43.なかなか強いぞ、ボーンナイト。
俺とベルナベルは遂に、聖痕をもつ魔物が見えるところまで来ていた。
デカい。
沼地に屹立するのは、九つの首を持つ亜竜、ヒドラだ。
「むぅ、厄介じゃのう。あれは首を落としても再生するからな……長期戦になるか」
「なあベルナベル、邪魔にならない程度に俺も手伝っていいか?」
「ほう。主が戦闘に興味を示すとは珍しいのう」
「聖痕の奪い合いが今後、起きるとしたらやっぱり戦闘経験は積んでおきたいんだ。同郷の者たちと殺し合いをするのは勘弁だが、巻き込まれないとも限らない」
「良い心がけじゃ。創世の女神のすることじゃからなあ。聖痕を集め終わったときに何が起こるかは分からんぞ」
「魔神を信仰しているから、じゃないよな。創世の女神って性格が悪いのか?」
「それは異世界人を多数召喚して聖痕を探させているところから察することもできよう」
「一理あるな」
クスリと笑って緊張が解けた。
さあ、戦闘開始だ。
聖痕は神々の欠片であるため、悪魔のチカラは弾かれる。
故にベルナベルは爪ではなく、魔術で戦わねばならない。
もっとも魔術の得意なベルナベルにはハンデにならないが。
こちらも戦闘準備に入る。
〈ボーンナイト召喚〉に多めに魔力を注いで、完全武装のスケルトンを用意した。
騎士甲冑に大剣と盾を持った姿は心強い。
俺の召喚を待っていたかのように、ベルナベルが魔術を放った。
いつもの〈空間:攻撃〉ではなく、どうやら〈火:攻撃〉のようだった。
強烈な炎の輪がヒドラに向けて放たれた。
「ヒドラは凄まじい再生能力を持っておるが、炎に弱い。傷をつけたら炎で焼けば、その部分は再生できぬのじゃ」
「なるほど」
ボーンナイトが接敵する。
盾と剣を巧みに操り、ヒドラと斬り合う。
なかなか強いぞ、ボーンナイト。
俺もボーンナイトを支援すべく、魔術を放つことにした。
「我は創造する。剣より長き刃もつもの。汝の名は槍――〈ホーミングジャベリン〉!!」
追尾する槍をヒドラの首のひとつに狙いを定め、投げる。
貫通力は十分だ、ヒドラの首のひとつを潰すことができた。
だがみるみるうちに傷が再生していく。
そのとき、ベルナベルが炎の輪を投げつけた。
ヒドラの再生が止まる。
ボーンナイトもなんとか首のひとつを剣で両断した。
なかなかにやる。
俺は追加でボーンナイトを召喚すると、前線に送り出した。
ヒドラとてやられっぱなしではない。
首は絶えずボーンナイトに噛みつき攻撃をしているし、毒の吐息を吐き出している。
もっともアンデッドであるボーンナイトに毒は効果がないようで、首の打撃攻撃のみが脅威だ。
盾で上手く防御しているが、魔力の霧散がやや早い。
ダメージを受けているということだろう。
俺の〈ホーミングジャベリン〉、ベルナベルの炎の輪による攻撃、ボーンナイトたちの大剣による斬撃。
攻撃力は十分だったらしく、確かにいつもより長期戦になったが無事にヒドラを討伐できた。
「うむ。なかなかの相手じゃったな、主よ」
「ああ。ベルナベルがいなかったら延々と再生されていたんだろ? 厄介だなあ」
「確かにのう。まあ相性もある。仮にわしがいなくとも、主ならば〈火:攻撃〉の魔術を使える冒険者を雇うなりしてなんとかできたじゃろう」
確かにたったひとりで立ち向かう相手じゃない。
やり方はいくらでもある、か。
死んだヒドラから聖痕が飛来して、俺の左腕に宿った。
本体に戻ったときに、スキルの強化が行われることだろう。
「主よ。ヒドラの強い再生力は薬になると聞いたことがあるのじゃ。死体を丸ごと冒険者ギルドに持ち込めば、金になると思うぞ」
「そうか。じゃあ〈アイテムボックス〉に入れて持ち帰ろう」
その日の冒険は終わりにして、冒険者ギルドへ向かうことにした。
ベルナベルの言った通り、ヒドラは良薬になるらしく、ボロボロの死体だったにも関わらず金貨十二枚になった。
本来ならばパーティを組んで攻略する相手だが、報酬を頭割りする必要がないため俺ひとりの収入になる。
そろそろ〈闇市〉の手数料と相まって金がダブつき始めている。
お金の使い道を考えないとな……。
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