35.大した手間じゃないはずだ。
朝になった。
ベルナベルはベッドでゴロゴロしている。
朝食までは昨晩の〈淫夢〉を反芻しているのだろう。
俺はといえば〈睡眠不要〉なので一晩中、〈匿名掲示板〉と〈闇市〉を行ったり来たりしていた。
今は〈新聞閲覧〉で昨日のニュースを仕入れているところだ。
なお地球人のいない街にあった『魔法の基礎』を〈個人輸入〉で買い漁り、〈闇市〉に放流したのは俺である。
お陰で儲かった。
朝食の後、部屋に戻ると、ホロウィンドウがポップアップした。
《自宅警備員がレベルアップしました》
《〈写し技Ⅳ〉のクラススキルを習得しました》
レベルアップが早いな。
そしてまたコピースキルだ。
これ使う対象に困るんだよなあ。
魔術も揃ってきているし、欲しいスキルが正直なところない。
とはいえ何度も食事の場面で使っていれば、いずれ有用なスキルを得られると信じているが……。
さて今日も〈代理人〉はベルナベルと共に冒険だ。
本体である俺は〈隠れ家〉で大人しく〈匿名掲示板〉の管理をしていよう。
前回の冒険の続きから、というわけで隕鉄を拾った山の山頂付近からのスタートである。
ベルナベルは周囲を見渡しながら、強い魔物の気配を探っている。
俺はそんなベルナベルをぼんやりと眺めながら、手頃な岩に腰掛けているところだ。
「うむうむ、あっちの方角から強い魔力の反応がある。行ってみようぞ、主よ」
「分かった」
冒険はベルナベルの暇つぶしだから、俺は唯々諾々と従うまでだ。
主従あべこべだが、インドア派の俺はついていくしかない。
山を降りることになった。
杖はトロールとの戦いで放り捨てたから、また良い感じの木の棒を探さなければならない。
斜面をゆっくりと降りていると、ふとベルナベルが足を止めた。
「どうした?」
「うーむ、わしの〈威圧〉を受けながら、こちらに近づいてくる者がおる」
「魔物か?」
「いや。悪魔じゃな。正確には悪魔の末裔……魔族じゃ」
「魔族?」
「うむ。わしのように召喚された悪魔が解放された後に、生み出した眷属じゃな。人類と悪魔の交配の結果、生まれてきた種族が魔族じゃな」
「へえ。そういえば俺の本体が死んだら、ベルナベルは自由になれるんだよな?」
「そうじゃな。できるだけ長生きして欲しいところじゃが……」
「自由になりたくないのか?」
「いや、自由は得難い。しかし主も希少な資質を持つ人間族じゃ。わしは主がどこまで行くのか、見届けたい」
「そんな大層な人間じゃないぞ、俺は」
「謙遜するでない。わしを召喚した時点で、主は非凡じゃ。…………来るぞ」
山の斜面を登ってくるのは、森人族のように耳が尖った男性だ。
しかし肌の色は青ざめていて、人類ではない、とひと目で分かった。
ベルナベルの〈威圧〉に耐えているのか、汗をかきながら怯えた様子で、しかし着実に距離を詰めてくる。
一体、何が彼をそこまで駆り立てるのか。
互いの声が届く距離に来て、魔族の男はベルナベルに膝を折り、祈るように口を開いた。
「高位の悪魔であるとお見受けします。卑小な私の言葉をお聞き下さること光栄に存じます。……どうか、我ら一族をお救いください」
「そなたらの一族を生んだ悪魔はどうした?」
「我ら一族を生んだ悪魔は、一族を捨てて魔王の元へ馳せ参じました。今、我ら一族を庇護する悪魔はおりません」
「魔王? なんじゃそやつは」
「高位の悪魔です。あなた様とどちらが上かは卑小な魔族の私には分かりかねますが、私たち一族を生んだ悪魔は魔王の麾下につきました」
「ふうん。魔王か。面白い存在がおるのう。……それで、そなたらはわしにどうして欲しいのじゃ?」
「我ら一族は存亡の危機にあります。どうか魔物に滅ぼされる前に、我ら一族をお救いください。謝礼は我が一族の忠誠を捧げます」
「祖の悪魔を裏切り、わしに隷属するというのか? 意味は分かっておろうな?」
「は。もはや祖には見捨てられた一族。今更、他の悪魔にお仕えしても不義理とはならないでしょう」
「……ふむ、どうする主よ? この者らを救ってやるか?」
ベルナベルが悪い笑顔を浮かべてこちらを振り返った。
「魔族は人類の子孫でもあるんだろ。魔物を退治するくらいはしてやってもいいんじゃないのか?」
忠誠やら隷属やらの話は俺には関係ない。
魔物を倒してベルナベルに魔族の部下ができるのなら、悪い話じゃないだろう。
なにせ暇を持て余しているベルナベルだ、自由に玩弄できる玩具を与えておけば、冒険の頻度も減るかもしれない。
俺の考え通りにいくかは分からないが、魔物が相手ならばベルナベルが瞬殺してくれるだろう。
大した手間じゃないはずだ。
「よし、決まりじゃ。主の慈悲深さに感謝せよ。さあ、そなたの集落に案内せよ」
魔族の男は俺とベルナベルを見比べて、再び平伏した。
《名前 コウセイ 種族 人間族 性別 男 年齢 30
クラス 自宅警備員 レベル 29
スキル 〈人類共通語〉〈簡易人物鑑定〉〈聞き耳〉〈忍び足〉〈性豪〉
〈闇:召喚〉〈空間:防御〉〈時間:治癒〉〈創造:槍〉
〈精霊:使役〉〈通信販売〉〈新聞閲覧〉〈隠れ家〉〈相場〉
〈個人輸入〉〈匿名掲示板〉〈魔力眼〉〈代理人〉〈隠れ家Ⅱ〉
〈二重人格〉〈睡眠不要〉〈闇市〉〈写し技Ⅳ〉〈アイテムボックス〉
〈経験値10倍〉〈契約:ベルナベル〉》
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