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初期クラスが自宅警備員であるため一歩でも宿から出ると経験値が全く得られなくなるらしいので、自室に引きこもります!  作者: イ尹口欠
聖痕収集編

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79.ちょ、それはヤバくないか!?

 俺はベルナベルを連れて〈浮遊島〉に〈帰還〉した。


 〈浮遊島〉は既に魔王城のすぐ近くに来ていた。

 さすがに直上につけると察知できる悪魔がいた場合に危険になるため、近づき過ぎないようにしている。

 とはいえ上空に不可視の巨大な飛行物体があると分かれば、魔王城は警戒しているはずだから、察知できる悪魔がいないことを祈るばかりだ。


 本体からの指示で十人の〈代理人〉たちが増援に来ていた。

 当初の四人の〈代理人〉とベルナベルだけで攻める予定だったが、〈永続召喚〉によって作戦は大きく変わったのだ。


 まず俺たちは〈浮遊島〉から〈精霊:使役〉を使って地上に降りる。

 ベルナベルも当然ながら自力で降りてきた。

 そして追加の十名は、それぞれ十体のボーンガーディアンを〈永続召喚〉し、指揮権を俺に渡して〈帰還〉する。


 あっという間に百体のボーンガーディアン軍団の出来上がりというわけだ。

 恐るべき戦力である。


「よし、目指すは魔王城だ。進軍開始!!」


 俺を含めた四人の〈代理人〉とベルナベルを先頭にして、続くボーンガーディアン百体の軍勢。

 魔王城まで約一時間の道のりだ。

 ボーンガーディアンは知性を持っているため、俺の漠然とした指揮にもちゃんと対応してついてくる。


 魔王城の近辺は剥き出しの岩場になっており、草木はない殺風景な景色だ。

 故に向こうからも良く見えるのだろう。

 悪魔たちは城の前に出てきていて、こちらとの接敵を待っていた。


 近づいていく俺たち。

 待ち受ける悪魔たち。


 戦いのときは近い。



 ベルナベルが「む?」と怪訝そうに呟いた。

 その瞳が大きく見開かれる。


「じいやか!?」


「おや、これは姫様。なぜ地上に……?」


 ベルナベルは声を失って、じいやと呼んだ悪魔を見つめていた。

 ベルナベルのことを姫様と呼んだ老爺の悪魔も、ベルナベルを見つめていた。


 周囲の悪魔たちが困惑している。

 ふたりが知り合いなのは分かったが。


「どういう関係だ、ベルナベル?」


「じいやは……魔界でわしの世話をしておった悪魔じゃ。あるとき、暇乞いをしたので解雇して以来じゃが……そうか、地上に召喚される兆しを受け取ったのか」


「左様でございます。姫様のお側を離れるのは心苦しけれども、召喚されるとあってはお仕えし続けることはできませぬからな。もうかれこれ百年ほどになりましょうか」


「じいやを召喚した者は死んだか。それで自由となり、地上で魔王として君臨することにしたと」


 あれ、じいやさんが魔王なの?

 好々爺とした雰囲気のおじいちゃんだが、実は凄い悪魔らしい。

 〈魔力眼〉で見れば一発で分かった。

 他の悪魔とは雲泥の差がある、濃密な魔力を纏っていた。


「その通り。せっかく晴れて自由の身となったので、辺境に城を構えていた悪魔を殺し、居座ったのです。以来、魔王と呼ばれ数多の悪魔を従えるまでになりました。戦力も十分に整ったので、人類の街をひとつ試しに滅ぼしてみましたが……それで姫様が出張ってくるとは。本当に面白いことになりましたな」


「まったく……じいやのせいでわしの主が動きづらくなったのじゃ。責任を取ってその首、貰い受ける」


 え?

 仲が良かったんじゃないのか?


「ちょっと待て、ベルナベル。お前とそのじいやとの間に確執はなさそうに聞こえたが、その上で話し合いでなく首の取り合いになるのは何故だ?」


「ん? 主には分からぬか……これが悪魔の生き方ゆえな。じいやは死に場所を求めておる。魔界に戻る術はなし。この魔神の威光の届かぬ地上で、生き甲斐もなく長い生を過ごさねばならぬのは地獄と同等よ」


「ベルナベルに仕えるという選択肢はないのか?」


「ふむ。……どうじゃ、じいやよ。わしの主は慈悲深いゆえ、そなたを殺さずにわしの配下になれと提案してくれておるぞ?」


 ベルナベルの言葉に、魔王であるじいやは「ほっほっほ」と朗らかに笑った。

 そして次の瞬間、その眼光に殺意が芽生えた。


「黙れ人間族(ヒューマン)の小僧。この身は魔王ぞ。我を慕う悪魔たちを裏切り、人類の手先になどなれると思ってかッ」


「……!?」


 豹変した魔王の〈威圧〉に、身体が一瞬、硬直する。

 ベルナベルは「それ見たことか」と笑って言った。


「じいやは責任感が強いからのう。舎弟の悪魔たちの手前、人類に下る選択肢などなかろう。だから殺してやるが唯一の優しさじゃ」


「……姫様。先程から聞いておれば、この身を殺してやる? 何を腑抜けたことを。この身を殺せると本気で思っているのなら、油断も甚だしいッ!! 死ぬのは姫様の方じゃッ!!」


「さあてのう。では試すしかないというわけじゃ。一騎討ちでよいな、じいや?」


「無論。……お主らは手出し無用。これはこの身と姫様との戦いゆえ――いざ参る!!」


 ゴウ、と魔力が渦巻き、魔王の顔が真っ赤に燃えるように変じた。

 いや実際に周囲には熱波が放たれているのだろうか、取り巻きの悪魔たちは距離を取って下がった。


「ベルナベル、随分と強そうな悪魔だが、勝てるんだろうな?」


「五分じゃな。なにせじいやは先代の“憤怒”の悪魔じゃ。並みではないぞ」


 …………はい?

 ちょ、それはヤバくないか!?


 俺はベルナベルを死なせないように、魔王が強力な相手なら逃がせと本体から命令を受けてきていた。

 そんなこと知るか、と言わんばかりに両者ともに本気モードで、戦闘は始まったのだった――。


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