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番外編 絶句するイリア


 ルーテがレアとノアを連れ帰った後、シスターは朝食の時間に二人のことを紹介した。


「……皆さん、今日からはこの子達が新しい家族です。仲良くしてあげてくださいね」

「ノアです……ええと、よろしくお願いします」

「レアです。えっと、……いじめないでください」


 二人の挨拶で、食堂が笑いと拍手に包まれる。


「うふふ、大丈夫よ。ここのみんなはとっても優しいわ」


 近くの席に座っていたイリアが、微笑みながら言った。


「でも……そこの、ルーテって人にいじめられました」

「どういうことかしらルーテ?」


 レアの告発を聞いたイリアは、笑顔のままルーテに向き直る。


「弁解の余地はありません。ごめんなさい」

「もう……。あなたの事だから、きっと何か考えがあったのでしょう? ――あの子達には、私が誤解しないように言っておいてあげる」

「誤解ではありません」

「自分だけが悪者になって済ませようとしてはダメよ」


 しかし、イリアからの好感度はこの上なく高かったので事なきを得た。


「ママは色々と誤解されやすいのです! ミネルヴァも最初は怖かったのです!」

「そうね、あなたもルーテに助けてもらったのよね」

「はいなのです! だけど、ママはいざという時には強くてとっても優しいのです!」


 イリアの隣に座っていたミネルヴァが、そう言いながら朝食のジャムパンを頬張る。


 こうして、レアとノアは新しく孤児院の一員となったのだった。


 ――しかし同時に、イリアにとっては苦悩の日々の幕開けとなる。


 *


 その日のお昼のこと。


「二人とも、ここに居たのね。こっちへいらっしゃい!」


 まだ皆と打ち解けられず、物置きで固まっておどおどしていたノアとレアを手招きするイリア。


「どうしたの……イリアお姉さん?」

「わたしたちに何かよう?」

「――ついて来て!」


 イリアは、二人の手を引っ張って食堂へと連れて行く。


「やっと戻って来たです! 待ちくたびれたのです!」

「はいはい、食いしん坊なのによく我慢したわね」


 食堂には、ミネルヴァと数人の子供たちが集まっていた。


 マルスとゾラとルーテは、『メラス地下坑道跡』でジュエルゴーレムをしばき倒しているため、この場に居ない。


「あの、イリアお姉さん」

「わたしたち……食べられちゃうの?」

「ふふふ、そんなことはしないわ。――これから、あなた達の歓迎会をするの。みんなでケーキを食べましょう」


 近頃は、ルーテ達がこっそりお金を稼いで孤児院に寄付しているため、暮らしが豊かになっていた。


 以前はとても手が出せなかったケーキが、おやつとして気軽に食べられるようになったのである。


「ほんとに……食べていいの?」


 レアはケーキを前にして、目を輝かせながら問いかける。


「ええ。――ケーキが食べられるようになったのもルーテのおかげだから、あまりあの子を悪く思わないであげてちょうだいね……」

「分かった! ルーテお兄ちゃんはいじめてくるけど良い人なんだね!」

「気まぐれってこと……? ぼく、ルーテお兄さんには逆らわないようにする」

「まだまだ誤解はとけそうにないわね……」


 がくりと肩を落とすイリア。


 しかし、どちらかといえば、二人のルーテに対する評価の方が正確である。

 

「そんなことよりお腹が空いたのですよイリア!」

「――そ、そうね。早速みんなでいただきましょう。紅茶もあるから、遠慮しないで飲んでね」


 かくして、ノアとレアの歓迎会が始まったのだった。


 生贄として綺麗な身体を保つため、必要最小限の食事しか許されていなかった二人にとって、ケーキのようなご馳走を食べるのは初めてのことである。


 ノアとレアは、夢中でケーキを頬張った。


「二人とも、ほっぺにクリームが付いているわよ? 少し落ち着いて」


 イリアはその様子をニコニコしながら見守り、優しくそう伝える。


 その言葉を聞いたノアとレアは、互いに顔を見合わせた。


「……本当だ。こっち向いて、レア」


 ノアはそう言うと、レアな頬に付いたクリームを舌で舐めとる。


「ありがと! ノアもじっとしてて!」


 すると、今度はレアがお返しに同じことをした。


「えっ」


 持っていたフォークを机に落とすイリア。


 しかし、それでも二人は止まらない。


「ありがとう。……でも、ぼくの方がちょっと多かったかも」

「じゃあ、半分こにしようよ!」


 今度は舌を絡ませ、舐めたクリームを口移しで分け合った。


「甘くて美味しいね」

「うん、すっごく甘い!」

「?!?!?!」


 あまりにも衝撃的な光景を目の当たりにし、絶句するイリア。


「どうかしたの? イリアお姉ちゃん?」

「ぼくたちの顔、まだ何か付いてる?」

「あ、あ…………!」


 彼女の顔が、みるみるうちに赤くなっていく。


「ハレンチよっ! そそ、そんなことをしたらいけないわっ!」


 イリアは椅子から立ち上がって言った。


「いけないのですか? 仲良しなのは良いことだとミネルヴァは思うのです!」

「よ、良くないわっ! だって、双子なのでしょう?! 血がつながっているのに……人前で堂々とききき、キスだなんて……」

「……確かに、イリアとマルスがやってたらドン引きするのです!」

「やめなさいッ!」


 耳を塞いで叫ぶイリア。


「『きす』はだめなの?」

「と、当然よっ! 双子同士であまりべたべたしすぎるのはいけないわっ!」

「うーん…………? ――じゃあ、いっしょにお風呂入って洗いっこするのは? それもべたべた?」

「不健全すぎるわっ! いやあああああっ!」


 *


「ぶえっくしゅん!」


 三人でゴーレム狩りに興じていたマルスは、大きなくしゃみをする。


「どうしたんだよマルス。風邪でも引いたのか?」


 隣に居たゾラが動きを止めて言った。


「わ、分からない……けど、イリアのことを思い出して……すごい寒気が……!」

「怒らせちゃったんじゃない? お前ら双子だし、そういうの伝わるのかも」

「ま、まじかよ……今回ばかりは身に覚えがないぞ……!」


 今度は別の意味で身震いするマルス。


「――ねえルーテ、どう思う?」

「イリアは恐ろしい相手です! 覚悟しましょう! ――大氷よ覆い尽くせ、グラキエス!」


 ルーテは、ゴーレムと交戦しながら答える。


「……だってさ。お前終わったな」

「どうしてだよ?! うわああああああっ!」


 マルスとイリアは、仲良く悲鳴を上げていた。

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