37.ふたつ目の聖痕が本体に宿る。
女性たちと子どもたちも老人たちも、全員が改めて俺たちの前にひざまずく。
ベルナベルは横でニヤニヤしている。
俺は壇上から、彼らを見下ろしていた。
非常に居心地が悪いのだが……。
ふとよく見ると女性や子どもたちがどうにも痩せているように見えた。
「なあ、アーチャド。もしかして食料が満足に摂れていないのか?」
「はっ。森には魔物がおりましたので、食料を採取しに行くことができず……。お見苦しいですが、ご容赦ください。魔物はベルナベル様に討ち取られたので、これで食料を採取に行けます」
「そうか……農業とかはしないのか?」
「農業ですか。この通り深い森に集落があるため、十分な耕作地を用意できません。森に行けば野草や果物、それから弱い魔物の肉が採取できるので、困っておりません」
なるほど、森の中だから開墾するのも一苦労というわけか。
チラっとベルナベルを見る。
「なんじゃ主。木々が邪魔なら、わしがなんとかしてやれるぞ」
「畑を作れれば、採取に頼らずに安定して食料が得られるだろ。頼めるか?」
「分かったのじゃ」
ベルナベルが動き出してからはあっという間だった。
木々の枝打ちをして、材木として切り出し、根っこを謎のチカラで引っこ抜く。
どんどんと開墾されていき、集落は元の倍以上の広さになった。
俺は〈通信販売〉で穀物の種籾を購入して、アーチャドに渡した。
「農業のやり方は分かるか?」
「はい。長老たち老人なら、知っています」
「ならこれを撒いて、育てるといい。しばらくは採取で食料を賄わなければならないが、農業の方が安定して食料を得られるだろう?」
「はっ!! コウセイ様のお心遣いに感謝いたします!!」
いちいち大げさな奴だなあ。
材木は乾燥させる必要があるが、人口が増える頃にはログハウスを増やすこともできるだろう。
とりあえず、さしあたってはティラノサウルスの肉を食べればいいだろう。
「あの魔物の肉は食べられそうか? 食べられるなら提供する」
「よろしいのですか!? あのような強力な魔物ならば、人類の街で売ればそれなりの金貨になるかと思いますが……」
「金には困っていないから、まずは食事だ。女性と子どもたちは切り詰めていたんだろ? あ、でもいきなり肉は重いか?」
粗食ばかりで内蔵が弱っているところに肉を大量に食べたら、腹を壊しそうだ。
そんな心配は無用とばかりにベルナベルが口を開いた。
「安心せよ主。魔族は人類ほどやわではない。悪魔の血筋じゃ、魔物の肉はすぐに血肉となり、栄養状態も改善するじゃろ」
「そうか、なら焼肉パーティーだな」
そろそろ日が暮れそうだ。
一度、戻った方がいいだろうが……この様子だと帰してくれそうもない。
だが音沙汰なしで外泊などしたら、本体が心配するだろう。
〈隠れ家Ⅱ〉を設置して、一旦、外泊の許可を本体に取りに行くことにした。
「ちょっと俺は宿に戻る。すぐにこちらに戻ってくるから、気にせずに料理を始めててくれ」
「わしが残っておこう。そうすればこやつらも安心じゃろう」
ベルナベルが残っていれば、俺が少し席を外しても大丈夫だろう。
俺は本体のもとへ急いだ。
〈代理人〉を解除すると、記憶が統合された。
同時に、ふたつ目の聖痕が本体に宿る。
《聖痕をその身に宿しました。強化するスキルをひとつ指定してください》
もちろん指定するスキルは〈経験値10倍〉だ。
《〈経験値10倍〉のスキルが〈経験値15倍〉に進化しました》
よし、問題なく経験値増幅スキルが更に加速したぞ。
俺は再度、〈代理人〉を起動して、青葉族の集落へと派遣した。
《名前 コウセイ 種族 人間族 性別 男 年齢 30
クラス 自宅警備員 レベル 29
スキル 〈人類共通語〉〈簡易人物鑑定〉〈聞き耳〉〈忍び足〉〈性豪〉
〈闇:召喚〉〈空間:防御〉〈時間:治癒〉〈創造:槍〉
〈精霊:使役〉〈通信販売〉〈新聞閲覧〉〈隠れ家〉〈相場〉
〈個人輸入〉〈匿名掲示板〉〈魔力眼〉〈代理人〉〈隠れ家Ⅱ〉
〈二重人格〉〈睡眠不要〉〈闇市〉〈写し技Ⅳ〉〈アイテムボックス〉
〈経験値15倍〉〈契約:ベルナベル〉〈隷属:青葉族〉》
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