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第9話 ファストトラベル


(このままだと……っ!)


 ルーテはしきりに背後を気にしながら走る。


 彼は追われているのだ。


「はぁ……はぁ……僕は……もうっ……!」


 しかし、ルーテの体力は既に限界を迎えていた。


「つかまえたっ!」


 刹那、何者かに飛びつかれて草むらの中に倒れ込むルーテ。


「……痛いです」

「あ、ごめん。つい夢中になっちゃって……」

「いえ、怪我はしていないので問題ありません」

「そうか。なら安心したよ!」


 ゾラはそう言って安心したように笑う。彼女が孤児院の一員となってから、だいたい一か月ほど経った。


 今は、皆で追いかけっこをして遊んでいたところである。


 この一ヶ月の間にもルーテは欠かさず日課の「ウォーキング読書」を続けていたので、現在はレベル17となった。


 日課の際に指南書を読み込んでいたので、【隠密】のスキルも無事に習得している。


 さらに限界まで魔法を使い続ける訓練も行ったため、今は魔力が底を尽きてもしばらく意識を失わずにいることができる。


(問題なのは……身体能力の方です)


 ――しかし、それでもルーテは伸び悩んでいた。


 魔法を使用しない戦闘で上手く立ち回ることができないのだ。


 時々、マルスと太い木の枝を剣に見立てて打ち合いをするのだが、力も体力も及ばずほとんど勝つことができない。


 『レジェンド・オブ・アレス』には魔法耐性を持つ魔物も多数登場するので、物理攻撃が弱いのは致命的だ。


 今回の追いかけっこも、【隠密】スキルを駆使して長時間生き残ることが出来たが、一度見つかるとすぐに捕まってしまう。


(やはり……魔法に頼りすぎなせいで筋力が足りていないのでしょうか……? レベルアップでちゃんと上がっているはずなんですけど……)


 基本的に引きこもり体質なルーテは、レベル上げ以外の方法でどうやって体を鍛えれば良いのか分からなかった。


「……はぁ」

「大丈夫かルーテ?」

「はい。少し疲れただけです」

「ひざまくらする?」

「しません」


 そう返事をしつつ、落ち込むルーテ。


 だがその時、ふとある考えが脳裏をよぎった。


(いや……ゲーム本編開始時のマルスのレベルは確か5だったはずです。そう考えると、いくら上昇する能力値に個人差があるとはいえ、レベル17の僕の方が筋力は上なはず……! それなのに、マルスの方が強いと言うことはつまり……!)


 ――プレイヤースキルが足りていない。


「……………………!」


 『レジェンド・オブ・アレス』はアクションRPGである。いくらレベルを上げても、プレイヤーの腕が悪ければ敵を倒すことができないのだ。


(…………身も蓋もありませんね、気付かなかったことにしましょう。――最悪、レベル100にすれば大抵の魔物は初級魔法で爆散させられます)


 非情な現実に気付いたルーテは、全てを忘れることにした。


「……無理なことは無理です……諦めましょう……」

「ボクのひざまくら……そんなに嫌なの……?」


 ルーテが顔を上げると、ゾラが涙目になっていた。


「ち、違います! ちょっと考え事をしていてつい独り言が出ただけで……そういうわけでは……!」

「…………ふーん」


 ふてくされたような目で、ルーテのことを見るゾラ。


「――と、ところでゾラ! 他のみんなはどうしたんですか?」

「露骨に話を逸らしたね……まあいいや。教えてあげる」

「は、はい! 教えてください!」

「なんと……全員ボクが捕まえたよ!」


 ――ルーテが行き詰まる一方、ゾラはだいぶ孤児院に馴染んできている。


 自分と歳が近い子供達とずっと遊んでいられる孤児院の環境は、彼女にとって夢のようだった。


「まあ、ボクにかかればこんなものだね!」


 そう言って胸を張るゾラ。明らかに褒めて欲しそうな雰囲気を発しながら、横目でルーテのことを見る。


「……さすがです。やっぱりゾラは足が速いですね」

「ふふん、もっと褒めて良いよ!」

「えっと……かっこいいです」

「えへへぇ、そんなに褒めたってなにも出ないよぉ……!」


 ゾラはにやにやしながらルーテに頬ずりした。


(……僕は……一体何をさせられているのでしょうか)


 ルーテは、虚空を見つめながら哲学的な問いに思いを馳せるのだった。


「おーいゾラー、ルーテは捕まったのかー?」


 その時、マルスの声が聞こえてくる。


「うん、ちゃんと捕まえたよ!」

「なら丁度いいや。――これから夕飯らしいから、二人とも早く戻ろうぜ」


 そう言って、孤児院の方を指さすマルス。気付けば、辺りはすっかり日が暮れていた。


「だってさ。急ごうルーテ!」

「あの、ゾラ……」

「なに? どうかしたの?」

「……くっつかれていると動けないです」

「ご、ごめんっ!」


 ルーテに言われたゾラは、顔を真っ赤にして距離を取る。


 べたべたしたり、急に離れたり、難しいお年頃なのである。


「さ、さあて、今日のお夕飯は何かなー!」


 ゾラはわざとらしく呟きながら、逃げるようにして走り去っていった。


「とにかく……僕も戻りましょうか」


 ルーテもその場から立ち上がり、一歩踏み出した瞬間。


「え――――」


 何かにつまずいて派手に転ぶ。


 しかし、足元は草むらだったので、前のように怪我を負わずに済んだ。


「いたた……。また転ぶなんて……やっぱり現実のプレイヤースキルが低すぎます……僕自身を操作出来ていません……!」


 体についた草の切れ端を振り払いながら起き上がったその時、ルーテは足元に何かが埋まっていることに気付いた。


「これは…………?」


 少しだけしか地上に出ていないが、機械のような物であることは確認できる。


(間違いなく重要なアイテム――『アーティファクト』です!)


 そう思ったルーテは、嬉々としてそれを掘り返し始めた。


 ――やがて出てきたのは、何かが細かく書き込まれた手のひらサイズの球体である。


 それを見て、ルーテはすぐにピンと来た。


(アレスノヴァ……!) 


 『アレスノヴァ』とは、この星をかたどった世界地図である。


 古代文明の遺物という設定で、世界各地に点在する『遺跡』へと使用者を転送してくれる優れモノだ。


(一度到達した遺跡に一瞬でワープできる便利アイテムが、こんな所に……? ――僕にも使えるんでしょうか?)


 このアーティファクトが原作通りに機能するのであれば、行動範囲を格段に広げることができる。


(ええと……ここから一番近い遺跡は確か……)


 今すぐ検証したい気持ちに駆られるルーテ。


「おーい、何してんだー? 早く来いよー」


 だがその時、マルスの呼ぶ声が聞こえてきて行動を中断する。


(とにかく……これについては後で調べることにしましょう)


 ルーテは仕方なくアレスノヴァを自分の懐にしまい、マルス達の元へと走っていくのだった。


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