65.やられた。
やられた。
〈新聞閲覧〉を見て、トップニュースにあったふたつの記事を見た感想だ。
ひとつ目のトップニュースはレナが聖痕を入手したという記事。
ふたつ目のトップニュースも、アカリが聖痕を入手したという記事だった。
リリカを含めてみっつの聖痕が他者に流れた。
こういう状況を避けるために、聖痕探索を優先していたのだが……。
やはり聖痕探索に〈代理人〉を複数、投入するのは必要なことだったか。
初動の遅れは取り戻さなければならない。
俺は〈匿名掲示板〉と新聞に目を通しながら、朝の情報収集を始めた。
黒影族の隠れ里では、コーニエルをひとりの〈代理人〉が観察していた。
〈姿写し〉に必要な時間は三分だ。
決して短い時間ではないが、知り合いに頼むのなら無理な時間ではない。
「よし」
「あ、もうよろしいのですか、コウセイ様?」
「ああ。――〈姿写し〉」
俺はコーニエルそっくりに化けた。
背格好は似たようなものなので、衣服はそのままでいいので、〈姿写し〉の対象にコーニエルを選んだのだ。
魔族ながら人類と見分けがつかないのもいい。
コーニエルは「おお、これは……!!」と感激した様子を見せた。
自分たちの祖先であるミミクリーシャドウのスキルを俺が使えたことに、驚きつつも感動しているらしい。
「すまないが、しばらく俺はコーニエルとして外で活動させてもらうからな」
「はい。コウセイ様のためなら、幾らでも私の容姿をお使いください」
ああ、使わせてもらうよ、幾つもな。
「じゃあ一旦、俺は別のところへ行くからな。朝からすまなかったな」
「いいえ。コウセイ様が多彩なスキルをお持ちだということが分かって得した気分ですよ。我らの主として心強いことです」
この様子を見ていたのはコーニエルだけでなく、隠れ里の一部とマニタだ。
やはり祖先のミミクリーシャドウのスキルを俺が使えるという話に興味があったらしい。
「ああそれとあと、名前もコーニエルを名乗るからな」
「どうぞどうぞ。私の姿と名前を偽って頂けるとは、光栄に存じます」
よく分からない価値観だが、それだけ祖先であるミミクリーシャドウを敬愛していたのかもしれない。
けれどそれを殺した俺に忠誠を誓っているので、そうでもないのか?
やっぱりよく分からなかった。
宿でふたりの〈代理人〉がコーニエルになった〈代理人〉を観察している。
そして〈姿写し〉でコーニエルの姿の〈代理人〉が三人になった。
この三人は、これよりガエルドルフ、オルタンスモーア、青葉族の隠れ里からそれぞれ聖痕を探すメンバーだ。
黒影族の隠れ里からは既にベルナベルを伴った〈代理人〉がダンジョンに潜っている。
スタート地点に選べる場所は、自宅領域のある三箇所というわけだ。
コーニエルの姿を借りた〈代理人〉たちは、それぞれ出発した。
これで地球人に見咎められたとしても、現地人の旅人にしか見えまい。
俺はベルナベルと昨日のダンジョン探索の続きに来ていた。
コーニエルに化けた〈代理人〉が三人、聖痕探索に派遣されたから、これからは少し忙しくなるだろう。
いや忙しくなるのは本体だから、俺じゃないか。
〈精霊:使役〉で宝箱と先へ進む階段を探しながら、ダンジョンを進んでいく。
階層が深くなるにつれて魔物も強くなるのだが、今のところまだボーンガーディアンの方が強い。
しかし罠の威力も上がってきているし、ボーンガーディアンが破壊される頻度が少し上がった気がする。
とはいえ戦術としては理にかなっているので、このまま継続するのだが。
《自宅警備員がレベルアップしました》
《〈写し技Ⅶ〉のクラススキルを習得しました》
コピースキルももう、ななつ目か。
感慨深いな。
〈写し技〉にはお世話になってきている。
今回も良いスキルをコピーできるといいのだが。
さてダンジョンの深部に到達したようで、魔物と罠はこれまでにないほど厳しくなっていた。
しかしボーンガーディアンと互角に渡り合える魔物が出始めたというだけで、まだベルナベルの出番はなかった。
ボーンガーディアンと互角だというのならば、もう一体追加してやればいい。
二体のボーンガーディアンを相手にさせ、俺も〈ホーミングジャベリン〉で攻撃すれば、まだまだ戦えた。
ダンジョンを進む際にはボーンガーディアンの一体を先行させて、もう一体は俺とベルナベルの護衛だ。
相変わらず罠を先行したボーンガーディアンに踏ませている作戦である。
なおここまでの魔物の死体は〈アイテムボックス〉に仕舞われている。
解体が面倒だが、金にはなるのだ。
捨てていくのはもったいない。
と、新しい魔物である。
雄牛と雌牛の魔物のようだ。
真っ赤な体表が特徴的で、今にも突進してきそうであった。
しかし二頭の牛の魔物を見て、ベルナベルがふと呟いた。
「ん? あれはレッドキャトルか」
「知っているのか、ベルナベル?」
これまでどんな魔物が出ても傍観を決め込んでいたベルナベルが、珍しく反応した。
強いのだろうか、と警戒心を強めると、意外な言葉が返ってきた。
「ああ。あれは美味じゃぞ」
「……は? ああ、肉が?」
「肉も乳もじゃ。魔物の中では美味で知られており、貴族がこよなく愛すると言われておるな。じゃがそれゆえに取り合いになるため、非常に高価でもある」
「ふうん」
俺はステータスに〈テイム〉と書いてあるのを久々に思い出した。
《名前 コウセイ 種族 人間族 性別 男 年齢 30
クラス 自宅警備員 レベル 67
スキル 〈人類共通語〉〈簡易人物鑑定〉〈聞き耳〉〈忍び足〉〈性豪〉
〈料理〉〈闇:召喚〉〈空間:防御〉〈時間:治癒〉〈創造:槍〉
〈精霊:使役〉〈同時発動〉〈通信販売〉〈新聞閲覧〉〈相場〉
〈個人輸入〉〈匿名掲示板〉〈魔力眼〉〈多重人格〉〈睡眠不要〉
〈闇市〉〈ボーンガーディアン召喚〉〈別荘〉〈夜の王〉〈隠れ里〉
〈牢獄〉〈テイム〉〈防犯カメラ〉〈ホットライン〉〈帰還〉〈領土〉
〈姿写し〉〈領域支配〉〈隠れ家Ⅲ〉〈代理人Ⅲ〉〈眷属強化〉
〈写し技Ⅶ〉〈アイテムボックス〉〈経験値35倍〉
〈契約:ベルナベル〉〈隷属:青葉族〉〈隷属:黒影族〉
〈従魔:マーダーホーネット〉》
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