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ケモミミのサーガ  作者: 楠井飾人
Eposode I:逆境の勇者
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第25話:言葉(やくそく)②

 その後シーは、時間を忘れて千年前の話をウィータに聞かせた。


 話の中心はやはりベオウルフの事だ。ベオウルフとの冒険であった様々な出来事や、出会った人達の事……その旅の中で立てた功績の中で、気付いたらデネ帝国の皇帝になっていた事、ベオウルフには『エリザ』という一人娘がいた事——。


 『ベオは案外、アホで親馬鹿でただの戦闘狂(バーサーカー)だったぞ』

 『……うぇ、そうだったの……?』


 その話をした時はちょっとショックを受けていたが、シーの話の一つ一つに一喜一憂するウィータの反応は、彼にとっては見ていて気分の良いものだった。


 だからという訳では無いが——。


 おそらく自分は、ウィータの事が思う以上に気に入ってしまっている、と。


 内心に浮かんだ親愛に近い感情を、シーは自覚した。


 彼女が天狼族だからだろうか? いや……違う。どこか影のある魂の中に、確かな強い芯を感じるのである。何があっても折れない、どんな状況であっても諦めない……ベオウルフと同じ(・・・・・・・・)大英雄の資質を(・・・・・・・)


 ある意味、ウィータと契約してしてしまったのは必然だったのかもしれない。


 「——そして、長い旅の果てに……ついにオレ達は邪神ウルを退けた訳だ! ……まぁ、倒せてなかったから今こうしてウィータと契約した訳だけどな」

 「おー、めでたしめでたし……?」

 「じゃないな。これから始まる」

 「じゃあ、はじまりはじまり?」

 「そうだけど……フフっ、何だそれ」


 ウィータの反応がおかしくて、ついシーは笑ってしまった。


 すると、視界の端に既に空になってしまったシーフードの大皿が入る。辺りを見回すと、既にラッセルの都市からランタンの明かりが消え始め、ボンヤリとした月明りが自分の存在を主張し始めていた。


 「——と……結構話し込んでたな。パーティーもそろそろ終わるだろうし、オレ達も部屋に戻るか?」

 「え、ヤダ! それはのんさーだよ、シーちゃん!」

 「の、のんさー?」

 「良くないってこと! もっとベオウルフのお話聞きたいよ!」


 「シーちゃん! シーちゃん! シーちゃ~~~ん!」と、オレの両手の肉球をぷにぷにしながら駄々を捏ねるウィータ。……まだウィータは病み上がりである。本当ならば、まだ寝込んでいて欲しい位なのだが——まぁ、今日くらいならいいだろう、と。


 「仕方ないなぁ……」と、溜息交じりにシーは話を続ける。


 「……じゃあ、あと一つだけだぞ?」

 「あいさー! ありがとシーちゃん!」


 「うぉっほん……」と咳払いを一つし、シーはベオウルフの話を続けた。


 「……アイツさ、良く言ってたんだ。いつか邪神ウルを倒したら『自分たちで救った世界を見に行きたい。それが夢なんだ』って。冒険は好きだったからさ、アイツ。……まぁ、皇帝になる前の話だけど」

 「……?」

 「皇帝になったら国を治めなくちゃいけないだろ? アイツはもともと親父さんが皇帝でな? 邪神討伐に名乗り出たのも、後を継がせる為に功績を作らなくちゃいけなかったからなんだよ。アイツは旅の途中で功績が認められて皇帝になったけど、それ以降は夢を語れなくなったんだ……重責だったからな、皇帝は」

 「そうだったんだ……たいへんなんだね、王様って」

 「まぁな……皇帝——っていうより、皇族には国を治める強い責任と義務があったんだ。特にデネ帝国は阿保みたいに種類が多い獣人達を武力で一つに統合した国だったから、生半可な覚悟じゃ務まらなかった。……ベオの一人娘だったエリーちゃんも、似たようなもんだったよ」


 あの時だろう。ベオウルフがただの親馬鹿バーサーカーでいられなくなったのは。


 相棒の夢を聞くのが好きだったシーにとっては、相棒の大出世を喜ぶ反面……少し悲しい思い出でもある。


 「ねぇ、シーちゃんは?」

 「え……?」

 「シーちゃんの夢はないの?」


 その時だった。シーが過去の感傷に浸っていると、ウィータが子供らしい純粋な瞳でそう聞いて来る。しかし、その唐突な質問に彼は言葉に詰まってしまった。


 (オレの夢……。考えた事も無かったな)


