77.しかし魔王の配下だと?
俺はコーニエルに〈姿写し〉をした聖痕探索隊のひとりだ。
スタート地点のひとつであるジスレールフェルスの街で冒険者登録をしてから宿を一ヶ月分、前払いで部屋を借りた。
冒険者登録をわざわざしたのは他でもない。
〈代理人〉のスキルでは冒険者タグはおろか、衣服ですらコピーされないのだ。
全裸で生まれ、その場で〈アイテムボックス〉から衣服を取り出して着用する。
もしくは記憶の統合の直後なら、自分が着ていた衣服がその場に落ちているから、それを拾って着るのだ。
だから俺は名前を偽り、冒険者登録をした。
冒険者登録は偽名や二つ名での登録も可能なので、仮に職員が〈簡易人物鑑定〉などを持っていたとしても、問題ない。
身分証明証として、また解体場を借りるためにも、冒険者登録は必須なのである。
この作業は他のコーニエルに〈姿写し〉をした連中も大体、似たようなものだ。
例外はコウセイの名でベルナベルと冒険者登録してある銀ランクの冒険者タグと一級魔術師のタグだけである。
さて俺は〈精霊:使役〉を使って聖痕の位置を把握して、そちらに向けて徒歩で移動していた。
途中で森に入ることになったので、ナタで茂みや木の枝を切り落として進む。
ベルナベルがいない俺たちにとってはナタなどの冒険者道具は必需品だ。
森の開けた場所に出た。
ひとまずこの辺りで休憩にでもするか……そう思った瞬間のこと、俺は突風に吹き飛ばされて背後の木にしたたかに背中を打った。
「……な、なんだ!?」
「おっと。死ななかったのか? 魔法に耐性でもあるのかね」
声の主は空にいた。
二本の鋭い角、一対の被膜の翼、三本の尻尾。
悪魔だ。
本体が配布してくれた魔術に耐性のある魔法の衣服に感謝しつつ、上空を睨みつける。
「何者だ!?」
「巨大な魔力を見つけたので、つまみ食いに来ただけだ。そのまま、我が糧となるがいいわ!!」
俺は〈魔力眼〉を起動した。
悪魔から鋭い刃状の魔術が放たれ、こちらに向かってきているのが分かった。
俺は咄嗟にボーンガーディアンを召喚して、大盾でかばわせる。
「ぬ? 召喚系のスキルか?」
悪魔は不快そうな表情を見せた後に、地上に降りてきた。
そして腕を素振りの要領で振るう。
五本の赤い残光、恐らくベルナベルと同じ〈悪魔の爪〉だろう。
悪魔はボーンガーディアン相手に突っ込んできた。
「バラバラにしてやるよぉ!!」
ガキィ!!
しかしボーンガーディアンの甲冑には傷もつかない。
逆に大盾でぶん殴られて転倒する。
そこへボーンガーディアンの大剣が突き立てられた。
「がぁあぁあぁぁぁぁ?!」
悪魔がボーンガーディアンの大剣で地面に縫い留められたまま、苦悶の表情で絶叫した。
俺はボーンガーディアンの影から問うた。
「一体、何者だ。誰かと契約しているようじゃなさそうだが、野良の悪魔か?」
「ぐ、ふざけるな!! 魔王様の配下であるこの――ぐえ」
悪魔はボロボロと身体が崩れていき、灰のようなものに変じた。
恐らくダメージに耐えきれずに死んだのだろう。
しかし魔王の配下だと?
魔王の存在は青葉族の祖先が麾下に加わったと聞いたときに知った。
高位の悪魔だと思われるが、その配下が一体、このような場所で何をしているのか?
そのとき、森を越えて街の方で煙が上がっているのが見えた。
俺はすぐさま〈ホットライン〉で本体に連絡を取る。
「もしもし本体。ジスレールフェルスの街が今、どうなっているのか〈監視衛星〉を使って見てもらえるか?」
「分かった。何があったか簡潔に報告してくれ」
「魔王の配下を名乗る悪魔に襲われた。街の方で煙が上がっているのが気がかりで――」
「なんだ、これは?!」
「どうした本体?」
「ジスレールフェルスの街が、大量の悪魔に襲われている……!!」
「なんだと?」
「魔王の配下か? 分からないが、人類の街を滅ぼしに来るとは。いよいよ魔王とやらが動き出したのかもしれないな」
「俺はどうしたらいい?」
「そうだな、お前はそのまま聖痕探索を続けてくれ。魔王対策はこちらで別途、考える」
「了解した」
通話を切る。
どうやら魔王との戦いが始まろうとしているようだった。
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