69.ふたりとも料理は駄目らしい。
唐突だが、俺はクロエとの結婚式に臨んでいた。
真っ白い花嫁姿のクロエは美しくて、可愛らしくて、愛おしさが込み上げてくる。
まだまだ子供らしいところもあるが、これからはひとりの女性として愛していかなければならない。
宿屋『鍋猫亭』の主人である義父のチェスカルが今日の宴料理を一手に引き受けている変則的な婚儀だ。
本来ならば花嫁の父親は主賓席にいるものだが、その辺の作法はキッパリと無視している辺りは、平民のおおらかさというものだろう。
クロエの女友達たちは早くに結婚し、花嫁衣装に身を包んでいるのを羨ましがっている。
その上、ここガエルドルフの街を襲ったガイアタイマイを単独で倒した銀ランク冒険者にして一級魔術師である俺は、花婿としてのステータスがかなり高いらしく、その点でもクロエは羨ましがられていた。
俺は友人たちに囲まれてはにかむクロエを眺めながら、こちらの知人の相手をしていた。
「結婚おめでとうございます、このロリコン」
「ご結婚おめでとうございます、コウセイさん。ええと……ちょっと相手の年齢が心配になりますけど……」
タクミとエミコだ。
この街で俺の知り合いといえば、このふたりくらいのもの。
一応、オーバン商会からタクミ経由で祝いの品が届いているが、あそこの主人とはシルクの件でやりとりした程度だから顔見知り程度なのである。
「あまり虐めてくれるなよ。俺だって年齢には思うところがあるのさ。だけどまあ、この世界だとこれ割りと普通らしいから」
「異世界を言い訳にするのは苦しいですよ、コウセイさん。まあ確かに日本の法律を異世界に持ち込むのもなんですが……」
タクミは笑いながら言った。
「コウセイさん、この世界で結婚するということは完全に地球に戻る気はないわけですね」
エミコの言葉に首肯した。
「ああ。もともと聖痕集めに興味もなかったし、地球にも未練はない。今は宿の跡継ぎになるために料理の勉強の真っ最中さ。食事改善スレを見ながら、地球の料理を再現しているところでね。ああでも〈料理〉のスキルは発現しているから、味の方は義父にも認められているんだ」
「え、コウセイさん〈料理〉スキルあるんですか。いいなあ。食事だけでも『鍋猫亭』に通おうかな」
「いいですね。私も冒険者パーティの打ち上げでお邪魔させてもらいたいです」
「ウチは酒場じゃなくて宿屋だからな? 宿泊客向けにしか料理は出していないぞ」
俺の言葉にタクミとエミコが顔を見合わせた。
「じゃあ俺、宿を移りますよ」
「私も移ろうかなあ。地球の料理が恋しいし」
どうやらふたりとも料理は駄目らしい。
タクミもエミコも日本にいた頃は実家暮らしだったそうだから、自炊はおろか一人暮らしの経験もないようだ。
「そろそろこの世界に来て一ヶ月か。宿代の前払いも終わるしな。お客さんが増えるのは歓迎するよ」
「そうですね。あっという間の一ヶ月でした」
「ええ。もう一ヶ月かあ。こちらの世界に慣れた自分に驚きですよ」
こうして和やかに、俺とクロエの結婚式は無事たくさんの祝福を得たのだった。
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