 シーは——変身の大精霊シーは、邪神ウルを倒す為だけに誕生した精霊だ。


 その使命だけを胸に生きてきた彼にとって、夢なんてものを見ることそのものが夢のようなものだった。だから、自分の夢を考えた事なんて——


 ——『だから——これからも旅を続けようぜ……相棒……っ!』


 ふと、千年前にベオウルフの最期を看取った記憶が脳裏を過った。


 「……、……オレも、ベオと同じ夢を見ていたと思う」


 ポツリと、そんな言葉が漏れた。


 「自分たちがすくった世界を見に行く……ってやつ?」

 「あぁ……でも、その夢はオレ一人じゃダメなんだ……。ベオと一緒に見たかったんだ……だから、もう叶わない夢だ」

 「……」


 そう。いま思えば、自分にも夢はあったのだろう。


 ベオウルフが皇帝になった時に捨ててしまったのであろう夢を、きっとシーも一緒に見て見てみたかったのだ……掛け替えのない相棒であるベオウルフと一緒に——。


 「……、……わたしもね、夢があったんだ。友だちと約束したの。『外の世界を見に行こう』って……『外の世界は、きっとわたしたちが知らないものにあふれてる……だから、それを見に行こう』って」


 数秒ほどの沈黙の後、重苦しい空気感を破るようにウィータがポツリと話し始めた。シーの事を気遣うように話し始めた彼女は、次の瞬間、何かを思いついたようにシーの脇に両手を回し、空に向かって抱きかかえる。


 「——ねぇ、シーちゃん! わたしといっしょに見に行こうよ!」


 そして、太陽のような笑顔でそう言った。


 「わたしはベオウルフの代わりになんてなれないけど……それであきらめちゃうのなんてダメだよ。ここはシーちゃんたちがすくった世界なんだから!」

 「……ウィータ」


 シーの事を慰めようとしているのだろう。「代わりといっちゃなんだけど——」と前置きした彼女は、少しだけ茶目っ気のある笑みを浮かべた。


 「——シーちゃんも、わたしといっしょに『外の世界』を見に行ってほしい……かな?」

 「……かな? って何だよ……かな? って……」

 「……自分で言っておいてアレだけど、ちょっとはずかしくなってきました」

 「何だそれ……」


 少し頬を赤くして語るウィータが、シーを柵の上に下ろす。


 キッチリ決まらないそんな相棒の姿が何だかおかしくて、シーは僅かに微笑んだ。


 「……いいのか? ウィータがベオの代わりになれないのと一緒で、オレもウィータの友だちの代わりになんてなれないぞ?」

 「ふっふっふ……ぐ問だね、シーちゃん? わたしたちエースヴィアの天狼族には、こういう言葉があるのです——『旅は道づれ、世はなさけ』……」

 「答えになってないぞ。つーか、エースヴィアにそんな言葉なかっただろ」

 「あれ……? そうだっけ……?」


 天然か、それとも狙っているのか……面白い事を言おうとして滑った感じになったウィータは、やってしまったという風に口元をへの字に曲げる。右往左往する彼女をフォローするべきか悩んだが、シーは「まぁ、いいや……」と口を開き、言葉を続けた。


 「——いいぜ。それじゃあ、約束(・・)だ! これから一緒に世界を見に行こう……改めて、よろしくな? 相棒!」


 そう言ってオレはウィータの前に前足を突き出した。


 すると、嬉しそうに微笑んだ彼女がシーの肉球に手を合わせる。


 「うん……約束だよシーちゃん。ちゃんと守ってね? ——“約束(ことば)はいつか、運命になるんだから”」


 少しだけ距離が縮まった気がしたのは、きっと気のせいではないのだろう。その瞬間、確かに……シーの魂の奥に今まで刻まれていたベオウルフという相棒の他に、ウィータという存在が根を下ろし、そして芽吹いたのだ。


 その小さな芽吹き——ほんのりとした淡い満足を胸に、シーは一つの決意をした。


 この子はこれまで、自分が思う想像以上に辛い経験をして来たのかもしれない。


 世の中には同じ喜びはあれど、同じ悲しみというものは無いものだ。


 彼女がして来た悲しみを軽々しく分かるだなんてことは言えないけれど、せめて隣で分かち合う事が出来るのなら、契約精霊として……いや、相棒(・・)として、この子の隣に居てあげよう、と——。


 「見つけたぞ……クソガキ」


 ——正に、そう決意した次の瞬間の事だった。


 悪逆の傭兵ハンス・シュミットが姿を現したのは。

次の更新は4月8日6時30分頃です。

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