51.最悪の作戦だった。
和やかな雰囲気で終わった晩餐の後、俺は客間でベルナベルを問い詰めていた。
「で? どうやってここから逆転するんだ?」
「まあ待て。まず主にとって最良の結果を得るのが良いと思って、これからする提案を聞くのじゃ」
「最良の結果?」
「そうじゃ。主は今後も聖痕を集めるために冒険の旅をしなければならぬ。そして当然、貴族と揉め事はご法度じゃ。ここまでは良いな?」
「……まあ、そうだな」
「ではやることはひとつ。お主の婚約者であるローレアという娘を籠絡して、味方につけるのじゃ。婚約して即、結婚するというわけではない。婚約期間中に、聖痕を集めきれば良い」
「……籠絡して、味方につける?」
何を言い出すんだコイツ。
いや待て、そういえばコイツは“淫蕩の”ベルナベルだった。
まともな助言を期待した俺が馬鹿だったのだ。
「わしが手伝う故、娘ひとり籠絡するのは余裕じゃぞ。ここで貴族の身分を手にした上で、聖痕集めもできる。完璧じゃ」
「何が完璧なんだよ……!!」
「というわけで、もう少し夜が深まったら夜這いじゃ」
「話を進めるな……!!」
「ではどうする? 逃げるか? 地の果てまで追ってくるぞ。貴族のメンツに賭けてな」
「く……っ」
「安心せよ主よ。わしが、このわしが、手伝うのじゃ。失敗などありはせん」
「自信たっぷりのところ悪いが、ベルナベルは男を誘惑することはできても、女であるローレアは誘惑できないだろ? どうするんだ?」
「くふふ……男女の交わりの片方が男じゃぞ。そんなの決まっておろう」
ベルナベルは告げる。
「そなたをケダモノにしてやるのじゃ」
最悪の作戦だった。
泣こうが喚こうが、ベルナベルの張った結界から声が漏れることはなく、その夜、ひとりの高貴な娘が、淫らな饗宴に捧げられた。
《ローレアの部屋が自宅として認定されました》
詳細はとてもここでは述べられないが、結果として次のようになった。
「お父様。コウセイ様は崇高な目的があって旅をしていらっしゃるのですって。創生の女神から与えられた試練で、どうしても旅を続けなければならないの。だからどうか、婚約期間中、コウセイ様が旅に出るのを許して差し上げて」
キョトンとしている両親を説得しにかかるローレア。
俺はその様子を死んだ魚のような目で眺めていることしかできなかった。
しかしローレアは頑張ってくれた。
なんとか両親を説得して、俺が旅に出る許可をもぎ取ったのである。
ただし何故かローレアも着いてくるという条件で。
「ご主人さまと離れ離れになるだなんて考えられません。責任を取ってくださいまし。もうわたくし、ご主人さまなしじゃ生きていけませんもの」
客間でローレアはそう宣言した。
ローレアは家庭教師から魔術を習っており、呪文の暗記がおぼつかない以外、才能のある魔術師だそうだ。
貴族の嗜みとして剣も習っており、女だてらにそこそこの腕前を誇るとか。
正直なところ、戦ったら俺より強いかもしれなかった。
旅の支度を整えてくる、と告げて自室へ戻ったローレア。
俺はとにかくこの記憶を本体と共有してやりたくて、〈隠れ家Ⅱ〉を起動して、宿の本体の元へ戻った。
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