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第73話 オトヒメの正体


「ふ、二人はミネルヴァを迎えに行ってあげて下さい。たぶん、そこら辺の廊下でうろうろしているはずです!」


 ルーテは、再会したばかりのノアとレアにそう指示を出す。


「分かった。……どうしてそんな事になってるのかは分からないけど」「とにかく、早くお姉ちゃんを助けないと! 行くよ!」


 二人はそう言うと、小走りで部屋を出て行った。


 かくして、オトヒメの寝室には、ルーテだけが取り残される事となったのである。


(今のレベルだったら、おそらく一人でも勝てるでしょう)


 そんな事を考え、気合いを入れ直すルーテ。


「ジェリー……スクイード……お主らとあろうものが、何故このような子供に……!」


 対してオトヒメは、絶望した様子で呟いた。


 どうやら、彼女にとってシースルーの二人は他の部下よりも大切な存在らしい。


「オトヒメさん! あなたの悪事もここまでですよ!」


 ルーテは言いながら彼女の元へと近づいていき、簾をよける。


「………………くっ!」


 そこに居たのは、上半身を毛で覆われ、頭から尖った獣の耳を生やしている、半獣人の女性であった。


 半魚人達の長は、半獣人だったのである。


 しかし、ただの半獣人では無い。


 その下半身では、数本の触手が蠢いていた。


「お願いだ……わらわの醜い姿を……見ないでくれ……」


 オトヒメは、悲痛な面持ちでルーテにそう懇願した。


「……|ェでィアにソミななヒなマせミホト《オトヒメ様には何もしないで》」

「漆黒の土下座」


 シースルーの二人も、どうにか体を動かしてルーテにお願いする。


 ――ヘスペリアの領主であるオトヒメの真の目的は、呪いで半魚半獣の魔物へと変貌してしまった自身を、人間の姿へ戻すことにあった。


 人間を半魚人化する技術は、半魚の部分を制御する為の研究をする過程で、意図せず生まれたものなのである。


 だが、いくら研究を進めても、半魚の部分の制御しか出来ず行き詰まったオトヒメは、秘密結社アンタレスからの支援を受ける代わりとして彼らに協力し、攫って来た人間を半魚人へと変えていたのだ。


「無理やり半魚人にした者達は元に戻す……だから、お主はもう帰るのじゃ……」

「あ、あれ? 戦ってくれないんですか? 原作では確か『この姿を見たからには、生きて帰さんぞ!』みたいな感じで戦ってくれたのに……?」


 既に戦意が無さそうなオトヒメの姿を見て、困惑するルーテ。


「…………無理じゃ。あの双子が大人しく言う事を聞いて、おまけにシースルーまで難なく下してしまうような奴に、わらわが勝てるはずなかろう……!」


 どうやら、ルーテ達が好き勝手屋敷の中で暴れすぎたせいで、完全に戦意喪失してしまったらしい。


「そ、そうなんですか……戦う気がないのであれば仕方ありませんね」


 ルーテは残念そうにオトヒメのそばを離れ、今度はシースルー達の元へ近づいて行く。


「それでは、とりあえずジェリーさんとスクイードさんとサメちゃんは連れて行きますね」


 そして、懐から謎の物体を三つ取り出した。


「な、なんじゃそれは……!」

「これはレアアイテムの『友情の首輪』です。これを使うと、なんと弱った魔物を捕獲して持ち運ぶことができるんですよ! 手に入れるのに随分と苦労しました……!」


 毎日ダンジョンに潜り、アッシュベリー商会の品揃えを確認していた日々を回想するルーテ。


 ちなみに原作だと、魔物を捕獲した後の使い道は特に実装されていない。一緒に戦ってくれることも無いので、捕まえた魔物を眺めて楽しむことしかできない役立たずアイテムである。


「ふ、ふざけるな! 二人は魔物などではない……! 自ら進んでその姿になった、わらわの……大切な部下じゃ!」

「仮にそうであったとしても、半魚人は半分魔物みたいなものなので、多分捕まえられると思います! 詳しいことは分かりませんが、とにかくやってみましょう!」


 ルーテはそう言って、半魚人の三人に『友情の首輪』を装着していった。


「……もっと、カップル……食い荒らしたかったぜ……」

「漆黒の……屈辱……」

「|ィーソへちサごニメかディさタウ《わたしだけ見逃してほしい》――」


 すると首輪を付けられた三人は、完全に動けなくなってしまう。


「やった! 成功しました!」


 かくして、ジェリーとスクイードとサメはルーテに捕獲されてしまったのだった。


「……さてと。これで目的は達成出来たので、僕は皆の所に帰りますね。――もう悪さをしたらいけませんよ!」

「待て」


 その時、帰ろうとしたルーテのことをオトヒメが呼び止めた。


「はい? どうかしましたか?」

「ジェリーとスクイードを……わらわの大切な《《仲間》》を返せッ!」


 次の瞬間、彼女の下半身から生えている触手が、ルーテに向かって伸びる。


「戦ってくれるのですか?」

「問答無用じゃッ!」

「……それなら、一応あなたの事も捕まえておきましょうか」


 ルーテは、実はもう一つだけ所持していた友情の首輪を取り出しながら呟くのだった。


「良いのか? わらわを捕まえれば、半魚人にされた者どもは一生そのまま――」

「この屋敷の地下にある半魚人化の薬を、冷水ではなくお湯に溶かして飲ませてあげれば良いんですよね。知ってます!」

「ど、どうしてそれを……!」

「………………」

「や、やめろっ! くるなっ! うわああああああああッ!」


 ――その日、ルーテの活躍によって半魚人化の被害者達が解放され、ヘスペリアの領主は忽然と姿を消した。

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