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第91話 肉体改造されていくフィラエ


「う、うぅん…………はっ!」


 気付くと、フィラエは自分の部屋のベッドの上に寝かされていた。


「良かった、目が覚めたのね」


 彼女のかたわらには、金髪の少女――イリアの姿がある。


「イリアちゃん……。わ、私は、一体何を……?」

「遊んでいたらいきなり倒れたって、マルスと明丸が言ってたわ」


 イリアは、濡らしたタオルでフィラエの顔の汗を拭き取った後、続ける。


「あの子達……こっちに来たばかりで疲れているフィラエさんに無理をさせ過ぎなのよ」

「そ、そうでしたっけ……?」


 記憶がはっきりとせず、首を傾げるフィラエ。


「でも、悪気があるわけじゃないの。許してあげてね……」

「い、いえ、私は別に……」


 許す、許さないの問題ではなく、何かものすごく恐ろしい体験をしたような気がするが、全く思い出せなかった。


「それと……はいこれ、お水よ」

「…………?」

「このお水を飲むとね、すごく元気になれるの」


 言いながら、生命の雫が入った瓶を差し出すイリア。


「これを飲んでしばらく安静にしておいた方がいいわ」


 ちなみに、生命の雫は成長限界突破アイテムであるのと同時に、HPとMPを完全回復するアイテムでもある。


「元気になるまで、私が側に居てあげる」

「イリアちゃん……!」


 イリアの優しい心遣いに、目を潤ませるフィラエ。


「ありがとうございます……!」


 感謝の言葉を述べつつ瓶を受け取り、水を一口だけ飲む。


「――――――ッ!」


 その瞬間、彼女は神の姿を見た。


「こ、これはっ!」


 目から涙が溢れ、生きとし生けるもの全てに対する感謝と慈愛の念が湧き出してくる。


「す、すごい……すごすぎますうぅぅっ! あっ、ひゃああああああああっ!」

「大丈夫……?」

「世界はっ、世界はこんなにも美しかったのですねぇっ! ふぉおおおおおおおおおおッ!」

「落ち着いて」


 イリアは、元気になり過ぎたフィラエの背中をゆっくりとさする。


「はぁ、はぁ……ごめんなさい。私……ここに来てから少し変ですね……。懐かしい場所なので、気持ちが興奮してしまっているのかもしれません……」


 知らぬ間に成長限界を突破させられたフィラエは、どうにか心を落ち着かせながら言った。


「無理をしすぎない方がいいわ」

「……いえ、私はもう大丈夫です。ありがとうございましたイリアちゃん!」


 そう言うと、フィラエは瓶に注がれていた命の水を全て飲み干した。


「ふぉおおおおおおおおおおッ!」


 そして、もう一度歓喜の叫び声を上げる。


「ええと……フィラエさんの分の朝ご飯も作ってあるけれど……食べる?」


 イリアはそんな彼女の姿を見て、少しだけ身を引きつつ問いかけた。


「朝ご飯を子供達だけで作ってしまったのですか?!」

「そ、そうよ。先生が元気なかった時は、そうしてたから。ルーテ以外はみんなお料理ができるの」

「うぅ……何も手伝えないで申し訳ないです……」


 本当は自分が皆の分の料理を作るつもりだったフィラエは、一瞬だけ落ち込んだ後、元気よく顔を上げる。


「ぜひ、いただかせてください!」


 やはり、少しだけ情緒がおかしくなっているようだ。生命の雫の副作用なのだろう。


「分かったわ。ここに持って来るわね」

「いいえ、もう起きるのでわざわざそこまでしなくても――」

「だめ、安静にしてて」

「は、はい……」


 イリアに念を押され、仕方なくその場で待機するフィラエ。


 一度部屋から立ち去ったイリアは、お盆を持って戻って来る。


「机で食べる?」

「はい! ――ありがとうございます、イリアちゃん。美味しくいただきますね!」


 フィラエはベッドから起き上がり、椅子に座る。すると、とても香ばしい匂いが漂ってきた。


 今日の朝食のメニューはミートボール(リヴァイアサンとベヒーモスの合い挽き)とリヴァイアサンの卵スープ、ベヒーモスチーズ入りサラダ、パンである。


「そのミートボールはね、おベヒーモスとおリヴァイアサンを半分ずつ混ぜ合わせてあるの。とっても美味しいのよ」


 イリアの説明を聞いたフィラエは、神に感謝した後、ミートボールから食べる事にする。


「あむ。…………ッ!?」


 その時、フィラエの中で何かが弾けた。今まで、質素な料理を食べて慎ましく生活してきた彼女に、その肉の味は刺激が強すぎたのである。


「どう、美味しい?」

「イリアちゃんっ!」

「きゃっ」


 自分に問いかけてきたイリアを力強く抱きしめ、幸福な気持ちで満たされるフィラエ。


「私……やっと理解しました……。ここが天国だったのですねっ!」

「ち、違うわよ?」

「ふぉおおおおおおおおおおおおッ!」

「それやめて」


 かくして新米シスターフィラエは、知らず知らずのうちに能力を底上げされたのだった。

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