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ダクスの女神  作者: 森松一花
第7章
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第111話 白き屍 Ⅱ

 大天使の話を聞き終え、アリスは聖堂を後にする。

 頭を強く殴られたような大きな衝撃を受け——一人、呆然ぼうぜんと空を見上げる。


「そうだ……エクス……エクスを、止めなきゃ……」


 思い出したようにつぶやき、重い足を前に進めようとする。

 だが、身体が自分のものじゃないみたいに動かない。焦る気持ちはあるものの、頭の中は、ある考えで一杯だった。


 ——彼を、どうしたら、救えるだろうか。


 考えてみても、何も浮かばない。

 そんな自分が情けなく、じわりと目頭が熱くなる。


(駄目! 自分にできることを、やらなくちゃ!)


 アリスは自身の頬を強く叩き、前へと進む。

 城の裏庭へと戻ると——裏庭の中央に、人影があるのが目に入る。


(……? 誰かがいる? 見張りの騎士が、出てきたのかな?)


 アリスが近くに寄ると、人影はアリスに向かって言葉を発する。



「良い夜ね。そう思うでしょう……お姫様?」



 月光を受けて青く光る白い隊服に、ふわりとなびく漆黒の長髪。

 風に舞う、白い花びらの中で微笑む、圧倒的な存在感。

 見間違えるはずもない。この人は——


「シンシア……様……?」


 アリスが名前を呼ぶと、シンシアはあやしく微笑む。


「待っていたのよ、お姫様。なんとなくだけれど、貴女は、ここに来るんじゃないかって思っていたの。ただの、野生の勘? だけどね」


 口調は優しいが、シンシアから感じる空気が、どこか張り詰めている。


「お会いできて光栄です、シンシア様。でも、私、急いでるんで……またの機会に」


 礼をして、さっさと横を通り過ぎようとした瞬間——

 シンシアの天使武器が、ひゅん、と、前髪をかすめる。


「……シンシア、様?」

「酷いじゃない、お姫様。折角会えたのだから、もっとお話をしましょうよ」


 全身から、血の気が引いていく。

 剣を抜かれたという衝撃を押し殺し、シンシアへと笑顔を向ける。


「あの、シンシア様。私、本当に急いでて……」

「駄目よ。貴女を逃がせない。だって、『天使のお告げ』ですもの」


 シンシアの細く美しい長剣の切っ先が、アリスの喉元に向けられる。


「元王都騎士団ダリア隊……故・アーサーが娘、アリス。ベアトリーチェ王妃殿下の殺害に関与した罪により……今、ここで排除するわ」

「へ……? 何が——」


 アリスが聞き返す間もなく、シンシアの剣が振り抜かれる。

 間一髪で避けるが、今の攻撃——間違いなく、アリスを殺そうとしていた。


「ど、どうして私を殺そうとするんですか!? シンシア様!」


 シンシアと距離を取り、声を荒げる。


「知らないわよ。天使のお告げが、貴女を殺せと言っていたの」


 身体を斜めに傾け、にらむようにこちらを見るシンシア。


「私、ベアトリーチェ王妃殿下を殺してなんかいません!」

「貴女の主張は聞いてないの。天使がそう、命じたのだから」

「大天使が命じるハズがないんです! だって、大天使はもう——」


 再び、シンシアの剣がアリスへと迫る。

 頬に、ぴりりと熱を感じる。シンシアの剣先はアリスの頬を掠め、わずかだが、血が流れ出てくるのを感じる。


「もう一度言うわ。貴女の主張は聞いていないの。私は王都騎士団、リリウム隊隊長、シンシア。『天使のお告げ』は絶対……よって、貴女を、殺すわ」


 有無を言わさぬ、感情の解らない黒い瞳。

 その迫力に圧倒され、アリスは自然と後退る。腰に付けた、オーロラから授かった天使武器に——手を掛ける。

 そんな姿を見て、シンシアは心底、嬉しそうに笑う。


「いいのよ? 抜きなさい、抗いなさい。そうでないと……弱いもの虐めをしているみたいで、楽しくないものね?」


 長い黒髪が、ゆらり、と揺れる。


「……シンシア様、どいてください。私、シンシア様と戦うつもりはありません」

「駄目よ。ここを通りたかったら、私を殺してから行きなさいな……!」


 そう言い放ち、シンシアが飛ぶように斬りかかる。


「ちっ……!」


 アリスは天使武器を抜き、シンシアの剣を受け止める。


「ああ、お姫様。懐かしいわね。貴女とは一度、剣を交えたことがあったわね。私、あの時から、貴女とはいずれ、こうなるんじゃないかって思っていたの! こうやって……殺し合いをすると思っていた……!」


 シンシアに押し負け、アリスは体勢を崩す。

 迫りくる追撃を紙一重でかわし、シンシアへと向き直る。


 二人の間を、風が吹きすさぶ。

 裏庭に植えられた白い花が、雪のように舞い上がる。


「ふふ……ふふふ……良いわ、良いわね、楽しくなってきたじゃない、ねえ?」


 長身を屈めて、シンシアはくつくつと笑う。

 その姿は、清廉潔白なリリウムとは程遠く——血に飢えた、獣のようだった。



「さあ、私と勝負しましょうか……お姫様?」


お読みいただきありがとうございます。


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