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ケモミミのサーガ  作者: 楠井飾人
Eposode I:逆境の勇者
17/57

第14話:一難去って、また一難……?

 時刻は夕暮れ時を過ぎた頃。


 ラッセル東区にある中央通り(メインストリート)は、今日も道行く人々で賑わっていた。別名、職人達の通り道マイスターズ・ストリートとも呼ばれている通り、この大通りには様々な職人や仕事人たちの工匠ギルドや、業種を問わない色々な職業人たちのギルドと、それに関連する露店が立ち並んでいる。


 しかし、連なるように続く賑わいを辿って行くと、その大通りの終着点にあるのはそれら雑多な空気感とは異なる厳粛とした建物(ロッジ)だ。


 ラッセルの最東端に立つ壁面が白塗りのその巨大な建築物は、その名を公職ギルドといい……議会の下部組織であり、この都市のインフラなどを担う職業人たちが所属する公共の同業組合として、日夜ラッセルに住まう人々の生活を支えている。


 ——シー達は現在、その公職ギルドのロッジ内の一室にいる。


 この一室が応接間という事もあってか、中には豪奢な調度品やインテリアなどが幾つか置いてあった。


 その格式高い雰囲気には内心で緊張していたシーであったが……ちょこんと縮こまりながら椅子に座り、表向きは平然を装っていた。


 「——と、いう訳で……俺様たちはこれから、仲間探しの旅に出なきゃならんって事なんだよ。ケケッ、少し理解してくれたか? お二方」


 そんな小心者な彼は反対に、慣れた様子で軽快に話すテメラリア。


 自己紹介も兼ねてシー達の事情を話して貰っているが……ディルムッドとジャンの二人の反応を見るに、どうやら彼に話して貰ったのは正解だったらしい。


 「ふむふむ……なるほど。つまり、そこの小さな狼が四大英雄のサーガに出て来る変身の大精霊シー本人で、小娘はその契約者と?」

 「……邪神ウルの復活ですか。これはまた、現実感の無い話ですね……俄かに信じ難い話ですが、あの伝聞と冒険の精霊(テメラリア)がそう言うのなら、そうなのでしょう……」


 二者二様の反応の示すジャンとディルムッド。


 話の内容に驚きと困惑を隠せない様子の彼らだったが、一応は事情に納得してくれたらしい。……少々間抜けなところがあるテメラリアだが、彼はそれなりに人間達の間でも有名な精霊である。物を知らない子供ならまだしも、ある程度の教養を持った大人なら、こうして彼の言う事を信じてくれるのだろう。


 ……勿論、彼らの反応を見る限り、完璧に信じた訳ではなく話半分、といったところのようだが——。


 「——ケケッ、他にも聞きたい事はあるだろうが……とりあえず、掻い摘んで話すとそんな感じだ。まァ、その反応を見た感じ……あんま信じてねェようだが?」

 「あー、いえ……」「……まぁ、確かに信じきれはせんな」


 やはりか、と。シーは内心で得心する。実際、現代にまで伝わっているシー達の冒険譚——四大英雄のサーガに置いて、邪神ウルは千年前に倒された事になっている。


 ただでさえ千年という昔の出来事の話なのに、既に倒された事になっている存在を警戒しろと言っても、あまりピンとこないのが普通であろう。


 「——着替え終わりましたよ!」


 その時だった。ガチャリと、部屋の扉が開く。


 扉の外からカルナの声と、二つの足音が響いた。足音の一つはカルナだが、もう一つの足音は子供のものだ。カツカツ……カツ、カツ……と、どこか恥ずかしそうに、躊躇いがちな足音を響かせるその主は、ゆっくりとその姿を現す。


 「……」

 「ふっふっふ……正直言って、自信ありです」


 何故か得意気に胸を張るカルナの後ろから現れたその足音の主——ウィータは、恥ずかしそうにモジモジとする。その姿を見て、シー達の口から出た言葉は……「「「「おぉ~」」」」という、感嘆の声。


 「ケケッ……もっと胸張れよ、嬢ちゃん。似合ってるぜ?」

 「見違えましたね」

 「うむ。随分と獣人らしい装いになったな」

 「やっぱり天狼族には赤がピッタリだな!」

 「も、もう……! そんなにほめても何にも出ないからね! ……まぁ、でも、今日はたまたま、ちょっと、ぐうぜん気分がいいので、そのしょーさんを受け取ってもいい気がします……えへへ」


