表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

116/117

第102話 秘密結社幹部達の末路


 孤児院が地獄と化してから、およそ一週間後。


「おぅち、かぇりたいよぉぉっ……!」


 魔物サンドバッグ道場にて、朝はルーテとの殴り合いを強要され、夜は狂った殺人鬼に追いかけ回されるという、悪夢のような日々を送ったシャウラ。


「ぱぱぁーーーーーっ!」


 彼女は、以前よりも強靭な肉体を手に入れたが、代償として精神が崩壊した。


「ぱぁーーーーーーーっ!」


 現在の彼女は、三歳児程度の思考能力しか持ち合わせていない。


「わんわんっ!」


 他の紅蝠血(ヴェスペルティリオ)の面々も、概ね似たような状態である。


「わんわんわんわんわん!」 


 序列一位のオリオンは、ここに来て二日目くらいで犬になった。


 強大な力を持ち、今まで頂点に君臨する立場だった分、狩られる側となる事に慣れていなかったのである。


「わおーん!」


 四つん這いで犬の鳴きまねをする惨めな青年の姿が、そこにあった。


 ちなみに、飼い主はルーテということになっているが、ルーテは彼の事を『友情の首輪』で繋がった友達だと思っている。


「オデ……オナカ……スカナイ……」


 ジュバは痩せた。


「ナニモ……クイタクナイ……。クワレタクナイ……」


 そこにかつての面影はなく、ヒョロヒョロである。


 サメも、今の脂身が少ない彼には見向きもしない。


「余は……む、虫けら以下の存在である……。み、皆のもの、余に靴を舐めさせてください……!」


 イクリールはよく分からないことになっていた。


 自分が絶対的な王であるという自信が打ち砕かれ、おかしくなってしまったのだろう。


「ひ、ひぃぃっ! い、命だけは……命だけはお助けを……!」


 たまに自分のことを雷で撃ち落とした子供たちを思い出し、錯乱するのが彼の日課だ。


 孤児院での出来事が、深刻なトラウマになっているのである。


「あ…………ぁ、ぁ……」

「うぁぁ……あ……」


 一番酷いのが、サルガスとギルタブリルの二人だ。


 彼らは、うめき声を発しながら仲良く地べたを這いずり回っている。


 もはや、言葉すら話すことが出来なくなってしまったのだ。


 自称超越者であった彼らにとって、自身よりも強大な力を持つ者に蹂躙されるという体験は、それほどの恐怖と苦痛を伴うものだったのである。


「最近、みんな元気ないよね。どうしたんだろ?」

「知らねぇぜ!」


 変わり果てた紅蝠血(ヴェスペルティリオ)達の様子を眺め、そんな会話をするホワイトとサメ。


 ――その時。


「おはようございます!」


 勢いよく扉が開き、魔物サンドバッグ道場にルーテが訪れる。


「あ! 天使だぁ!」

「さあ、やりましょう! みなさん!」

「……チッ。カップルで来いよ。やり辛ぇだろうが!」


 本日も、朝の日課が始まったのだ。


「うおおおおおおおおおおおお!」


 刹那、紅蝠血(ヴェスペルティリオ)の面々は一斉に立ち上がり、ルーテに向かっていく。彼さえ仕留めることが出来れば、この悪夢から抜け出せると信じているのである。


 互いに足を引っ張り合う寄せ集めだった紅蝠血(ヴェスペルティリオ)は現在、ルーテという天敵の登場によって、この上なく団結していた。


「今日もやる気十分ですね! 僕も負けません!」


 *


 朝の日課を終え、魔物サンドバッグ道場を後にしたルーテは、拳をぐっと握りしめる。


「ちょうど一年後です……!」


 今日から数えてちょうど一年後、ついに運命の日がやって来るのだ。


「原作における、僕の命日……そして、絶対的な負けイベントが発生する日……! 果たして、僕はどうなってしまうのでしょうか……?!」

 

 星歴1678年に発生する大地の亀裂によって、この星はダンジョン以外の場所にも魔物が跋扈する地となる。


 ゲーム本編がスタートする日が、目前まで迫っているのだ。


「…………。思ったより長いですね……! 何だかもう勝てる気がします……! 来るなら早く来てください……!」


 ルーテは若干飽きていた。ラストダンジョンの攻略が消化不良に終わったので、行き場のないゲーマーズソウルが疼いているのである。


「このままでは……レベルがカンストしてしまいます!」


 現在、ルーテのレベルは85だ。


「……もういっそ、あと一年で、僕だけでなくみんなの事まで限界まで強化してしまいましょう! 暇ですし!」


 彼のレベルがカンストするのが先か、一年後の負けイベントが始まるのが先か。


 ルーテの、最期?の挑戦が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