99.この辺りが俺たちの限界だ。
俺は聖痕探索部隊のひとり、〈浮遊島〉を拠点に活動している八人いるうちのひとりだ。
外見はコーニエルに〈変身〉している。
八人全員が同じ顔をしているので見分けはつかないが、中身は全員同じなので些細な問題だ。
「やっぱカーシャだよな。新妻感があって最高。おまけにメイド。これ完璧じゃね?」
「同意同意。じゃあお前がカーシャ推しなら俺はクロエだな。まだ若すぎるが、そこがいい」
「このロリコンめ。だが可愛いのは同意。じゃあ俺はマニタ推しかな。褐色肌がたまらん。エロい」
「マニタもエロいよなあ。カーシャと若干、被ってるけどメイド属性あるし。じゃあ俺はローレア推しで」
「変態か?」
「ローレアを変態にしたのは俺だろ。お前たちも同罪だ。それに散々奴隷プレイに加担した日々を忘れたとは言わせない。メイドどころか奴隷属性だぞ」
「奴隷かあ。そういえばこの世界、一応は奴隷いるんだよな」
「そうだな。借金奴隷とか犯罪奴隷とかいるな。ただ人権意識のない途上国だけど、割と人間味のある扱いされているよなあ。ローレア含めて貴族の奴隷観はまちまちだけど」
「金は唸るほどあるわけだし、奴隷ハーレムとかやらないのかね?」
「管理が面倒だろ。それに二日に一回はベルナベルの相手をしなきゃだから、女には困っていない。というか本体が死にそうなくらい絞られているから、負担になるだけじゃねえの」
「まあ快楽って意味ならベルナベル一択なんだよな。美人だし。エロさが限界突破しているし」
「せやな。ベルナベルは最高だ」
「同意。……おっと、そのベルナベルが来たぞ」
足元まである長い髪。
黒のゴスロリを身にまとった美女は、俺たちの猥談を耳にしても眉ひとつ動かさずに言った。
「主たちよ。外、ドラゴンが翼を広げているから、そろそろ上がってくるぞ」
どうやらドラゴンが〈浮遊島〉が自分たちのテリトリーを侵すものだと認識して攻撃準備に入ったらしい。
「マジか。来るのかドラゴン」
「いよいよドラゴン戦か。頼むぞベルナベル」
しかしベルナベルは、顎に手を当てて言った。
「わしに頼るのは危なくなってからでよかろう。まずはボーンアーチャーを使って、城塞のクロスボウがどこまで通用するか試したらどうじゃ? あとは〈創造:槍〉でもドラゴンを撃ち落とせるじゃろ」
俺たちは顔を見合わせる。
「それもそうか。一度も武装を使わないと〈城塞〉も可哀想だしな」
「〈ミサイルジャベリン〉の的にちょうどいいかもな」
「危なければ〈空間:防御〉で障壁つくれば〈浮遊島〉も守れるだろうし」
「じゃあ、大陸最強の生物どもにどれだけ通用するのか、やってみるとするか」
俺たちは各々で役割分担を決めて、ドラゴン迎撃に向かった。
ドラゴンと一口に言っても、それぞれ属性が異なるらしい。
地属性のドラゴンは翼がないものもいるらしく、あっても飛行が苦手な個体が多いだとか、風属性のドラゴンは逆に飛行速度が速くて厄介だとか、光属性と闇属性はちょっと他の四属性より強いとか。
ただし空間や時間などの特殊な属性を持ったドラゴンは希少らしい。
年経た長老格などのドラゴンはそれらの属性を操るらしいが、今〈浮遊島〉を目掛けて飛んできているのは比較的、若いドラゴンばかりらしい。
若くて血の気が多いということもあるだろうが、年寄りのドラゴンは慎重かつ狡猾なので、まずは若いのをけしかけて様子見に徹するのだとか。
そんな事情もあって、若くていきいきしたドラゴンを的にしたシューティングゲームが始まった。
召喚したボーンアーチャーは〈城塞〉に設置された大型クロスボウを使わせて、ドラゴン目掛けて撃たせる。
さすがに相手は空中を自在に飛び回るので半分くらいは外れるのだが、命中すれば胴体を貫くほどの威力があった。
ベルナベルが言うにはまだ若いので鱗が柔らかいとのことだが、極太のボルトが突き刺さったら城壁も破壊できそうな大型クロスボウでようやく若いドラゴンを殺せるということは、年経たドラゴン相手には力不足ということであろう。
ボーンアーチャーたちには次々と撃たせて、俺たちは俺たちで〈ミサイルジャベリン〉をドラゴンに向けて放ちまくる。
こちらは〈ロケットジャベリン〉に誘導性能が追加されたものであるため、必中だ。
命中すれば爆発を起こすだけあって、ドラゴンに多大なダメージを与えることができている。
しかし大型クロスボウのような貫通力はないためか、鱗である程度は防がれているようだ。
また火属性のドラゴンにはほとんど効いていない。
「〈ミサイルジャベリン〉は効果が薄いな。ちょっと〈ホーミングジャベリン〉で翼を狙ってみるわ」
「翼は薄いし、穴が空いたら地上に向けて真っ逆さまだよな? 聖痕を持っていないドラゴンはそれで追い払うのがいいかもな」
〈ホーミングジャベリン〉で翼を狙う作戦は上手くいった。
属性のない投槍は火属性のドラゴンの翼も無事に貫くことができ、次々と戦線離脱させていく。
どうせ空中から落下した素材をいちいち拾ってられないから、これでいいだろう。
続々とやってくるドラゴンを相手にしていたら魔力が尽きかけてきた。
この辺りが俺たちの限界だ。
十分ほども戦えたから十分だろう、後はベルナベルに任せよう。
「すまん、魔力を回復しに一旦、本体とこへ戻る。後は任せたベルナベル」
「承知した。ではわしが残りの相手をしておくとするかのう」
ベルナベルは〈空間:攻撃〉の魔術で次々とドラゴンの翼を切断していく。
俺たちは本体の元へ順次〈帰還〉して、記憶の統合をして新しい〈代理人〉に入れ替わった。
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