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初期クラスが自宅警備員であるため一歩でも宿から出ると経験値が全く得られなくなるらしいので、自室に引きこもります!  作者: イ尹口欠
聖痕収集編

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39.え、なにその物騒な魔術。

 集落で朝食を摂ったら、ベルナベルと冒険に出かける。

 夕方になったら別荘に戻ると言ってあるからか、青葉族の面々は安心して見送ってくれた。


 俺たちはベルナベルが感知したという強い魔力のある方向へと歩いていく。

 歩くこと二~三時間、急に空気が冷えたような気がして俺は周囲を見渡した。

 鬱蒼と茂る木々が太陽を隠している。

 日陰だから涼しいのか、と納得しかけたとき、前を歩いていたベルナベルが呟く。


「どうやら向こうもこちらに気づいたようじゃな。まあこれだけ〈威圧〉をバラ撒いておるのじゃ、よほど鈍感でない限り気づくはずじゃがさて。何が出てくるやら」


「もう強い魔力の持ち主のところに来ていたのか」


「うむ。もう少ししたら姿が見えるはずじゃ」


 ベルナベルはズンズンと先へ進む。

 俺も遅れないように、その後をついていく。

 そしてソレと対面することになった。


 ……半透明な人影。幽霊か?


 ベルナベルは感心したように頷いた。


「ほうほう。これは見事なレイスじゃ。不死を追い求め、己をアンデッドに貶めてまでこの世に留まる生き汚さ、なかなかに見応えがあるのう」


「レイス? 自分を幽霊に変えて不老不死を目指したってことか?」


「まあそんなところじゃな。じゃが古いレイスじゃ、耄碌しておるようじゃな」


「――誰が耄碌している、だと」


 声は目の前にたたずむレイスから聞こえてきた。

 レイスは不快そうな表情で、俺たちに語りかけてくる。


「自ら死地に足を踏み入れたこと、後悔してももう遅い。汝らは儂の贄となるのだ」


「はン? レイス風情が大きく出たものじゃな。良かろう、格の違いを見せてやろう!」


 ベルナベルがノリノリだ。

 どうやら戦うに値する相手らしい。


 ……というか、そんな相手なら俺は巻き込まれるのではないか?


