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第87話 ブラッドの苦悩


 シスターが元気になり、孤児院に再び平和が訪れてから、さらに数日が経過した。


「今日もいいグラフィックです!」


 早朝、いつも通り孤児院を堂々と抜け出したルーテは、目の前に広がる草原を眺めて呟く。


 そしてアレスノヴァを取り出し、炭鉱の町メラスにある遺跡へと転移した。


 こちらは、ちょうど昼過ぎのようである。


「この時間なら……きっと大丈夫ですね」

「どこへ行くつもりなの? ルーテ」

「わーーーーーーーっ!」


 その時、背後から何者かの声が聞こえてきて驚くルーテ。


 振り返ると、そこに立っていたのはイリアだった。


「い、イリア……付いてきてしまったのですか……?」

「ダメだったかしら?」

「ダメというわけではありませんが……今日は、特に面白いこと(経験値稼ぎ)しませんよ?」

「いいの。外へ出たい気分だったから」


 そう話すイリアの目は、鋭く光っている。


「……言わなくても分かるわ。セレストの――ブラッドさんのお屋敷へ行くのでしょう?」

「はい!」

「だから、私も付いていくの」

「?」


 かくして二人は、この町にあるアッシュベリー邸を訪ねるのだった。


 *


「お待ちしておりました、ルーテ様。そちらの方は……イリア様ですね。どうぞこちらへ」


 屋敷の入り口で出迎えてくれたのは、使用人の青年である。


「あの人がお待ちしてたってことは……ルーテ、今日ここに来るってお手紙出してたの?」


 案内されている途中、イリアは不思議そうな顔でルーテに耳打ちする。


「はい。いきなり押しかけたら、ブラッドさんが困ってしまいますからね」

「う、嘘でしょ……るーちゃんがそんな事を考えるなんて……。立派に成長していたのね……!」

「イリアは僕のことを何だと思っているのでしょうか?」

「それはもちろん……大切な家族よ! 家族の成長を喜ぶのは当たり前だわ!」

「うーん…………」


 ルーテはどこか腑に落ちない様子だった。


「――こちらで少々お待ちください」


 そんなやり取りをしている間に、立派な応接間へと通される二人。


 言われた通り、ソファーに並んで座って待っていると、やがて勢い良く部屋の扉が開いた。


「ルーテさまっ!」


 叫びながら飛び込んで来たのは、茶色い髪を後ろで一つに結んだ活発そうな少女――セレストである。


 二年の歳月を経て成長したセレストは、両手を広げてルーテに抱きつこうとする。


「会えて嬉しいわ、セレスト」

「……! イリア……!」


 しかし、彼女のことを抱き止めたのはイリアだった。


「ルーテは、これからあなたのお父さんとお話しするの」

「わ、分かってるわよぉ……でもっ!」

「後で触らせてあげるから、それまで向こうで遊びましょう?」

「…………うん」

「良い子ね。とっても可愛いわ……」

「う、うん……ありがと……。でも……ちょっと離れて……?」

「だめよ」


 セレストは、イリアに抱きしめられ、頭を撫でられながら、部屋の外へ消えていった。


 いつの間にか手懐けられていたようだ。


「なるほど……イリアを連れてくれば、セレストさんの乱入イベントを防げるのですね。勉強になりました!」


 一方、一部始終を見届けたルーテは感心していた。


 ――それからしばらくして、ようやくブラッドが応接間へ姿を現す。


「遅くなってすまないね、ルーテ君。今日は一体何の用かな?」

「ベヒーモスとリヴァイアサンの素材を量産することに成功したので、アッシュベリー商会で定期的に買い取ってください!」


 高速で本題に入る二人。その様子から、ルーテが何度かここを訪れていることがうかがえた。


「はっはっはっ、面白い冗談を言うねルーテ君。その二体は確か、アルカディア王国の禁域に住まうとされる伝説の存在だろう? いくら君でも、そんな神話級の魔物の素材を手に入れることは不可能だよ」

「冗談ではありません! まずは、お肉から試食してみてください!」


 ルーテは【収納】スキルを発動し、懐からフォークとナイフ、そして調理済みの『ベヒーモスステーキ』と『リヴァイアサンステーキ』を取り出して並べる。


「……え? ま、マジなのかい? これが……神話級のお肉?!」


 あっさりと実物が出て来たので、思わずテーブルの上を二度見するブラッド。


「デザートに、『ベヒーモスミルク』と『リヴァイアサンの卵』を使って作ったケーキも用意してあります! それから、『ベヒーモスの角』と『リヴァイアサンの鱗』も安定して手に入るようになったので、加工して武器や防具に――」

「ま、待ってくれルーテ君。完全に私が置いていかれてしまっているよ? まず、ベヒーモスやリヴァイアサンからミルクや卵が採れる事自体が驚きなのだが…… と、とにかく、私に目の前の現実を理解する時間をくれないかな?」

「分かりました!」


 この時、ブラッドは恐怖を感じていた。いきなり、実在しているのかどうかすら疑わしい存在の調理済み肉片を並べられたので、当然である。


「ま、まずは、これをどうやって手に入れたのか話してくれ」

「聖なる森で捕まえて、お肉にしました!」

「………………」


 単純明快な答えに、頭を抱えるブラッド。果たして、彼はルーテのペースに乗せられず、まともでいることができるのだろうか?

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