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初期クラスが自宅警備員であるため一歩でも宿から出ると経験値が全く得られなくなるらしいので、自室に引きこもります!  作者: イ尹口欠
聖痕収集編

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30.別に性癖の内容までは聞いていない。

 冒険者ギルドのマスター、山人族(ドワーフ)のギュスタンが声を張り上げた。


「今からこの街に、ガイアタイマイがやって来る! ガイアタイマイは人を積極的に襲う魔物ではないが、その巨体の進路上にガエルドルフの街がある! なんとしてでも進行を食い止めねば、街に甚大な被害が出るだろう!」


 冒険者たちが深刻そうな表情になった。


「なあベルナベル、ガイアタイマイってどんな魔物なんだ?」


「小山ほどの大きさの陸ガメじゃ。人類と敵対することはまずないが、同時に興味もないため平気で踏み潰していく。ガイアタイマイの進路上に街があるなら、確かに被害が心配になるじゃろうな」


 なるほど、デカいカメね。

 俺たちはギュスタンの指揮で街を出てガイアタイマイを迎え撃つこととなった。

 ズーン、ズーン、と音が聞こえてきた頃には、確かに小山ほどの巨大なカメがこちらに向かってきていたのだ。


 ……ていうか本当に小山ほどもあるぞ。


 木々の上に甲羅の天辺が覗いている。

 それがだんだんと近づいてくるのだ。

 やがて首が、前足が、木々をなぎ倒しながら森を抜けて見えてきた。


「よし、全員、かかれ!!」


 ギュスタンの掛け声とともに、冒険者たちが一斉に魔術と矢を放つ。

 しかしガイアタイマイは鬱陶しそうにするだけで、ダメージになっていない。


 近接攻撃組が前に出て武器を振るうが、やはりこれも浅い傷をつけるに過ぎなかった。


「おいおい、どうするんだ? まったく攻撃が効いていないぞ」


「仕方ないのう。わしがなんとかしてやるか」


「頼む、ベルナベル」


「うむ」


 右手を突き出したベルナベルが「てい」と大したチカラも込められていない掛け声をかけると、同時にガイアタイマイの首が切断された。

 恐らく〈空間:攻撃〉の魔術だろう。

 広範囲を切断したから間違いない。


 周囲の冒険者たちは突然のガイアタイマイの死に呆然としている。


「ちょ、今の何!? 何をしたの!?」


 魔術師ギルドのマスターのリリアレットが困惑と興奮が入り混じった微妙な感じで俺に掴みかかってきた。


「落ち着いてください。ベルナベルの攻撃魔術です」


「そんなの分かっているわよ!! 何の属性の魔術だったの!? ガイアタイマイの巨大な首を一刀両断なんて……そんな……」


 空間属性のことは人類はまだ知らない。

 未知の魔術を使ったのだから、この反応は当然か。


「結果が出たのだから、何をしたかはどうでもいいでしょう。離してください」


「うう、やっぱり七大罪の悪魔が野放しになるのは怖すぎるわよ……しっかり手綱を握っていてね、コウセイくん?」


「はい」


 冒険者たちは大して役に立たず、ベルナベルひとりで倒した形になった。

 とはいえ招集しておいて命がけで戦わせて無報酬というわけにはいかない。

 冒険者ギルドはガイアタイマイ討伐報酬の三分の二を俺たちに、残りを集まった冒険者たちに分配した。

 金貨にして二十枚が俺たちの取り分だ。


 なおガイアタイマイの運搬は〈アイテムボックス〉を持っているエミコが担当した。

 報酬の分配は揉めることもなく、むしろ「俺ら何も貢献してないけど報酬もらって良いのか?」という困惑顔が多数を占めていた。

 そして俺とベルナベルはやや遠巻きに避けられていたようだ。

 ガイアタイマイを瞬殺した悪魔を従える俺も、畏怖の対象らしい。

 他の冒険者たちと馴れ合う気はあまりしないので、別に構わないけど。


 報酬の精算もスムーズに終わったため、俺たちは割りと早くに解放された。

 そのため宿に戻って、ベルナベルから〈精霊:使役〉の呪文を教わることにしたのだ。


 〈隠れ家〉に戻ると、本体が〈匿名掲示板〉を眺めていた。


「お、早かったな。お疲れ、〈代理人〉とベルナベル」


「ああ」


「うむ」


 そういえば〈代理人〉を解除したら、俺たちの記憶はどうなるのだろうか。


「なあベルナベル、〈代理人〉を解除したら、俺たちの記憶ってどうなると思う?」


「ん? 安心せい。統合されるはずじゃ」


「そうか、なら安心だな」


 早速〈精霊:使役〉の呪文を教わる。


「〈精霊:使役〉の呪文は、『世界の運行を司る精霊たちよ。我が命に従え』と唱えた後に、具体的な命令を下すのじゃ。そうすると、その場にいる精霊が命令通りに動く。割りと複雑な命令もこなすが、精霊によっては得意不得意があるし、無理な命令はできぬ。できるだけ大雑把かつ具体的な命令が必要じゃ」


「大雑把かつ具体的ってなんだ?」


「そうじゃのう。魔術師ギルドの森人族(エルフ)が命令したのは、多分じゃがこんな感じじゃろ。『コウセイを探して居場所を知らせろ』、辺りじゃな」


「人探しなんてできるのか。便利だな」


「うむ。このときに注意するのが、目的をハッキリ伝えることと、手段は問わないということじゃ。目的をハッキリ伝えず例えば『コウセイを探せ』だけの命令じゃと、探すだけで術者に教えに来ないじゃろう。また手段を厳密に伝えても、精霊の持つ属性や特性によっては不可能なこともあるので、手段はできるだけ精霊に任せるのが良いとされておる」


「なるほど……目的は具体的に、手段は大雑把に、というわけか」


「そうじゃ。慣れれば便利なはずじゃ。試しに使ってみるか?」


「よし。――世界の運行を司る精霊たちよ。我が命に従え。昨晩、ベルナベルが〈淫夢〉を使った男を探して俺に知らせろ」


 周囲に丸い光が幾つか瞬き、散っていった。

 あれが精霊か。


 ベルナベルは半目になりながら「なぜそんな命令を……まあ使い方はそれで合っておるが」と複雑そうな表情だ。


 しばらく待つと、精霊が戻ってきた。

 頭の中に「パン屋のジョナサンと大工のガエル」という声が聞こえてきた。


「ベルナベル、パン屋のジョナサンと大工のガエル、で合っているのか?」


「うむ。パン屋のジョナサンは人妻プレイで、大工のガエルは露出趣味じゃった」


「別に性癖の内容までは聞いていない」


「そうか」


 本体が微妙な表情で俺たちを見ていた。


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