に短編小説を、木曜日に長編小説の追加エピソードを投稿しています!

それぞれシリーズにまとめてありますので、よろしければ読んでみてください!

短編小説は仲良しカップルの日常系ラブコメが主ですが、たまに獣人とかも出てきます。


作品における既存のエピソードが更新されることがありますが、理由は誤字脱字及び細かな表現等の修正です。

作品の内容が大きく変わることは原則ございませんので、ご安心ください。

 彼が眠っている。

 最近、暑いからだろうか。

 お腹だけに毛布を掛け、横向きで丸まって寝ているのが非常にかわいらしい。

 ところで、私の恋人は眠りが深い。

 そのため、一度眠ったらなかなか起きない。

 それは小さな地震程度ではピクリともせず、お尻を揉んでも何も気がつかないほどだ。

 しかも、睡眠時間もかなり長い。

 現在の時刻は午後四時を回っているのだが、昨夜、私達が眠ったのは午前二時頃だ。

 ザックリ見積もって十四時間以上の睡眠。

 眠りすぎだ。

 どう考えても眠りすぎだ。

 私だって睡眠時間は長めだが、それでも昼には起きたぞ。

 彼だって、もう少し早くに起きてくれても良くないか?

 しかも、二日連続だぞ?

 というか、休日はほぼ全部こうだぞ?

 土曜日は日々の疲れを癒すのに消費してしまったとしても、日曜日まで睡眠で消し飛ばすことは無くないか?

 せっかくの休日を恋人と過ごしているのに、イチャついたりイチャついたりイチャついたりできないのは非常につまらないが?

 起きてくれないと暇すぎるが!?

 私は彼の丸くてモチモチで愛らしいお尻をスウェットの上からガシッと鷲掴んだ。

「起きてよ~! 一緒にお菓子食べたり、動画見たりしようよ~」

 ダル絡みをし、シッカリと両手で掴んだまま左右に揺らすが、もちろん彼はうめき声の一つも上げない。

 いつも通りだ。

 いつも通りなのだが……

『え? 生きてるよね?』

 あまりにも無反応だから不安になって、私はチラッと彼の腹を見た。

 腹部が浮き沈みをして灰色のスウェットを押し上げているから、一応は呼吸をしているようだ。

 ホッと安心すると同時になんだかムッとした感情が湧く・

 ムニッと頬を摘まんでみたが、やっぱり起きない。

「ねえ、起きないと悪戯するよ? ねえ」

 ツクツクと腰をつついても彼は熟睡したままだ。

 ただ、それでも寝ながらにして煩わしさを感じたのか、彼がゴロンと寝返りを打った。

 そうすると投げ出された腕と胸の間に小さな空間ができる。

『私が入り込んでもいいけど、場所が小さいな……』

 三分の熟考の末、私は体長六十センチくらいのシャチのぬいぐるみを取り出し、癒しの隙間にねじ込んだ。

 勢いあまってシャチの尖った鼻の部分がモフッと彼の顎にぶつかる。

 ようやく彼は少しだけ反応を示して、

「ん? ん~、なんか縮んだ?」

 とムニャムニャ寝惚けると、モソモソと動いてシャチの真っ白い腹の部分に顔を埋めた。

「ヒンヤリスベスベだ。やわらか……」

 そうだろう。

 そのシャチは対夏仕様で、触れた者の身体を冷やす特殊な布が使われているのだから。

「ん~、ん、ふへへ……」

 彼はその後もグリグリと顔を押し付け、口をモニャモニャとさせた後に穏やかにn度寝をする。

 彼は眠る時に私の胸か腹に顔面を埋めるという可愛い癖があるのだが、まさかそれをシャチ相手にやったんだろうか?

『シャチのことを私だと思ってるみたいだし、なんか、そんな気がする。かわいいけど、なんか照れちゃうな』

 彼に甘えられると、かわいい! 最高だ! と抱き返したりキスをしまくったりしている私だが、一連の彼の行動は疑似的にカップル間のイチャイチャを可視化されたようで恥ずかしかった。

 頬が少しだけ熱くなる。

 あと、自分で抱かせておいて何だけれど、少しシャチが羨ましい。

 そこは私の場所だが!?

 ぬいぐるみ風情が奪っていい場所ではないが!?

 私も甘えられたいし甘えたいが!?!?

『シャチが私の彼を奪えると思うなよ!!』

 鋭い目つきで私にマウントをとってくるシャチの尻尾を掴み、思い切り引っ張って彼の腕から強制退場させると、その辺にポスンと投げ飛ばす。

 それから意気揚々と温かい隙間に己の身体をねじ込んだわけなのだが、何故だろう。

 彼の反応が芳しくない。

 彼は微妙そうな表情になり、

「ん? ん~……ん~……」

 と、私の胸の間で呻いている。

 どうした?

