29.おい、なんだこの不穏なスキルは?
翌朝、起きた途端にホロウィンドウがポップアップした。
《自宅警備員がレベルアップしました》
《〈二重人格〉のクラススキルを習得しました》
おい、なんだこの不穏なスキルは?
いつの間にか横のベッドで眠っていたベルナベルを起こす。
「なんじゃ主。どうした?」
「新しいクラススキルが不穏な名前なんだが、どういう効果か分かるか?」
「ううん? どれ……」
目を細めてベルナベルが俺のスキルを覗き見る。
途端、パァっと笑顔になった。
「ほう! これは良いスキルじゃ、主よ」
「そうなのか?」
「うむ。主は〈代理人〉を起動すると意識を〈代理人〉に移す必要があるじゃろ。しかし〈二重人格〉があれば、主の本体はそのままで〈代理人〉に主の人格をコピーできるのじゃ」
「なんと。それは凄く便利じゃないか」
最近は放置気味だった〈匿名掲示板〉の管理を一日中、行いながら〈代理人〉がベルナベルと冒険に出かけることができるのだ。
スレの管理はしていたが、内容に目を通す暇があまりなかったんだよな。
情報収集が捗る。
これはありがたいスキルだった。
朝食の席で〈写し技Ⅲ〉を使う。
《現在の〈写し技Ⅲ〉の対象は以下の通りです。
〈料理〉〈給仕〉〈鋭敏味覚〉〈鋼の胃袋〉〈精霊:使役〉》
んんん?
これは魔術なのか?
小声で食事を楽しんでいるベルナベルに問うた。
「なあベルナベル。〈精霊:使役〉ってスキル、分かるか?」
「ふむ? 森人族のレアスキルじゃな。その名の通り、この世界の運行を助ける精霊を使役するスキルじゃが……」
「森人族のってことは、ベルナベルは使えないのか?」
「もちろんじゃ。そうか、〈写し技〉なら種族固有のレアスキルも習得できるのか。美味しいぞ、それは。それに決めてしまえ」
「分かった」
《警告。〈写し技Ⅲ〉を〈精霊:使役〉に変化させますか?》
よしOKだ。
……と勢いで習得したが、魔術ゆえに呪文が分からない。
「なあベルナベル、〈精霊:使役〉の呪文って分かるか?」
「知識にはある。後で教えよう」
「よし、頼むよ」
そう言ったところで、宿の扉が勢いよく開いた。
「コウセイくんはいる!?」
魔術師ギルドのギルドマスターのリリアレットだ。
もしかしたら〈精霊:使役〉は彼女が使っていた可能性もあるな。
宿内に森人族は見当たらないし。
「はい、なんでしょうかリリアレットさん」
「すぐに来て欲しいの。強力な魔物が街に近づいてきているのよ。チカラを貸してちょうだい」
視線が一瞬だけ、ベルナベルに移った。
まあ俺に助力を、というよりはベルナベルのチカラをアテにして来たのだろう。
「分かりました。準備をしてくるので少し待っていてください」
「準備? いいけど早くしてね」
俺たちは朝食を残して、部屋に戻る。
〈隠れ家〉を起動して、〈代理人〉を起動する。
今日から本体の意識はそのままで、〈代理人〉もそのまま動ける。
「俺は〈新聞閲覧〉と〈匿名掲示板〉の管理をしている。後はよろしく〈代理人〉」
「分かった本体。行こうベルナベル」
「うむ」
食堂に戻ると、イライラした様子のリリアレットが俺たちを捕まえた。
「さあ、急いで!!」
「分かりましたから、袖を引っ張るのはよしてください」
「じゃあ着いてきなさい!!」
よほど慌てているのか、リリアレットは全力疾走し始めた。
速い。
「主の足では厳しいのう」
俺はベルナベルにお姫様だっこされながら、リリアレットに追いつく。
情けない姿だが、仕方がない。
街の門の前には、幾つかの冒険者パーティが控えていた。
その中には知った顔もいた。
エミコだ。
「あれ、コウセイさん……?」
「やあ、おはようエミコ」
「なんでここに? あ、危ないですよここ! すぐに強力な魔物がやって来るんです!」
「大丈夫。俺も最近、冒険者になったんだよ」
「え? あ、ほんとだ。冒険者タグ…………ってええ!? 銀ランク!?」
エミコは銅ランクのままだ。
そうか、俺はエミコを追い越していたのか。
「そろそろ降ろしてくれ、ベルナベル」
「うむ」
俺は大地に立つと、改めてエミコにベルナベルを紹介する。
「エミコ、この長い髪の悪魔が俺の相棒。ベルナベルだ。俺が銀ランクになったのは、召喚したベルナベルがメチャクチャ強いからなんだ。俺自身は弱いままだよ」
「え、召喚? コウセイさん、魔法を覚えたんですか?」
「ああ。まあね。……ベルナベル。この子はエミコ。俺と同郷の剣士だ」
「同郷、か。ふむ、なるほどのう」
それだけで地球人であることを察したのだろう。
エミコのスキルを覗いているに違いない。
エミコは「どうやって魔法を習得したんですか? 確か『魔法の基礎』は凄く高価な本だったと思うんですけど」と問うてきた。
「もちろん普通に購入したんだよ。もし金貨で三枚、用意できるなら俺の『魔法の基礎』を売ってあげるけど」
「本当ですか!? この街の『魔法の基礎』はタクミさんが買ってしまったので、入荷待ちだったんです」
やっぱりタクミが購入していたか。
他の街でも『魔法の基礎』は早いもの勝ちだ。
今の俺には魔法全般に詳しいベルナベルがいるから、正直もうあの本に頼る必要はない。
エミコは〈アイテムボックス〉から金貨三枚を出した。
即断即決である。
俺も〈アイテムボックス〉から『魔法の基礎』を出して、エミコに売却した。
「緊張感のない子たちねえ……」
リリアレットが呆れた様子で俺たちを眺めていた。
《名前 コウセイ 種族 人間族 性別 男 年齢 30
クラス 自宅警備員 レベル 23
スキル 〈人類共通語〉〈簡易人物鑑定〉〈聞き耳〉〈忍び足〉〈性豪〉
〈闇:召喚〉〈空間:防御〉〈時間:治癒〉〈創造:槍〉
〈精霊:使役〉〈通信販売〉〈新聞閲覧〉〈隠れ家〉〈相場〉
〈個人輸入〉〈匿名掲示板〉〈魔力眼〉〈代理人〉〈隠れ家Ⅱ〉
〈二重人格〉〈アイテムボックス〉〈経験値10倍〉
〈契約:ベルナベル〉》
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