32.実戦経験ってやっぱり重要なんだな。
朝食後は〈代理人〉とベルナベルで冒険の続きだ。
山の中腹からのスタートになる。
昨日、拾った木の棒を杖代わりにして、なんとか頂上付近まで来た。
〈魔力眼〉で見れば、確かに魔力が渦巻いている。
頂上からはぬぅっと巨大な影が立ち上がった。
その魔物を見て、ベルナベルは溜め息をついた。
「ハズレじゃ。トロールの変異種。雑魚じゃな」
「そうなのか?」
「うむ。変異種になったのは、山頂の魔力を浴び続けたせいじゃろうが……トロールではわしの相手にもならん。期待ハズレじゃ。しかし主にはちょうどいい相手じゃな」
「俺に?」
「うむ。主よ、アレと戦ってみると良い。今の主なら倒せる。魔術戦のコツは敵との間合いを常に空けること。距離感に気をつければ勝てる相手じゃぞ。やってみよ」
「よ、よし。やってやる!!」
トロールは全身が緑色で体表がテカテカしている。
雄叫びを上げながら、俺たちの方に突っ込んできた。
俺は慌てて杖を放り捨てて、呪文の詠唱に入る。
「我は創造する。剣より長き刃もつもの。汝の名は槍。――〈ホーミングジャベリン〉!!」
作成した槍は初速加速と追尾機能を持った使い捨ての投槍だ。
投げるため柄は短めで、しかし刃の貫通力に魔力を注いであるので威力は高いはずだ。
初速加速の効果で非力な俺が投げても勢いよくかっ飛んでいくのである。
「くらえッ!!」
シュバ!!
トロールの顔面に槍が的を過たずに真っ直ぐ飛ぶ。
しかしトロールの腕で防がれた。
トロールの左腕に深々と突き刺さった槍は、魔力が霧散して消滅する。
突き刺さっていた槍が消えたことでトロールの腕からダラリと大量の血が流れ落ちる。
効いている。
よし、次だ、次。
「我は創造する。剣より長き刃もつもの。汝の名は槍。――〈ホーミングジャベリン〉!!」
トロールはグングンと距離を詰めてくる。
俺はまたも頭部を吹き飛ばす勢いで槍を投げた。
トロールは今度は右腕で顔をかばう。
やはり深々と突き刺さったが、顔にまで到達しない。
マズい、距離がかなり縮まっている。
長い腕から逃れるため、俺は山の斜面を滑り落ちるように駆ける。
さてもう一度、攻撃しよう。
しかし追尾機能があるのに防がれるのは、俺が悪いのではないか?
ふとそんな考えが頭を過ぎる。
なぜ、防がれた?
ひとつの閃きが頭に浮かぶ。
「我は創造する。剣より長き刃もつもの。汝の名は槍。――〈ホーミングジャベリン〉!!」
今度は敢えてトロールからハズレた場所を狙って投擲した。
トロールはチラリと槍があらぬ方向へ飛んでいったことに気をよくしながら、こちらへ走り寄る。
巨体ゆえに一歩が大きい。
しかし、トロールの後頭部を俺の〈ホーミングジャベリン〉が吹き飛ばした。
「グオオオオオオ!?」
顔面を貫通して、トロールは倒れた。
俺の最初と二度目の攻撃が防がれたのは、頭部を狙ったせいだ。
追尾機能があるのだから、狙いを外しても必中するわけで、わざわざ頭部を狙う必要などなかったというわけ。
実戦経験ってやっぱり重要なんだな。
「うむ、見事じゃ主。トロールの変異種は金になるじゃろう。〈アイテムボックス〉に仕舞うと良いぞ」
「ああ」
トロールを〈アイテムボックス〉に仕舞う。
ちなみに魔力の渦は山頂で渦巻いているままだ。
どうやらトロールの変異種が原因というわけじゃないらしい。
「さてさて、何があるじゃろうな」
「この魔力の渦、一体なんなんだ?」
「分からぬ。じゃが視れば分かるじゃろ」
山頂に登ると、少し窪んだクレーター状になっていた。
その中心に、黒い石が強烈な魔力を放っていた。
「隕石か?」
「天より降る石か。確かに魔力はこの石から放たれておるな」
手にとっても大丈夫なものなのか。
逡巡していると、あっさりとベルナベルが手に取った。
「ふむふむ、ただの魔力を内包した隕鉄じゃな。武器を作るのに最適な素材じゃが……わしらには不要じゃな」
「そうか。でもお宝なんだろ?」
「うむ。価値が分かる者に見せれば、高値で売れるじゃろ」
オーバン商会にでも持ち込んでみるか。
ベルナベルから受け取った隕鉄を〈アイテムボックス〉に仕舞う。
「さて……次はどこへ向かうかのう」
「まだ強い奴を探してさまようのか?」
「当然じゃ。雑魚と戯れても仕方ないじゃろ。わしは退屈は好きではないんじゃ」
取り敢えず今日のところは冒険者ギルドとオーバン商会へ行くため、冒険は切り上げることにした。
トロールの変異種の死体は冒険者ギルドに喜ばれた。
金貨一枚で買い取ってもらえたのだ。
高値なのは、変異種はサンダーバードより珍しいからだろう。
また隕鉄を持ち込んだオーバン商会では、レイドリックが非常に喜んで金貨六枚で買い取ってくれた。
シルクより高値なのは、単純に魔力を帯びた隕鉄が希少だからだそうだ。
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