84.ナスじゃねえか!!
俺とベルナベルは魔王城にやって来ていた。
悪魔たちの能力を個別に面談しつつ調べるためだ。
スキルを見ることのできるベルナベルがいるため、嘘も誤魔化しもできない。
もっとも隷属している悪魔たちが嘘をつくとは思えないが。
悪魔と一口に言っても、外見は様々だ。
人型で角と被膜の翼、尻尾が生えている奴はオーソドックスな悪魔だが、それにしたって種族は多岐にわたる。
獣型の悪魔も多いし、それ以外のよく分からない特徴の悪魔だって少数ながらいるのだ。
雑多で統一性のない悪魔たちの集団を、これから管理していかなくてはならないというのは、正直なところ頭の痛い話だった。
「これから個別面談を始める。上位の悪魔から順番に来てくれ。序列は前魔王が決めたものがあるそうだな?」
「はい。強さの順番になりますが、確かに序列は厳密に決められています」
代表者であるサンドールという青年の悪魔が言った。
サンドールは“雷鳴”という二つ名をもつ強力な悪魔らしく、序列も一位である。
ゆえに個別面談もサンドールからとなった。
「サンドール、君は何ができる?」
「そうですね……雷を操ることに長けています。あとは格闘戦、槍技でしょうか」
「戦闘能力だけか?」
「はい。ですが前魔王様や今上の魔王様には遠く、及びません」
「……そうか。やっぱり悪魔ってのは戦闘に長けている種族が多いのか?」
「そうですね。大半は戦うことで己の地位を決定することになるため、戦うチカラを磨く者が多いです。ですが、戦いに向かない能力を持った種族もいます。魔王様はそのような種族を求めておいででしょうか?」
「そうだな。魔王軍がこれから戦いに身をおかず隠棲する以上、戦い以外の能力が重要になる」
「そうですか……私ではお役に立てそうもありません」
「サンドールにはこれからも魔王軍をまとめてくれ。強さが序列を決めるという悪魔のしきたりは変わらないのだから」
「は。仰せのままに」
サンドールの個別面談はそうして終えた。
序列の高い者たちは、基本的に戦闘能力の高い者たちで占められている。
だから割りとスムーズに面談は進んでいく。
取りこぼしのないように、ベルナベルにスキルを覗いてもらっているが、何も言わないということはすべてを戦闘能力に振り切っているのだろう。
俺が注意すべきは、戦闘能力が低い特殊能力を持った序列の低い悪魔たちだ。
彼らは多種多様な能力を持っているはずだから、何か魔王城に特産物を作れるとしたら、こういう者たちの中から生まれてくるに違いない。
序列が比較的高めで、魔界の植物を操るというガストビという悪魔との面談が始まった。
「ガストビ、と言ったな。魔界の植物というのはどんなものがあるんだ?」
「は。花の匂いを嗅ぐだけで多幸感に満ち溢れる薬草が、前の主人には喜ばれておりました」
「薬物か……あまり人生を踏み外すようなものは良くないな」
「はあ……そうするとあまり面白みのあるものはないかと」
「面白いかどうかは俺が決める。植物なら野菜などはあるのか?」
「野菜、ですか……。ないこともありません。例えば、この紫色の野菜は、味が薄くべしょべしょしていてあまり好む者がいない野菜ですな」
「…………ナスじゃねえか!!」
「は?」
「あ、いや。それは油をよく吸うから、炒めたりするとなかなか美味いぞ」
「そうなのですか……。悪魔は料理をする者がほとんどいないため、生で齧るか、単純に火を通して食するか、あまり工夫をして来ませんでした」
「とりあえずその野菜……ナスと呼ばせてもらうが、育ててくれ。他にも野菜など人類に悪影響のないものはあるか?」
「はい。それなりに。逆に滋養のある薬草もあります」
「ほう、どんなものだ?」
「例えば――この黒い粉は滋養に良いと言われています」
「ふむ…………ってこの香りは、カカオか!?」
「は? ご存知のものでしたか?」
「ああ。素晴らしい。カカオはこの地上で見かけなかったからな。これも栽培して欲しい」
「かしこまりました」
その他にも、幾つか地球で知られた野菜や果物、ハーブやスパイスがあったりした。
魔界の植物というだけあって、地上には普通、生えていないらしい。
独占することも考えたが、その場合は『鍋猫亭』のコウセイに注目が集まりすぎる。
そうすれば貴族の目に止まるだろうから、ローレアの父親であるノーマンドにも見つかりかねない。
ふたり目のコウセイの存在がバレると面倒だ。
……もったいないが、〈闇市〉で地球人向けに売るか。
特にカカオは売れるだろう。
しかしチョコレートはテンパリングなど複雑な工程を経て作成されるものなので、上手く作れる奴はいないんじゃないかと思われる。
それでも砂糖を大量にぶち込めば、チョコレートの味を再現できるわけだから、きっと売れるに違いないのだ。
他にはサキュバスが数名いた。
ベルナベルと違って戦闘能力はなく序列は低いが、彼女らには娼館を経営してもらおうかと思う。
まずはガエルドルフの街……と行きたいところだが、あの街はベルナベルの縄張りだ。
オルタンスモーアの街にしておこう。
あそこなら近日中にローレアと結婚して貴族の末席に加わる〈代理人〉がいる。
娼館をひとつ増やすくらいの権力はあるだろう。
……結婚してまずすることが娼館を増やすことってのは、義父にどう思われるやら怖いけども。
低コストで経営できる健全な娼館が作れるわけで、これを放置するのはもったいない。
美人揃いな上に避妊も完璧、性病にもかからないと完璧なサキュバスたち。
これで儲からないわけがない。
あとは密偵系のスキル満載の奴がいたので、コイツは人類の街に潜ませて情報収集をさせることにした。
ギュベイという名の小男で、〈ホットライン〉にも登録しておく。
当面は王都で政治関連の情報収集を任せることにした。
貴族情報はローレアの婿である〈代理人〉の役に立つ。
俺は地球人や聖痕の情報を〈新聞閲覧〉で収集できるからそちらは良いのだ。
そんなことを続けていたが、一日で終わるわけもなく。
しばらくはこのような面談が続くことになるだろう。
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