 シー達の誉めたたえる声に機嫌を良くしたのか、ウィータはケモミミとケモシッポを忙しなく動かしながら照れ隠しをした。すると、その肩に手を置き、ゆっくりとしゃがんだカルナが、まるで自信作を見せびらかすようにシー達を得意気に見て来る。


 「女の子があんな恰好じゃ醜聞が悪いですからね。苦労したんですよ? 獣人らしい衣装で、ウィータちゃんに似合う服装を選ぶのは」


 そう——。


 カルナの言う通り、ウィータの服装はこれまでの襤褸布とは違う物となっている。


 上半身を包むのは袖の短い白のブラウスと、赤を基調としたベスト。下半身には、黒いハーフパンツに合わせて刺繍の入った白いタイツ、そして黒いロングブーツを履いている。


 色々と目立つ事を控えて、ケモミミを隠すフード付きのクローク・ケープを上から羽織り、尻尾にはデネ帝国の伝統的な意匠が施された上に、しかもケモシッポを隠す為の認識阻害の魔法が掛けられた尾飾りの魔具が着けられていた。


 動きやすさを重視して男の子用のものを着ている為か、少しボーイッシュぽい見た目の中に、隠し切れない愛らしさが滲む見た目となっている。


 全体的に特徴的な刺繍が入っている為、民族情緒に溢れた衣装に見えるが……それもその筈。ジャン曰く、これは獣人の国であるデネ帝国の民族衣装であるらしく、デネ出身の獣人が良く着ている衣装なのだそうだ。


 どうやらシーの記憶にあるデネ帝国とは随分と変わったらしく、長い時間を掛けて幾つもの民族が融和して出来たデネ帝国という多民族国家の歴史を象徴して、数百年前に民間の間で作られた伝統的な衣装なのだとか何とか。


 よく見ると髪型も弄られており、長く伸び切っていた髪は肩口ほどにまでの長さで切り揃えられている。櫛で丁寧に梳かれたのか、枝毛の一つも無くなっていた——。


 「どうです? 可愛くなってでしょう? 自分的には、もう少し女の子っぽい恰好の方が良いかなーとも思ったんですけれど、あの戦いっぷりを見るに……やっぱり一番に重視するのは動きやすさかなーって思ったのでズボンにしてみたんです。……でも、それだとオシャレ感に欠けるし、ウィータちゃん素材いいですからその良さを活かしきれなかったんですよね……そ・こ・で! 寧ろ、ボーイッシュな服装はそのままに、髪型とかワンポイントのアクセサリーとかに力を入れて、カッコ可愛いみたいな感じを目指したんですけどどうでしょうか!!」

 「……(ドヤっ)!!」

 「「「「……」」」」


 何故か興奮気味に語り出したカルナ。片方の拳を胸の前で握り締め、彼女は瞳をキラキラさせながら問うて来る。当のウィータはというと、彼女の言葉を誇らし気に胸を張り、ドヤドヤした表情でシー達を見る——が、あまりにも唐突なカルナの早口に面食らい、シー達四人は固まった。


 その四人の反応を見て、カルナは暴走してしまった自分の失態に気付いたのか、キラキラした瞳はそのままに、無言で顔を赤くする。


 そんな彼女をフォローするように……「——こほん」と。


 咳払いを一つしたディルムッドが口を開いた。


 「あー……カルナ殿はとても素晴らしいセンスをお持ちのようですね。本来であればコーディネートの拘りをもっと聞きたいところですが……我々の事情をシー様たちにまだ話していませんので、またの機会に致しましょう」

 「す、すいません……つい……」

 「……お前は何をやっているのだ」

 「「……」」

 「……(ドヤっ)!!」


 ディルムッドのフォローに両手で顔を覆って謝罪をするカルナ。ジャンは呆れたように目頭を揉み、シーとテメラリアは苦笑する——。そしてウィータは、その微妙な空気が読めなかったのか、ドヤ顔を続けていた。


