58.ちょっと面白そうだと思ったんだが。
俺とベルナベルは〈隠れ家〉でいつも通り過ごしていた。
カーシャのもとから戻って来た〈代理人〉と記憶を統合する。
相変わらずのイチャラブ新婚プレイを見せつけられた。
しかし、人生どうなるか分からないものだ。
まさか俺が年齢が半分以上も離れたクロエと結婚するとはね。
〈隠れ家〉の入り口はどこか別の場所に変更しなければ不便だな。
それは後で考えるか。
「主も鬼畜じゃのう。責任を取ると言いつつ〈代理人〉に押し付けるとは」
「仕方がないだろ。俺の本体が宿屋に永久就職するわけにはいかない。聖痕集めが終わらないと、こればかりはどうにもならないね」
「ま、クロエは主の〈代理人〉をひとり占めできるから幸福じゃろうな」
「クロエを幸せにして、宿屋を盛り立てるのは〈代理人〉に任せる。あれもスキルで生まれた俺自身なのだから、頑張ってくれるだろ」
《自宅警備員がレベルアップしました》
《〈領域支配〉のクラススキルを習得しました》
……って空気を読まない通知が来たな。
レベルアップは嬉しいが。
ええと新しいスキルは、どうやら自宅での行動に強いボーナスを得るというものらしい。
常に自宅にいる本体である俺、クロエと結婚した〈代理人〉の俺は基本的に恩恵を受けることになりそうだ。
なかなか優秀なスキルじゃないか。
さて〈代理人〉を出して、ベルナベルと聖痕探しの続きだ。
〈隠れ家Ⅱ〉で昨日の続きからスタートだ。
〈精霊:使役〉で聖痕のある方角を調べて、その方向へ進む。
半日ほど進んだところで、精霊が距離を伝えてくるようになった。
どうやら聖痕の在り処は近いらしい。
それから一時間ほどで、ベルナベルが多数の魔力を感知した。
どうやら村かなにかがあるらしく、その中に強い魔力もあるらしい。
ベルナベルには〈威圧〉を消してもらい、村を訪問することにした。
村は高い木の塀で囲われており、入り口と思しき門の傍に見張り台があった。
そこに立つのは、褐色の肌をした人間族だった。
俺が気を抜くと、ベルナベルが「あれは魔族じゃぞ」と警告してきた。
ほとんど人間族と変わらなかったから気づかなかった。
ということは、聖痕を持っているのは魔族か悪魔だろうか。
カンカンカンカン、と激しく鐘が打ち鳴らされる。
人類がやって来たので、迎撃するらしい。
「仕方がない。聖痕を最優先にして、集落に侵入しよう」
「よいのか? 多数を相手取ることになるが」
「魔族に思うところはないよ。聖痕の持ち主を殺したら撤退すればいい」
「さて……そう上手くいくかのう」
「門の破壊は任せられるか、ベルナベル?」
「誰に物を言っておる。わしじゃぞ。楽勝じゃ」
俺はボーンウォーロードを召喚して、護衛につける。
ドゴォ!! と派手な音がして木でできた門が吹き飛んだ。
何をしたのか分からないが、ともあれ門は破壊されたので良しとする。
泡を食ったように魔族が混乱しているのが手に取るように分かる。
二体のボーンウォーロードで背後を守らせ、俺は〈魔力眼〉で聖痕を探す。
あった、魔族たちに守られるようにして現れた悪魔が身に宿していた。
その悪魔は人型だが、漆黒の影のようなペラペラした見た目で、非力に見える。
「ベルナベル、あの悪魔は?」
「あれはミミクリーシャドウという悪魔じゃな。薄い身体じゃが鋼ほどの強靭さがあり、影を伸ばして斬りつけてくる。じゃが今の主にとっては雑魚じゃ」
「そうか。ならば俺が戦ってみる。援護は頼むぞ」
「承知した」
もう一体、ボーンウォーロードを召喚して前衛にして、突っ込ませる。
大剣と大盾で魔族を蹴散らしながら悪魔に接近する。
ボーンナイトより圧倒的に強い。
このままだと悪魔もボーンウォーロードが倒しかねない。
しかし悪魔は何故かウネウネと動きながらこちらを観察しているようだ。
何かされているのだろうか?
