人の親切を当たり前と思っている人に対する対処法
義母は洋服のお直し屋をやっている。店舗兼家には、お客様用の駐車スペースがある。
ある日、客でもないのに、駐車場を貸してくれと言ってくる者がいたそうだ。
「葬式がありますので、貸して下さい」
「ええ、ご町内の方?」
「いえ、〇〇地区の丸山ですが」
「ええっー、遠いし、知らない人だわ」
「この家は目印になりますから、ここに案内板をおいて、車を止めて、ピストン輸送します。明日には取りに来ます」
義母は、断ったら、
心の底から驚かれたそうだ。
「田舎なら、貸してくれるって聞きましたが」
「限度があります」
私の住んでいる田舎では、葬式があったら、町内の者は、弔問客に、駐車場を貸す風習がある。
しかし、あくまで、顔を見知っている人だ。
その人は、葬式会社か喪主かは、分らないが、人の親切を特権と勘違いしたみたいだ。
・・・・・
実は、我が社でも、そんな人がいた。
30半ばのおっさんで、形式上は、私の上司に当たる。矢木さんと言う。
奥さんが亡くなり、父子家庭になった。小3の息子さんがいるそうだ。
定時に帰りたいので、外回りから事務方に異動になった。
まあ、仕事は、定時に帰って、有給を消化するのは理想だ。
しかし、彼は、16時45分終わりなのに、30分から帰る準備をする。
仕事も新しい仕事は出来ない。
それに、頻繁に休むので、責任のある仕事はさせられない。
雑用だ。
しかも、その雑用を人に手伝ってもらおうとする。
「俺、字が汚いから、ファイルに名前を書くのを手伝って、ほら、女の子だと丁寧に書くでしょう?」
「はあ、ええ」
我が社では、紙のファイルを再利用するために、背表紙に鉛筆で項目を書き。
中の資料が用なしになったら、また、消して書くのだ。
まあ、再利用だ。
父子家庭。皆は、可哀想に想ってか、キツく言わない。
また、子供が急に病気になり。
突発で月に2,3回は休む。
まあ、これも、仕方ないのか?と私は疑問に思った。
何故なら、私も父子家庭で、病気になったときは、市販の薬を飲んで、親父が帰って来てから、熱が下がってないようだったら、病院に連れて行ってもらったのだ。
親父に看病なんてされたことはない。
そう言えば、不景気な時で、親父が家にいると、クビになったのかと不安に思ったものだ。
「父さん・・・会社、クビになったの?」
「馬鹿!有給だ!」
矢木さんの子供と、私は一世代違いだが、時代が変わったのかな。
と感じていたが、
ある日、その疑問が、確信に変わる出来事があった。
「昨日は大変だったよ。息子が、熱が出て・・」
私は、感じたことを述べた。
「コロナ検査した方がいいのではないですか?」
「ああ、行ってきた。駅前のコロナセンターだ。数日後には分るって言っていた」
あれ、おかしい。
「私も、行った事がありましたが、受付してもらえませんでしたよ。熱があると受け入れ拒否です。熱が下がってから来て下さいと言われました」
「いや、違った。病院に行ったよ。あのデカい総合病院で検査したよ」
「あの、私もそれで、その総合病院のサイトで確認したら、感冒は予約必要で、外での受診ですよ」
・・・私はその時は、靖子さんに車を運転してもらった。センターで検査を拒否されて、病院も予約待ちだった。
靖子さんが、気を利かせて、飛び込みで、個人病院に行って、直談判をして、当日予約無しで、
外で、受診してもらった。
病院の入り口に、イスを置いてもらって、そこで先生にみてもらって薬を出してもらったのだ。
そして、次の日には、熱が下がったので、コロナセンターで検査をしてもらって、その日のうちに、陰性の判定がでたのだった。メッセージで来た。
矢木さんの話とは食い違う。
もしかして、子供をだしにして、ズル休みとかしているんじゃないだろうか?