 私の胸は好きじゃなかったか?

 いっつもは自分から入りにくるだろ。

「……あつっ」

 ボソッと文句を言うと、彼はペッと私を弾いて置き去りにし、シャチの腹に顔面を埋めに行った。

 ヒンヤリシャカシャカな生地に、えへへと笑う彼は至極幸せそうだ。

『寝取られた! ヒンヤリシャチごときに私の愛しい彼が寝取られた!!』

 ショックである。

 ペッと捨てられたことも合わせ、非常にショックである。

『思い返してみれば、冬場は湯たんぽが仕込まれたフカフカペンギンに寝取られたし、今よりも暑くなるとでっかいヒンヤリアザラシとシロクマの氷枕に寝取られてる!! 寝取られ過ぎだろ! 私! というか、夏は私も暑いからあんまりくっつきたくないし、私用のクマとアザラシもいるから寝取りを許可するとして、冬はペンギンじゃなくて私を抱っこしなさいよ、私を!! 私の体温は結構あったかいわよ!!』

 まあ、だからこそシャチに癒しの空間を奪われたのだが。

 私は口角を上げてギザギザの歯を見せつける好戦的なシャチをギロリと睨みつけた。

『そうでしょうね、そこはさぞ気持ちが良いでしょうね。退けなさいよ! そこは私の場所! 私が入って癒されるのよ! 海のケダモノがいて良い場所じゃないの!!』

 シャチは逆さになって抱きしめられているので、尻尾が彼の頭に乗っかっており、胸元には頭がきていた。

 私はガッシリとシャチの顔面を鷲掴み、ギュウギュウと引っ張り始める。

 しかし、彼が両腕でガッチリとホールドしている上に顔面を押し付けているからか、今度は上手く抜き取ることができない。

 グリグリと捻じりをくわえても無駄で、シャチの顔面が残念なことになってしまった。

『シャチがシワシワになっちゃった。ごめんね、シャチ。でも、寝取ったことは許さないからね』

 謝罪をしつつ腹いせにシャチの鼻を摘まむ。

 威嚇とファイティング精神を忘れぬ心。

 大切だ。

 さて、シャチと無駄に争ったせいですっかり疲れてしまった。

「暇だよ。せめて癒されたいよ」

 疲弊した私はポテンとベッドの上に寝転がり、腹チラが魅力のお腹に顔を埋める。

 こうしてみると、彼が腹に顔を押し付けてくる気持ちがよく分かる。

 スベスベの人肌は最高に気持ちが良い。

 耳を押し当てるとお腹の音が聞こえたり、ゆっくり浮き沈みするのも最高だ。

『彼のあったかツルツルボディ。へへ、シャチごときには得られまい。これが人間様の力よ。お前はせいぜい彼に抱きしめられ……やっぱり抱き締められてるの羨ましいな』

 微妙にマウントをとるのに失敗しつつ、生温かい皮膚に頬をくっつけて瞳を閉じる。

 そうすると、五分もしない内に私はスヤスヤと眠ってしまっていた。

 そこから約三十分後。

「あつ……」

 彼がモソモソと文句を言いながら起床した。

「え? なんでシャチがいるの? そして、何故彼女が俺の腹に?」

 コテン、コテンと首を傾げる彼がモゾリと上体を起こす。

 お昼寝感覚で眠りが浅かった私は彼と同時に目を覚ましてしまい、のんびりと薄目を開けた。

「おはよう」

 のんびりと挨拶をしつつも中途半端に眠ったせいで眠気がせり上がり、二度寝をしたくなってゆっくりと瞳を閉じる。

 すると、彼がポフンとシャチを頭にのっけた。

 彼の体温で温まってしまっていて、シャチのお腹は全く冷たくない。

「ぬるいね」

「ん? うん。ねえ、そろそろ起きたら? 俺たち、けっこう寝たでしょ」

「それ、貴方が言う? ぜんぜん私のセリフなんだけど」

「どういうこと?」

 すっかり目を覚ました彼がモニモニと頬を弄ってくる。

 起きなよ、と腰を擦ったりしてくる。

 これだよこれ!!

 私はこういうやり取りを昼くらいからしまくって心を癒し、明日から始める平日に向けて気力を溜め込みたかったんだよ!!

 私は込み上がる笑いを噛み殺すと、夕焼けチャイムと共に体を起こした。

私は眠るのも、眠っている人を眺めるのも好きです。

ただ、自分が起きてると一緒にいる人にも起きててほしいな、という贅沢な気持ちも湧いちゃったりします

(;^ω^)


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