 「……では、ここからは私がお三方をここに招いた理由を説明します——」


 話にオチがつき、ここぞとばかりに真剣な面持ちに切り替えたディルムッドは、静かに語り出した。


 「——実はいま現在このラッセルは、大規模なギルド間闘争の危機にあります」

 「「「ギルド間闘争???」」」

 「はい……今ラッセル内では、エドモンド商会の商会長であるエドモンド・オズワールを中心とした商会派閥と、私を中心とした反エドモンド派の職人たちによって構成された職人派閥に分かれて、大きな対立が起きているのです」


 聞き慣れない言葉にシーとテメラリアとウィータの反応が重なった。


 「事の始まりは、エドモンド商会が地下で運営している違法な賭博時事業を拡大させる為に、議会で発言力のある権力者達を抱きこんだ事に起因します。……ウィータさんとシーさんなら、分かるのではないでしょうか?」

 「違法な賭博事業……? って、まさか!」

 「わたしがいたコロッセオ……?」

 「……えぇ、ご察しの通りです」


 シー達が驚きを隠せずにいると、彼は溜息交じりに言葉を続ける。


 「商会の長であるエドモンドは強欲な男でしてね……闘技場の事業拡大に飽き足らず、利益独占の為に議会員たちと共謀して議会への影響力を高め、市政運営を私物化し始めたのです。……おかげで不当に上げられた税収で職を失ったり、理不尽な法で敵対する同職ギルドが潰されたり、でっち上げられた罪で投獄される職人達が大勢いるんですよ」

 「……なるほど。状況から察するに、そのエドモンド商会を何とかする為に力を貸して欲しい……って感じか?」

 「えぇ……話が早くて助かります」


 シーがそう聞くと、ディルムッドが頷く。


 ……話を聞く限り、どうやらかなり面倒な事になっているようだ。


 話から察するに、ディルムッドは商会派閥と職人派閥の間で起きている対立が、都市を巻き込んだ血みどろの争いに発展する前に、何とかしてエドモンド商会を現在の立場から引き摺り下ろしたいのだろう。


 端的に言えば、全ての原因はエドモンド商会にある! 何とかしたいからお前らの力を貸してくれ! ということである。


 「この件を解決するにあたり、二つ懸念事項があります」

 「二つ?」

 「えぇ……一つはエドモンド・オズワールの後ろ盾——()についてです」

 「……ケェっ?」「……神が後ろについているのか?」

 「……かみさま?」


 ディルムッドの言葉にウィータがはてなマークを浮かべる。聞き慣れた言葉ではあるものの、この話のは流れで出て来るとは思わなかったのだろう。


 「エドモンドには魔獣闘技場を始めとした黒い事業の他にも、莫大な資金源があります。我々の独自調査により、それが何らかの神との契約によって齎されている事が判明しました」

 「神との契約……つまり、エドモンドは何らかの神の眷族って事か?」

 「えぇ、おそらくは」


 シーが確認を取ると、ディルムッドは曖昧な言葉とは裏腹に確信を持った様子で答える。


 「——ねぇねぇシーちゃん?」

 「ん?」

 「かみさまのけんぞく……? ってなに……?」


 すると、二人の会話に割って入って来たウィータが、そう聞いて来た。シーは「あぁ……神の眷族っていうのはな——」と軽く説明を始める。


 「——まぁ、簡単に言うと神様と契約した人たちの事だよ」

 「かみさまと……けーやく?」

 「あぁ。神は俺たち精霊と同じように、人間と契約する事が出来るんだ。契約した人間は、不老不死になったり、契約した神の持つ力の結晶——『神器』を貸し与えられたりする事が出来る」

 「ケケッ……もし、エドモンドが本当に神の眷属だってんなら、相当にクソ面倒くせェ限りだぜ」

 「えぇ、全く。同感です。おかげで買収された議会員が多過ぎましてね……証拠は出揃っているというのに、現行法では奴を裁けないのですよ」


 はぁ~……と。大きく溜息を吐いたディルムッドの表情は、本当に疲れた様子だった。凛とした彼の態度からは想像できないその様子に、どうやら本当に苦労している事が伝わって来る。


 それを子供なりに察したのか、「……ぎちょーさん」と、少し気遣ったように声のトーンを和らげながら、ウィータが遠慮がちに問い掛ける。


 「そのぉ……もし、本当にかみさまが敵に回ってるなら……わたしたちにできることって……あるんですか?」

 「ケケッ……確かにな。神が相手なら、俺様たちが味方したところで大して変わらなそうだが。話を聞く限り、荒事で解決すわけにもいかねェんだろ?」

 「問題ありません。対抗手段は用意してあります」


 ウィータとテメラリアの言葉に、ディルムッドは強く言い切った。


 「ウィータさんには二週間後に開廷されるエドモンド・オズワールの違法闘技場運営を中心としたその他の犯罪に関する裁判で、奴の罪を立証する為の証人になって欲しいのです」

