48.ほうら、面倒なことになったぞ。
そこは街道だった。
平原の隅をゆるやかに蛇行する道で、ちょうど反対側は森になっている。
そこで俺たちは薄汚い男たちに襲われている馬車を発見した。
聖痕の在り処はあそこで間違いない。
持ち主は、人類らしかった。
……最悪だな。
人殺しが確定している。
いやそんなことより、今は野盗らしき男たちをなんとかして、馬車を助けるべきだろうか。
聖痕をどちらが持っているかは分からないが、馬車の方は劣勢だ。
「ベルナベル、野盗を片付ける」
「承知したのじゃ」
ベルナベルが風のような速さで駆ける。
俺は走っても追いつけそうもないので、ボーンナイトを召喚した。
鎧と盾を省いた軽装だが、しっかりと剣はもたせてある。
実は走らせると俺より速いのだ。
というか、俺が遅いのだが。
ベルナベルが接敵した。
数人の野盗をひと薙ぎで殺す。
いつもより血しぶきが目に痛いのは、気のせいか。
俺は走りながらボーンナイトを増産していく。
続々と生まれては走るボーンナイトも一体目が遂に馬車のもとへとたどり着く。
その手の剣が、野盗を斬った。
ボーンナイトの数は十分だろう。
馬車を守りつつ、野盗の排除にも数を十分に割けている。
もっとも最初に接敵したベルナベルが順調に殺しているので、もう野盗はわずかしか残っていない。
敗走することも許されず、野盗たちは全滅した。
俺が馬車のもとへと辿り着いたのは、野盗がすべて死体になって転がっているところだった。
野盗のひとりから、聖痕が剥がれ落ちて、俺の方へと飛来してきた。
どうやら野盗のひとりが聖痕を宿していたらしい。
ベルナベルが近づいてきた。
返り血が綺麗に消えているから、〈水:浄化〉でも使ったんだろう。
「どうやら目的は達したようじゃな」
「ああ」
必要がなくなったので、ボーンナイトを消していく。
馬車の護衛として冒険者らしき連中がいたが、あからさまにホッとした様子だった。
そりゃ野盗も怖いが、スケルトンの大群も十分に怖いよな。
馬車を見ると、どうやら旅商人の荷馬車などではなく、貴人が移動に使うためのもののようだった。
「無事か? 俺は銀ランク冒険者のコウセイだ」
「俺たちは銀ランク冒険者パーティ『ブラックシールド』だ。先程のスケルトンは君が?」
「そうだ。ちゃんと馬車を守りつつ野盗だけを攻撃したはずだが」
「ああ、それには感謝している。あとそちらの髪の長いお嬢さんも君の仲間か?」
「俺が召喚して契約している悪魔だ。見たところ護衛の依頼のようだが、馬車の中は無事か?」
「もちろんだ。礼をしたいので、ちょっと待っててくれ」
『ブラックシールド』という名の通り、六人パーティのうち三人の前衛の盾は黒塗りで統一されている。
銀ランクパーティを雇っているということは、馬車の主はそれなりに身分が高そうだ。
謝礼はどうでもいいし、聖痕は手に入ったので、ここにはもう用事はない。
だが帰還するには〈隠れ家Ⅱ〉を使う必要があるし、そう考えると馬車の主と対面せざるを得ない。
……厄介事にならなければいいんだが。
馬車の扉が開かれて、現れたのは三人の貴族らしき人物たちだった。
家族らしく、一家の主であろう壮年の男性と、その妻らしきドレスを着た女性、そして夫妻の娘らしきドレスを着た少女の組み合わせだ。
壮年の男性が『ブラックシールド』たちにさり気なく守られながら馬車を降りる。
「銀ランク冒険者ということだが、君たちが来てくれなかったら野盗に殺されていただろう。礼を言う。ありがとう」
「いいえ。当然のことをしたまでです」
「ふむ……数多くのスケルトンを使役し、あまつさえ強力な悪魔と契約している銀ランクの冒険者をタダ働きさせるわけにはいかない。ただ今、手持ちが少なくてね。礼をしたいので、是非とも我が家でもてなしたい」
ほうら、面倒なことになったぞ。
「いや、礼には及ばないです。俺たちは急ぎの旅をしている最中ですので、これにて失礼したいのですが」
「そんなに急ぐのかね? 私の街はすぐ近くだが」
周囲の『ブラックシールド』の面々が誘いを受けろ、と目が語っている。
傍にいたベルナベルがそっと耳打ちしてきた。
「地上の常識じゃが、貴族の誘いを断るのは無礼とされておるはずじゃぞ。諦めて歓待に応じておくのが無難じゃと思うがな」
マジですか。
ていうか俺よりこの世界の世情に詳しい悪魔とは一体……。
「ああ、いえ。確かに急ぎではあるのですが……そうですね。別に一泊くらいなら街に寄っても構わないです」
「そうか! では一緒に来てくれたまえ。おっと名を名乗っていなかったね。私はオルタンスモーアの領主ノーマンドだ。そちらは妻のマドラベラ、娘のローレアだ」
「銀ランク冒険者のコウセイです。こちらは悪魔のベルナベルです」
「よろしくコウセイくん」
オルタンスモーアの街の名は記憶にある。
〈個人輸入〉の際に見た覚えがあるのだ。
ノーマンドは馬車に乗り、俺とベルナベルは馬車の後をついて歩いていくことになった。
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