と疑問に思い。
そんな話を、外回りの人に聞いて見た。
彼は矢木さんと一緒に仕事をしていた同期だ。
「ああ、あれさ。怪しいのよ」
「どんな風に付き合ったの?」
「俺さ。野球が好きでさ。韓国でこんな話があるのよ」
国名を出して、あれだけども、同期は外国の話をした。
韓国のスタジアムで、ホームランボールを手にした青年が、もの欲しそうにみる子供に、ホームランボールをあげた事件があった。
「ほら、あげるよ」
「有難う」
通常、美談になるが、事実、美談になったが、すぐに、変な事態になった。
「「「チョーダイ!チョーダイ!」」」
しばらくして、子供が、手を出して、「チョーダイ!」と言いながら、ホームランボールを取った客を取り囲むようになったのだ。
恩恵が特権になってしまった。
「それと、この話何の関係があるの?」
「それがさ」
・・・・・
「「「チョーダイ!チョーダイ!」」」
頭に来た客は、
ポイッ
とボールをグランドに返したり。
「「「ヒドイ!」」」
また、ある人は、
「「「チョーダイ!チョーダイ!」」」
「・・・・・・・」
ボールをカバンにしまって、無視をした。
「つまりだ。恩恵を特権に感じる人には、無視か。捨てるかするに限るって話だよ。
俺も矢木さんにそんな感じで接したよ。
仕事は手伝わない。時間が余ったら、本当に頑張っている他の人を手伝うようにしたよ」
「まあ、やってみます」
・・・・・
仕事を手伝わない。
時間が余ったら、他の人を手伝うようにしたら、
矢木さんは独り言を言うようになった。
「今度の週末、運動会だから、キャラ弁を作らなきゃ。今のうちに仕込んでおいた方がいいかな」
「最近、物騒だから、児童館に早めに迎えに行かなきゃいけないな~」
無視をしていたが、
やがて、結構、児童虐待とも思える事案が判明した。
☆
あの病気がやや収まって、飲み会をしようと言うことになった。
忘年会だ。
少人数でやることになったが、
矢木さんが来た。
子供をつれて、やって来た。
幹事は悲鳴をあげる。
「ヒィ、矢木さん・・・子供の世話があるから、来なくて良いって言ったのに・・」
「大丈夫だ。夕飯をここで食べさせるから、勿論、俺が払うよ。おい、武、あの綺麗どころのところに行って来なさい」
「はい・・・」
うわっと思った。
「武には、唐揚げと、サラダとウーロン茶、ライスあるよね。それだして」
子供は、慣れているのか。
「父がお世話になっています・・」
とペコッと頭を下げた。
「ええ、君は何年生?」
「三年生です」
矢木さんは、構わず飲んでいる。
ご飯を食べ終わった後、
武君は、カバンからノートと教科書をとって、宿題をやり始めた。・・・・
陰キャだ。
分る。何故なら、私も陰キャだからだ。
しかも、まるで接点のない大人に囲まれている。
居づらいだろう。
私だったら、スマホをいじっているな。
これ、何か言った方がいいかなと思っていたら、係長が英断を下した。
「矢木君、子供を連れて帰りなさい・・・」
「え、でも、武を家に1人にすると、心配ですよ」
「馬鹿者!君も帰って一緒にいるのだ!!」
「えっ、はい」
後日、
詳しく話を聞いたり、調査をしたら、
早く帰り。子供のためにご飯を作っていると思ったら、
結構な頻度で、居酒屋で食事をしているそうだ。
虐待か、非常識かは意見が分かれることだろう。
問題は、会社に嘘を言っていたことだ。
俺も父子家庭だったから、小3ぐらいになると、自分で洗濯機を回せるし、米もとぐことが出来るし、皿も洗った。
さすがに、火は、中々使わせてもらわなかったが、
親父が帰ってきてから、野菜炒めとか肉とかを作ったり、惣菜を買ってきたりしていたな。
まあ、嘘を言って、子供をダシに使ったことが、問題になった。
矢木さんには、飲み仲間がいて、その人達に会うのを楽しみにしていた。
結局、矢木さんは、異動になった。
「不定期異動だ。君は、実家近くの事業所に移動だ。君のお父様とお母様に連絡を取った。
武君の面倒を喜んでみると言っていたぞ」
「そんなー、武は、学校の仲間と別れたくないと言っています!」
「ほお、君は武君がいじめられているから、担任と話し合うために、早退を繰り返していたのではないか?」
いろいろ嘘バレてしまった。
まあ、私には子供がいない。
子供が出来たら、どうなるんだろうな。
しかし、子供をダシにすることはしないようにしよう。
「孫の顔を見たいですって、・・・まだ、分らない。私もまだ仕事を続けたい」
「フフフフ、そのために私がいるのよ。私が面倒をみるわ」
「お母さん・・・」
まあ、これから、育児書でも読んでみようと思う。