 幽霊を相手に〈空間:攻撃〉は効かないかもしれない。

 魔術で瞬殺できない相手というのは初めてではなかろうか。


 戦いはどちらともなく始まった。


 レイスは周囲の地面から沢山のスケルトンをボコボコと生み出す。

 ベルナベルは両手の爪をひるがえしながら赤い五条の残光をまとう。

 スケルトンを斬り刻むベルナベル。

 レイスは距離を取るべく下がりながら、唐突に魔術を放つ。


「凍れ。魂も、肉体も、精神でさえも。抗うことはできない。凍えて止まれ!!」


「格の差も分からぬか。〈氷:即死〉なぞ効かぬわ!!」


 え、なにその物騒な魔術。

 次々とスケルトンを生み出し、魔術を練り上げるレイスに対して、ベルナベルは踊るように両手の爪で骸骨どもを蹴散らし接近していく。


 ベルナベルが適度に手を抜きつつ戦いを楽しんでいるのが分かる。

 ふとこのときに〈写し技Ⅳ〉を使えばいいのではないか、と思いついた。


《現在の〈写し技Ⅳ〉の対象は以下の通りです。

 〈悪魔の爪〉〈常駐障壁〉〈格闘技〉〈スケルトン召喚〉〈氷:攻撃〉〈高速詠唱〉〈多重詠唱〉》


 お、詠唱系があるぞ。

 どうやらベルナベルの〈詠唱破棄〉のようにパッシブじゃないらしい。

 レイスの顔は憎々しげに歪んでいる。

 その憎悪の表情には焦りも見え隠れしていた。


 ひとまず〈写し技Ⅳ〉の結果はこのままキープしとこう。


 戦いはベルナベルが圧倒していると言っていい。

 召喚されるスケルトンたちはベルナベルが片手をひと振りするだけで爪の餌食になる。

 レイスの魔術はことごとく無効化されており、打つ手がないように思えた。


 そして遂にレイスに爪が届く。


「く、なぜだ、霊体の儂に傷をつけるなど!?」


「わしの爪じゃぞ。霊体だからといって逃れられると思うな?」


「こ、凍えろ。白き世界。すべてを染め――」


「遅いわ!!」


 ベルナベルの爪がレイスを引き裂いた。

 レイスは音にならない悲鳴をあげて、静かに塵と化した。


「……まあこんなものじゃろ」


 爪をひと振りして、こちらに戻って来た。


「む、その魔法は……なるほど、戦いの最中にスキルを写し取ろうとしておったのか。何か面白いものはあったか?」


「ああ。見慣れないスキルが幾つか。多分ベルナベルのスキルだろうけど〈常駐障壁〉、それとレイスから〈スケルトン召喚〉〈高速詠唱〉〈多重詠唱〉だな」


「ふむ。なるほどのう。その中なら断然、〈スケルトン召喚〉じゃな」


「あれ。〈高速詠唱〉や〈多重詠唱〉は?」


「主が魔術に熟達しておるならその手もあるが、慣れぬ詠唱方法はスキルがあった上で失敗するぞ? それより〈スケルトン召喚〉じゃ。主、自分の属性と特性を忘れてはおらぬじゃろうな」


「あ、〈闇:召喚〉か。何かあるのか?」


「うむ。相性が良いぞ。先程のレイスがやっていたことくらいなら、同じことができよう」


 マジか。

 レイスが次々とスケルトンを召喚していたのはなかなか凄かった。

 言わば攻撃する壁を生み出すようなものだ。

 相手が悪かったが、ベルナベルを敵に回すのでなければ十分に有効なスキルだっただろう。


「よし、じゃあ〈スケルトン召喚〉にする」


《警告。〈写し技Ⅳ〉を〈スケルトン召喚〉に変化させますか?》


 〈写し技Ⅳ〉を変化させた。

 試しに使ってみる。


「来い」


 地面からスケルトンが現れる。

 コイツって別に地面の中にある骸骨を動かしているのではなく、俺の魔力の塊でできた骨らしい。

 そういう意味では〈創造:槍〉に近い。

 魔力が霧散すれば勝手に消えることだろう。


 特に命令もないので、スケルトンは棒立ちだ。


「うむ、見事じゃな。主の才能と噛み合っておる」


「ああ、思ったより使い勝手が良さそうだな。ベルナベルの助言に従って良かったよ」


「じゃろ? さて、どうするか。一旦、宿に戻っておくか?」


「そうだな。……ところでその手に持っているのは?」


 いつの間にかベルナベルは透き通った丸い石を持っていた。


「これか? レイスの魔力が氷結した魔石じゃな。素材として冒険者ギルドに持ち込めば、それなりの値になるじゃろ」


「そっか。預かるよ」


 俺はレイスの魔石を〈アイテムボックス〉に入れた。

 そして〈隠れ家Ⅱ〉を起動して、宿へ戻る。


 〈代理人〉を解除して、相変わらず飽きもせず〈匿名掲示板〉を眺めている本体と記憶の統合を行った。

 そして再び〈代理人〉を起動して冒険者ギルドへ向かう。


 レイスの魔石は冒険者ギルドを慌てさせた。

 自力でアンデッドにまで至れる強力な魔術師の魔力の結晶だ。

 それは触媒としても一級品であり、希少価値も加味するとかなり高額になるらしい。

 金貨八枚にもなった。


《名前 コウセイ 種族 人間族(ヒューマン) 性別 男 年齢 30

 クラス 自宅警備員 レベル 31

 スキル 〈人類共通語〉〈簡易人物鑑定〉〈聞き耳〉〈忍び足〉〈性豪〉

     〈闇:召喚〉〈空間:防御〉〈時間:治癒〉〈創造:槍〉

     〈精霊:使役〉〈通信販売〉〈新聞閲覧〉〈隠れ家〉〈相場〉

     〈個人輸入〉〈匿名掲示板〉〈魔力眼〉〈代理人〉〈隠れ家Ⅱ〉

     〈二重人格〉〈睡眠不要〉〈闇市〉〈スケルトン召喚〉〈別荘〉

     〈アイテムボックス〉〈経験値15倍〉〈契約:ベルナベル〉

     〈隷属:青葉族〉》


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