75.俺が動き回るのはよくない。
タケヒトは警戒心を最大にして、こちらを伺っている。
そして、口を開いた。
「……何を、言っているんだい?」
「俺に隠し事はできない。お前が連日、地球人を殺した野郎だってことはバレバレだって言っているんだよ」
「…………」
タケヒトは黙り込む。
しかし次の瞬間、背中の戦斧を手にして、俺に斬り掛かってきた。
その動きはとても素早く意表を突かれたものの、ボーンナイトを一体召喚する程度の距離は空いていた。
ガキィン!!
大盾が戦斧を阻む。
タケヒトは急に現れたボーンガーディアンに驚愕しつつ、しかし戦いを続ける。
「くそッ!! 斥候系かと思ったら魔術師系か!! 邪魔だ――〈フルスイング〉ッ!!」
タケヒトの渾身の一撃が放たれる。
しかし無情にも、それすらボーンガーディアンの大盾で弾かれた。
「何故だ……たかが召喚された魔物がなぜ、こんなに強い!?」
「お前にはボーンガーディアン一体で十分らしいな」
「俺はレベル二十九だぞ!! 地球人の中じゃトップクラスのはずなのに!!」
想像よりレベルが高かった。
恐らく俺を除けばタケヒトは地球人の中ではトップクラスにレベルが高いのだろう。
だが誤差のようなものだ。
たかだか二十レベル代でイキってもらっては困る。
ボーンガーディアンの無慈悲な一撃が振り下ろされる。
それをバックステップで回避すると、タケヒトは俺たちから遠ざかるようにして走り出した。
「世界を仕切る壁。拒絶、隔絶。空間障壁」
俺は〈空間:防御〉で退路を断つ。
本来ならば自分の防御用の魔術だが、壁として優秀なので、このように離れた位置に出すことで相手の進路を妨害できるのだ。
伊達に日々、魔術の研鑽に〈代理人〉を割いていない。
「なんだ? 見えない壁がある? くそ、くそ、こんなところで俺は死ぬわけには……!!」
〈空間:防御〉を戦斧で殴りつけるタケヒト。
何度も何度も殴るが、〈空間:防御〉の壁は単なる物理攻撃で破壊できる強度ではない。
「我は創造する。剣より長き刃もつもの。汝の名は槍――〈ホーミングジャベリン〉」
俺はトドメを刺すべく必中の槍を放つ。
魔術の行使の気配を感じ取ったのか、タケヒトが背後の俺たちの方を振り向いた。
心臓のある辺りを、〈ホーミングジャベリン〉が貫通した。
「ごはっ……!!」
盛大に血を吐いたタケヒトが、膝をつく。
そしてそのまま突っ伏した。
「うむ、弱かったのう。いや、主が強くなったと褒めるべきか? なんにせよ、目的は達したのう」
「そうだな。予想より、素早かった。レベル三十くらいの戦闘系クラスの動きが分かって勉強になったよ」
レベルが上昇することで身体能力が上昇していく戦闘系のクラス。
こうやって見ると、同レベルでは俺の自宅警備員は凄く弱いクラスなのだろう。
しかしレベルアップのために経験値増加スキルに聖痕を注ぎ込んだ結果がこれだ。
結局のところタケヒトがなぜ殺人鬼になったかの動機までは聞き出せなかった。
しかし結果として殺人鬼はこの世界から退場したので、ひとまずそれで良しとする。
「じゃあ本体のもとへ帰還しよう。ジスレールフェルスの街へはコーニエルに〈姿写し〉をした奴を送り込んだ方がいいからな。俺が動き回るのはよくない」
俺たちは〈隠れ家〉を使って本体のもとへと帰ることにする。
さすがに〈浮遊島〉からダイブさせるのは可哀想なので、ここに扉を残してやろう。
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