68.優雅な新生活はどこだ。
俺はオルタンスモーアの領主の娘ローレアと婚約した〈代理人〉だ。
旅を終えて戻った俺とローレアは領主ノーマンドに大歓迎された。
婚約期間中とはいえ、共に厳しい旅をして帰ってきたふたりの距離感に察するところがあったのだろう。
ノーマンドは早めに結婚式を挙げるようにと準備を始めた。
……アレだけヤリまくってたからなあ、妊娠していても不思議はない。
貴族の末席に名を連ねる栄誉を得た俺は、これから優雅な暮らしが始まるのかと期待と不安の新生活を想像できずにいたが……ちょっと予想外のことになった。
貴族らしい振る舞いができるようにと、礼儀作法の家庭教師を付けられたのである。
さらに貴族といえども働く必要がないわけではないらしく、執務のための勉強も叩き込まれることになったのである。
丸一日、勉強漬けの毎日が始まるとは思ってもみなかった。
優雅な新生活はどこだ。
とはいえ、久々の勉強は楽しいものだった。
本体も貴族の礼儀作法を吸収できるとあって、喜んでいたし。
ちなみに聖痕探索のためにダンジョンで狩った魔物は、俺の冒険の証として冒険者ギルドへ解体を任せることになった。
解体料金を差し引いて大幅な黒字になる予定で、その利益はオルタンスモーア家に入れることになった。
これからの生活費は領主の家から出るのだ、俺が現金を持つ必要はないらしい。
ベルナベルの不在については問いただされたが、新婚生活の邪魔にならぬように、また退屈しないように魔物を狩りに出していることになっている。
戦力として期待されているような節があるので、たまにはこちらにベルナベルを派遣してもらう必要がありそうだ。
「勉強の息抜きにお茶はいかがですか、未来の旦那様?」
「いただこうか、未来の奥方」
庭園を眺めながら、東屋でローレアとお茶をするのが休憩時間だ。
お茶と菓子を用意したら、侍女たちは話し声が聞こえない位置まで下がる。
婚約者同士の甘い会話を耳にしたくないというのもあるのだろうが、礼儀作法を忘れてくつろぐために砕けた会話も耳に入れるわけにはいかない、という配慮らしい。
まあ配慮が必要なのは俺にではなく、ローレアにだが。
「ご主人様と引き離されて、寂しい夜を送っております。もう我慢の限界ですわ」
「限界、早くないかなあ?」
「牢獄での奴隷生活が楽しすぎました。あんな屈辱、貴族女性が……ああもう。思い出すだけで催してくるではありませんか」
「お茶がまずくなるよ、ローレア。そうしたのは俺だから全面的に、悪いのは俺なんだけど……」
「いいえ。ご主人様はわたくしに女の喜びを教えてくださいました。きっと他の殿方では駄目なのですわ。ああ、わたくしったらなんて幸せなんでしょう……」
「幸せなら良かったけど。じゃあ新婚初夜が楽しみだね?」
「新婚……初夜……」
「これもプレイの一環だと考えればどうかな。ご主人様との初夜まで我慢すれば、きっと大変なご褒美が待っているよ?」
「ああ、ああ、そうですわね。それはいい考えですわ。これは我慢プレイ……」
ぐふふ、と貴族女性からは聞こえてはならない笑い声が聞こえたような気がしたが、スルーである。
こんな感じで、俺の貴族生活は順調に始まったのである。
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