 「おいおい、子供に証人をやれってのか……? アンタ達の話は分かったが、いくら何でも子供の証言を真に受けるほど裁判は甘くないだろ……。それに、さっき言ってたじゃないか? 現行法じゃ裁けないって」

 「——いえ(・・)可能です(・・・・)。今回の裁判はただの裁判ではありませんから」

 「……ただの裁判じゃない?」

 「はい。目には目を、歯には歯を、神の力には神の力(・・・・・・・・)をぶつけます。今回、我々がエドモンド・オズワールに対して行う裁判は、神の力の結晶——『神器』を用いた神明裁判なのです」

 「……! なるほど、その手があったか……!」


 ディルムッドの口から出たその単語を聞いて、シーは納得がいった。


 ——かつてシー達が打倒した邪()ウルが実在の存在であったように、この世には神という超常の存在が実在している(・・・・・・)


 宗教や神話で語り継がれるような架空の存在や偶像としての神ではなく、他の生命たちと同じく肉の身体を持ちながら、世界の法則を越えた現象を引き起こす事が出来る超常の存在として、神は極々当たり前の存在として生きているのだ(・・・・・・・)


 限りなく精霊に近い存在である彼らは、当然、年も取らず、死ぬことは無く、霊子(マナ)を失う事が命を失う事と同義であり、人間たち(・・・・)とも契約を交わす(・・・・・・・・)


 精霊の親戚のようでありながら、精霊よりも格上の存在——。


 それこそが、神である。


 『神器』とは、そんな彼ら神の力の結晶であり、それぞれの神が司る事象を具現化させた宝具の事だ。それぞれ規模の大小はあれど絶対的な力を持っていることで知られ、古来より大きな悪事を裁く際は、特定の神の神器を用いた裁判——神明裁判を行う習わしがあった。


 千年前はこの程度の事で行われる裁判では無かったが、千年も経っているのだ……長い時間の中で、この位の悪事にも使われるようになったのだろう。


 「……神明裁判って事は、今回使われる神器はもしかして……ユースティア様の『善悪の天秤』か?」

 「えぇ、ご察しの通りです。あの神器は嘘を絶対に見抜きます(・・・・・・・・・・)。あれを用いた神明裁判であれば、例えそれが子供の発言であろうとも、それが嘘偽りの無い真実である限り、その発言には如何なる証拠にも勝る罪の立証となります」


 確かに、ディルムッドの言う通りである。


 正義と民衆の女神ユースティアの神器である『善悪の天秤』は、使い方によっては強力な権力を有する事が出来る神器である。嘘を百パーセント見抜く道具なんて物で質問されたら、まず確実に裁判に負ける事は無いだろう。


 ディルムッドがこれだけ強く言い切るのも納得だ。


 「——勿論、タダでとは言いません。私の力で議会の方にはウィータさんの手配書を取り下げさせましょう。議会の名の下に発行された手配書ではありますが……元々、議長である私の承認なしに発行されたものです……数日中には、手配書の欠片も見当たらなくなると思いますよ?」

 「「……!」」


 交渉のつもりなのか、ディルムッドが人当たりの良い柔和な笑みを浮かべて、そう言って来る。……今のシー達にとって、それはかなり魅力的な提案だ。思わずウィータと一緒になって、耳をピンと立ててしまう。


 正直、今すぐにでも、はいっ、証言します! と、頷いてしまいたい……。


 「(……ケケッ、不当な手配書を取り下げるって言われてもなァ~……マッチポンプにも程があるぜ。……が、正直悪くない提案だ。どうする?)」

 「「(……う~ん)」」


 シー達が決めあぐねていると、テメラリアが小声で聞いて来る。


 ディルムッド達に背を向けて小さく円陣を組んだシーたち三人は、ヒソヒソと作戦会議を始め——


 「因みに、受けてくれると言うのであれば、仲間探しの旅に必要な報奨金も用意しましょう。他にも私の権限が許す限りならば、色々用意しても構いません」

 「「「……っっっ!!!」」」


 ——ようとしたとした……正に、その瞬間だった。


 こちらの内心を見透かしたように、ダメ押しのオマケを提示して来るディルムッド。シー達が思わず、眼をぎょっとさせながら振り返ると、先程と変わらず柔和な笑みを浮かべるディルムッドの姿が……。


 くそっ、完璧に手玉に取られてる……!?