念のため、〈写し技Ⅵ〉を起動する。
《現在の〈写し技Ⅵ〉の対象は以下の通りです。
〈魔力察知〉〈常駐障壁〉〈剣技〉〈盾技〉〈シールドバッシュ〉〈姿写し〉》
前者ふたつは多分、ベルナベルだろう。
〈剣技〉〈盾技〉〈シールドバッシュ〉はボーンウォーロードだな。
最後の〈姿写し〉だけが心当たりがない。
「ベルナベル、〈姿写し〉ってどんなスキルだ!?」
「ミミクリーシャドウの唯一の特徴じゃな。観察した相手に姿を変えるスキルじゃ。しかし外見だけで、中身は変わらぬ。取るに足らぬスキルじゃ」
「ほう?」
ちょっと面白そうだと思ったんだが。
……あ。
ボーンウォーロードが悪魔と戦い始めてしまった。
ミミクリーシャドウはその姿のまま影で斬りつけてくるが、ボーンウォーロードの大盾と甲冑を斬り裂くほどの威力はなさそうだ。
そしてそのまま、ボーンウォーロードが一刀両断してしまった。
「……本当に弱かったな」
「じゃろ? 本来は殺した人類に化けて成りすます小物じゃ。正面きっての戦いになると弱い」
「〈姿写し〉、面白そうだから習得してみたいんだけど、どう思う?」
「ふむ……中身が主の〈代理人〉となると、面白い応用ができそうじゃな。悪くないと思うぞ」
よし、ではこのスキルをもらおう。
《警告。〈写し技Ⅵ〉を〈姿写し〉に変化させますか?》
変化させてやった。
なるほど、これはある一定の時間、変身する対象を観察する必要があるらしい。
変身しても外見だけが変化するのみで、中身のスペックは俺自身のままだ。
ミミクリーシャドウから聖痕が剥離し、ひらひらと俺のもとへやって来た。
これでむっつ目の聖痕だ。
周囲の魔族たちは右往左往しながら、自分たちの祖先である悪魔を失って混乱している。
その中から、ひとりの魔族が進み出て、ベルナベルに跪いた。
「高位の悪魔とお見受けします。どうか集落の者たちの命は見逃していただけないでしょうか?」
「わしはこちらの主に召喚された悪魔、“淫蕩の”ベルナベルじゃ。主はコウセイという名じゃ」
「七大罪の悪魔……!! あ、いえ。そのコウセイ様。どうか、我らの命を見逃していただけないでしょうか」
俺はボーンウォーロードを背後に控えさせながら、告げた。
「俺はミミクリーシャドウの持っていた聖痕が欲しかっただけだ。魔族と戦いに来たわけじゃない。だからお前たちが戦いを望まないのならば、殺しはしない」
「聖痕、とは……あの祖先様に刻まれた文字のことでしょうか?」
「そうだ。あれはもう俺のものになった。だからこの集落にもう用事はない」
「なるほど……あの、もしよろしければ、コウセイ様とベルナベル様の庇護を受けることは可能でしょうか。私たち黒影族は戦うことが苦手で、このように集落に引きこもってまいりました」
「庇護? 俺に隷属したいのか?」
「隷属の誓いですか。それをお望みでしたら、私たちは誓います。引き換えになにとぞ、か弱い私どもをお守りください」
チラリとベルナベルを見る。
「良いのではないか? 青葉族と同じじゃ。主の配下が増えるだけじゃ」
「そうだな。俺に隷属するなら、この集落を守ってやろう」
その言葉に、魔族の代表者は「かしこまりました。これより、黒影族はコウセイ様とベルナベル様に忠誠を誓います」と告げた。
そして集落の魔族すべてが跪き、俺たちに頭を垂れた。
《黒影族の集落が自宅として認定されました》
黒影族が俺に隷属したせいで、集落が俺の自宅領域になった。
俺は黒影族の集落にも〈隠れ里〉を展開してやった。
ドーム状の結界に覆われた集落の空を見上げて、魔族の代表者が不安そうな顔をする。
「ここは俺のスキルで隠れ里になった。そういえば代表者の名前をまだ聞いていなかったな」
「は、申し遅れました。私の名はコーニエルと申します。黒影族の代表を務めています。その、隠れ里というのは?」
俺は〈隠れ里〉について説明した。
そのスキルの効果にコーニエルを始めとして黒影族の面々は感激した様子で、「もうこれで外敵を恐れなくて済む」と喜んでくれた。
黒影族の集落では既に農業も行われている様子なので、手を入れる必要はなさそうだ。
酪農まで行われている。
「そうだ、俺の召喚したボーンウォーロードに斬られた者は? 生きているなら治癒魔術をかける」
「ありがたいことです。……怪我人がいたら連れてこい!!」
数名の怪我人を〈時間:治癒〉で癒した。
傷跡もなく癒えたのを見て、黒影族が驚いている。
こうして、黒影族を隷属させた俺は、長であったミミクリーシャドウの屋敷で今後について話を聞くことにした。
《名前 コウセイ 種族 人間族 性別 男 年齢 30
クラス 自宅警備員 レベル 57
スキル 〈人類共通語〉〈簡易人物鑑定〉〈聞き耳〉〈忍び足〉〈性豪〉
〈闇:召喚〉〈空間:防御〉〈時間:治癒〉〈創造:槍〉
〈精霊:使役〉〈通信販売〉〈新聞閲覧〉〈隠れ家〉〈相場〉
〈個人輸入〉〈匿名掲示板〉〈魔力眼〉〈代理人〉〈隠れ家Ⅱ〉
〈多重人格〉〈睡眠不要〉〈闇市〉〈ボーンウォーロード召喚〉
〈別荘〉〈夜の王〉〈隠れ里〉〈牢獄〉〈テイム〉〈防犯カメラ〉
〈ホットライン〉〈代理人Ⅱ〉〈帰還〉〈領土〉〈姿写し〉
〈領域支配〉〈アイテムボックス〉〈経験値30倍〉
〈契約:ベルナベル〉〈隷属:青葉族〉〈隷属:黒影族〉
〈従魔:マーダーホーネット〉》
面白い、続きが読みたい、そういった読者様は評価とブックマークで応援してください。
評価とブックマークは作者のモチベーションに関わるため、是非ともお願いします。




