49.古着のチュニックだしね、仕方ないね。
馬車の後をタラタラと歩いていると、銀ランク冒険者パーティ『ブラックシールド』のリーダーっぽい人が話しかけてきた。
「さっきはヒヤヒヤしたよ。まさか貴族様からのお誘いを断ろうとするなんてね」
「すみません。貴族とかよく分からなくて」
「ははは、よく分からなくても逆らったらマズいことくらいは分かりそうなものだけどね。銀ランクなんだし、それなりに世の中を渡ってきたんだろう?」
「いや、それが街を襲ってきた魔物を退治しただけで昇格してきたもので。貴族とは関わったことはなかったんです」
「そうなのかい? そんなに頻繁に魔物から襲撃される街なのか?」
「いえ。一度だけですよ。ただ相手がガイアタイマイだったもので」
「ガイアタイマイだって!? それってもしかしてガエルドルフのことじゃないかい?」
「そうです。ご存知なんですか?」
「そりゃ……たったひとりの冒険者でほとんど倒したって噂だけど……それが君たちのことだったのか」
どうやらガエルドルフがガイアタイマイに襲われて、そこをたったひとりの冒険者がなんとかした、というような噂が流れていたらしい。
普通は一笑に付される噂だが、目撃者が多すぎたため、事実として浸透しているようだ。
「なるほどなあ。あれだけの数のスケルトンを使役した上に、強い悪魔とも契約している。単独でガイアタイマイを倒したっていう話だが納得だよ」
実際にはボーンナイトは使っていないし、ベルナベルが〈空間:攻撃〉で瞬殺したのだが、そこまで細かい話は伝わっていなかったようだ。
その後も雑談に付き合いながら歩いていると、オルタンスモーアの街が見えてきた。
街の門を領主の顔パスで通り抜け、領主の館に入る。
ズラリと侍従たちが並んで領主一家を出迎えた。
いかにも貴族らしいというか、なんというか。
領主のノーマンドは執事に客人がふたりいることを伝え、部屋の用意をしてくれることとなった。
護衛を終えた『ブラックシールド』の面々は報酬の件で話があるといい、まだ少し滞在するようだ。
俺たちは客間に通された。
勝手に館の中を動き回ることもできないので、今のうちに本体に連絡をしておくことにした。
〈ホットライン〉を起動する。
「もしもし。聞こえるか、本体?」
「ああ。聞こえるよ〈代理人〉。何かあったか?」
「それが……」
聖痕を野盗が持っていたこと。
野盗に襲われていたのがオルタンスモーアの領主一家の馬車だったこと。
お礼にと歓待を受けることになったこと。
一通り説明をしておいた。
「なるほどな。カーシャには今日は旅で他の街に宿泊することになったと伝えておくよ」
「よろしく頼む」
通話を切ると、ベルナベルが奇妙なものを見るような目でこちらを見ていた。
「どうした、ベルナベル?」
「いや、誰もいないのに空中に話しかけておるようで、奇妙な光景じゃった。スキルを知らなければ、気が触れたかと思われても仕方のない様子じゃったな」
確かに電話を知らない異世界人にすれば、そんなものだろう。
しばし待たされていると、部屋に侍従たちがやって来た。
用事は晩餐のための衣服を用意したいとのことだった。
ベルナベルのゴスロリは上等なドレスだと認識されたようだが、俺の普段着はそうではなかったようで、領主ノーマンドの服を借りることになった。
古着のチュニックだしね、仕方ないね。
お金に困っていないのでこの際だからもう少し衣服のグレードを上げてもいいかとも思ったが、冒険で汚れたりほつれたりするので、それも考えものだ。
ノーマンドの服はタキシードのような正装だった。
サイズはピッタリとはいかないが、そう大きな差はなかった。
衣装合わせにはさほど時間はかからなかった。
そして遂に晩餐の席に呼ばれた。
先に領主一家が揃って席についていた。
俺たちは入り口から近い席だから、下座だ。
さすがに命の恩人だからといっても、貴族よりよい席には座らせてはもらえない。
とはいえ平民と悪魔と同じテーブルを囲むのだから、感謝の意は十分に伝わってきていた。
俺たちが席につくと、逆に領主一家が立ち上がる。
「命の恩人である銀ランク冒険者コウセイに礼を言う。君たちが来なければ死んでいただろう。本当にありがとう」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
奥さんと娘さんからもお礼を言われた。
どう返せばいいのか困惑したが、特に返礼は必要なかったらしく、領主一家は席についた。
「では心づくしの料理を堪能していってくれたまえ」
どうやらコース料理らしい。
前菜が運ばれてきた。
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