 「どうしますか? ご要望があれば、貴方がたの願いを叶える準備がこちらにはありますよ?」

 「「「……」」」


 返答を急かして来る彼の言葉に、シー達は黙る事しかできない。


 ……正直、悪くない話ではある。が、何というか、こう……話が上手すぎて、何か裏があるような気がしてならない。証言するだけでそれだけ破格の報酬を貰ってもいいのだろうか?


 「——あ、あの……一つだけおねがいがあります!」


 どうしたものか……と、手をあぐねいていると、応接室に漂っていた沈黙を破り、ウィータが緊張しながら口を開いた。


 意外にも大きな声だった為、シーを含めたその場にいた全員が彼女に注目する。少し俯いた状態で、裾を強く両手で掴んだウィータは、少し暗い顔をしながら口を開いた。


 「わたし……よーへい団に捕まって、わるい人たちに売り飛ばされた時に、大事なものをとられちゃって……わたし、それをどうしてもとり返したくて……! もし、それをとり返してくれるなら……! ぎちょーさんの、おねがいを聞いても、ダイジョブ、です……」


 徐々に尻すぼみ気味に声のトーンを落としたウィータは、最後にチラ、と上目遣いでディルムッドを見上げる。


 『大事な物』——というのが何なのかは分からないが、ウィータの反応を見る限り、余程に大事な物らしい。彼女の真剣な態度に圧され、その場の全員が無言で固まってしまう。


 「……」

 「……ダメ、です、か……?」

 「っ! いえ、問題ありません。議会の長ディルムッド・ラッセルの名に誓って、必ずや取り返してみせましょう」


 思い出したように力強く言い切ったディルムッドの言葉に、ぱぁ~! と、瞳を輝かせたウィータは、「ありがとうございます! ぎちょーさん!」と満面の笑顔を浮かべた。


 ……若干、向こう見ずに先走りし過ぎた感はあるが、ひとまずこれで、彼らとの話は終わりだろう。


 一段落着いた話を次へと進める為に「ケケッ——」と。テメラリアが特徴的な笑い声を上げながら、羽を広げてディルムッド達へと問い掛ける。


 「——話は纏まったみたいだな? ……それで? 俺様たちは具体的に何をすりゃァいいんだ? まァ、神器があるなら裁判までやる事なんて無さそうだが」

 「「「……(ギクッ)」」」

 「「「……?」」」


 さぁ、これからトントン拍子で問題解決か——。()思っていたが(・・・・・・)……?


 何故かテメラリアが問い掛けた瞬間、バツが悪そうに顔を逸らしたジャン、カルナ、ディルムッドの三名。


 あからさまなその反応にシーたち三人は、はてなマークを浮かべる。しかし、何となくその様子を見て、彼らは察してしまった。あ、もしかしたらもしかしなくても、これ確実に何か隠しているな……と。


 「……あー、その事なんですがね?」と、少し引き攣った愛想笑いを浮かべるカルナが前に出て来ると、歯切れの悪い口調で言葉を続ける。


 「実は……裁判までに一つ、最優先で解決しなきゃならない問題がありましてぇー……それが、さっきディルムッド様が話してた懸念事項の二つ目なんですけど……」

 「な、何だよ……問題って……?」

 「むむむ……わたしのケモミミが反応してるよ。すごくイヤな予感がする……」

 「……俺様のトサカも告げてやがるぜ。多分すげェ阿呆な問題だ、これ……」


 シー達三人はジトリと半眼を作り、警戒態勢を整える。


 「実は——」と、少し溜めを作ったカルナは衝撃の事実を告げた。


 「——その裁判で使う肝心の神器がですね……エドモンドに(・・・・・・)盗まれました(・・・・・・)

 「「「ダメじゃん!!!」」」


 シー達三人の声が綺麗に揃った瞬間だった。

『第二章・戦いの寵児編』はここまでで終了となります。

次回の更新は3月31日18時40分頃です。

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