50.これここで断ったら斬られるな。
食事をしながら、歓談する。
もっぱら話を振られるのは俺に対してのみだ。
悪魔であるベルナベルは俺の配下扱いなのか、完全に会話から無視されている。
ベルナベルについて話題が触れることもあったが、それも俺に対して問う形で行われていた。
「ガエルドルフがガイアタイマイを討伐したという話は聞いていたが、君ひとりで倒したというのは称賛に値する。よくぞあの災厄をひとりで倒したものだ」
「いえ。俺のチカラというわけではなく、こちらのベルナベルのチカラが優れていたのです」
「だが君が召喚した契約悪魔だろう? それは君の実力の内だよ」
「そうなるんですかね」
「なるとも。……ところで君は未婚かね?」
唐突な話題の転換に首を傾げそうになりながら、どうにか頭を固定することに成功した。
「はい、結婚はしておりません」
「婚約者もいないのかな?」
「いませんが……それがなにか?」
「いや、てっきりガエルドルフや他の街の貴族からの縁談などがあったりしなかったのかな、と思ってね」
「貴族からの縁談が、俺にですか?」
「不思議はないと思うがね。なにせガイアタイマイを単独で倒す英雄だ。馬車の中から見ていたが、あれだけのスケルトンを使役する魔術も素晴らしい。どうだね、ウチの娘のローレアなどは」
「どうって……どういう意味でしょうか」
「うん? ローレアは身内贔屓もあるが、美しい娘だろう?」
「はい。お綺麗ですね」
「良かった。ではコウセイくん、ローレアと婚約してくれるね?」
…………は?
俺が目を点にしていると、沈黙は肯定だと言わんばかりにノーマンドはまくしたてる。
「今日は非常にめでたい日だ。王都の学園に通っているふたりの息子が不在なのが残念なくらいだよ。よかったな、ローレア。このように見どころのある青年が婚約者となってくれるとは、幸運だ」
「……はい、お父様」
ちょ、え?
何がどうしてこうなった!?
俺が慌ててベルナベルに視線をやると、完璧なテーブルマナーで食事を続けている姿が目に入る。
助け舟などは期待できそうもない。
というか口の端が笑みで吊り上がっている。
絶対にこれ、面白がっているよなあ。
すぐに誤解を解いて婚約の話をなかったことにしなければ、と思ったが、ふと『ブラックシールド』のリーダーの言葉が脳裏に過ぎった。
……貴族の誘いを断ることは基本的にできない、だったか?
これはどうなんだろうか。
一生を左右する話だが、これも断ることのできない話なのか?
ベルナベルに〈ホットライン〉を繋げて小声で喋りかける。
「おい、これどうやって断るのが正解なんだ?」
「面白いから話は受けておけ」
「面白くなくて良い。断る方法を聞いているんだ」
「殺し合いになりたくなくば、受けるしかないぞ。断ればあちらの貴族らは侮辱されたと捉えて主を斬れと命じなくてはならなくなる。貴族のメンツを潰そうというのだから当然じゃな」
「なら逃げるのは? 〈隠れ家Ⅱ〉を使ってこの場から消えればいい」
「止めておけ。ガエルドルフにいる本体が危険にさらされるぞ」
「……ッ!!」
そうか、ここで逃げても宿を拠点にしている本体が狙われるのか。
その場合は本体を別荘に移すことでなんとか逃げ切れなくもないが……。
「大丈夫じゃ。わしに策がある。婚約話はこのまま受けておけ」
「……本当か?」
「主を騙してどうする。ほれ、とっくに断る段階は通り過ぎておるぞ」
食卓を囲む領主一家はもちろん、使用人たちも「おめでとうございます、お嬢様」と口々に祝福の言葉が飛んでいる。
確かに、これここで断ったら斬られるな。
かくして、俺は領主の娘であるローレアと婚約することになった。
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