6.なんかもうやる気なくなるわー。
日頃の運動不足もたたって、筋肉痛は翌日にはこなかった。
全身がダルいが。
しかしちゃんと眠れた充実感があった。
どうも不眠症は解消しているらしく、うつ病も薬の離脱症状はおろか、薬がなくとも気分が落ち込むことがない。
身体と心は健康になっているようだ。
異世界に転移した際のサービスだろうか。
女将の娘のクロエに聞いたところ、宿の裏手で水浴びができると聞いて喜び勇んで向かったのだが、外に衝立があるだけで、井戸から水を組んで桶からかぶるだけだった。
石鹸を買い忘れていたことに気づいたが、外出していないので大して汚れていないだろうから気にせずに身体をタオルで洗う。
ついでに今まで着ていた服を水洗いして、昨日購入した古着を身につける。
心なしかサッパリしたな。
……うん?
そういえばここは外じゃないのか?
自宅警備員の経験値は入手できているのだろうか。
よく見ると衝立の向こう側は道になっている。
手を伸ばすと、ホロウィンドウがポップアップする。
《警告。外出中は自宅警備員の経験値が一切、獲得できません》
なるほど、ここは宿の敷地内だからセーフなのか。
腕一本でも敷地外に出ると、経験値がもらえなくなるらしい。
判定の仕様が判明したのは嬉しい。
さっぱりしたので部屋に戻る。
さて、スキル習得の続きと行こうか。
その前に石鹸を購入しておきたい。
〈通信販売〉を起動して「ドラッグストア・ビューティー」のカテゴリを選択する。
石鹸はあった。
しかし高い。
この世界の物価に依存しているのだろう。
ふむ、自作するか?
材料はうろ覚えだが、しかしアルカリを扱うのは怖いな。
パッチテストもしなくてはならないだろうし、時間がかかり過ぎる。
というかお金を消費してばかりだが、どうやって稼ごうか。
《自宅警備員がレベルアップしました》
《〈新聞閲覧〉のクラススキルを習得しました》
〈新聞閲覧〉とな。
確かにウチは親が新聞を取っていたから俺も毎日、目を通していた。
というか、この世界に新聞とかあるのか。
さっそく〈新聞閲覧〉を起動する。
インターフェースは電子書籍リーダーに似ている。
ただし大画面だ。
というか日本語で書かれた「日刊毎日」という怪しい新聞だ。
一面のトップニュースは「期待の冒険者ルーキーデビュー」だった。
「昨日、エミコ(人間族/女性/15歳)という女性冒険者が誕生した。新人ながら銀ランク冒険者に挑み、辛くも敗北したものの、見物者を驚かせる戦闘能力を見せつけた」
ああ、新聞だから昨日のニュースがトップに来るわけか。
エミコねえ、名前からすると完全に地球人だ。
十五歳の女の子だとは思わなかったが。
「冒険者ランク 冒険者には等級があり、初心者の内は鉄ランク、数ヶ月から数年ほど経験を積むと銅ランクに昇格する。銀ランクはベテランであり、金ランクはエキスパートである。金ランク冒険者パーティともなると大都市にしかいない」
ほうほう、エミコはベテランを相手にいい勝負をしたわけか。
こりゃ戦闘能力じゃ敵わんな。
新聞に目を通していると、気になる記事を見つけてしまった。
経済欄だ。
「昨日、新人商人のタクミ(人間族/男性/22歳)は、ガエルドルフの大手商会であるオーバン商会に新商品を持ち込んだ。リバーシと呼ばれる新しい娯楽品であり、大人から子供までを対象にした商品だ。リバーシは簡単かつ奥深いルールで――」
ちょ、ちょっと待て、リバーシだと!?
早すぎないか、リバーシを作って持ち込むの。
もしかしてこのタクミって奴は、生産系のクラスなのか?
いかん、そのうち石鹸も商品化されそうだ。
マズいぞ、知識チートとかで勝てる気がしない。
…………別に勝てなくてもいいか?
少し待っていれば、安価な石鹸が入手できるようになるかもしれない。
ちょっと気になって〈通信販売〉の「ホビー」カテゴリを覗くと、既にリバーシが販売されていた。
それなりにお高い上に在庫なし状態である。
くそう、自宅警備員って弱くねえ!?
なんかもうやる気なくなるわー。
ベッドに仰向けに寝転がってステータスを確認する。
うん?
レベルが昨日は三だったのが五になっている。
どうやら寝ている間にレベルアップの通知を見逃していたらしい。
これからは毎朝、ステータスの確認をした方が良さそうだ。
気がついたら新しいスキルが増えていた、なんてことにもなりかねない。
俺は昨日に引き続き筋トレを頑張ってみたが、経験値増幅スキルは入手できなかった。
《名前 コウセイ 種族 人間族 性別 男 年齢 30
クラス 自宅警備員 レベル 5
スキル 〈人類共通語〉〈簡易人物鑑定〉〈聞き耳〉〈通信販売〉〈新聞閲覧〉
〈アイテムボックス〉〈経験値4倍〉》
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