28.残念ながら次の機会に持ち越しだ。
冒険者ギルドはちょうど混雑していた。
ちょうどいいので〈写し技Ⅲ〉を使ってみたが、……大したスキルは見当たらない。
戦場というわけでもないから当然か。
諦めて、俺たちはカウンターには並ばずに、直接、解体場に向かう。
解体場は午前中と違い、数人の解体職人が働いていた。
「おお、確かサンダーバードを納品した奴だな? 解体は終わっているぞ。精算もここでできる」
今朝の職人が俺たちを見つけて声をかけてくれた。
「ありがとうございます。幾らになりましたか?」
「解体料を差し引いて金貨三枚だ。討伐だけでこれだけ稼ぐのはなかなかないぞ」
「ありがとうございます」
「お、おい? 金貨三枚だぞ。もう少し驚くかと思ったんだがな」
シルクの売却益で金銭感覚が麻痺していたようだ。
「いや、驚いていますよ。サンダーバード、一羽あたり銀貨五十枚ですか」
「自前で解体すればもう少し高いがな。まあ普通は金銭じゃなくて素材を欲しがるものだが」
「そんなことを朝も言ってましたね。サンダーバードの素材は何になるんですか?」
「雷属性の軽減効果を持つ魔術具になるんだよ。知らなかったのか」
〈雷:無効〉を付与できるベルナベルがいるから、俺たちには無用の長物だな。
ほんとベルナベルは強いな。
俺たちはエントレットの材木も売却して、追加で銀貨八十枚を受け取り、冒険者ギルドを後にした。
〈隠れ家〉で〈代理人〉を解除すると、俺の左腕に鋭い痛みが走った。
《聖痕をその身に宿しました。強化するスキルをひとつ指定してください》
聖痕が〈代理人〉に宿ったときには現れなかったメッセージが現れた。
どうやら本体に宿ったときにしか効果を発揮しないらしい。
……しかし聖痕を入手するとスキルを強化できるのか。新情報だな。
さてどのスキルを強化するか?
「どうした主、難しい顔で考え込んでおるようじゃが」
「ん、ああ。聖痕が本体に宿った時に、スキルをひとつ強化できるって出てきてさ。何を強化しようか迷って」
「ほう。神々の欠片ともなるとそんな効果が。なかなか面白いのう」
しばし考えて、決めた。
《〈経験値5倍〉のスキルが〈経験値10倍〉に進化しました》
やっぱりレベルとクラススキルは正義だ。
強化スキルはこれしかないだろう。
ベルナベルがくつくつと笑いを漏らす。
「なるほどな。主らしい選択じゃ」
「効率が良いからな」
俺たちは夕食に向かった。
夕食の席で〈写し技Ⅲ〉を使ってみたが、ロクなスキルがなかった。
残念ながら次の機会に持ち越しだ。
夕食後、俺は〈匿名掲示板〉の管理をしていた。
寝る前の日課である。
ベルナベルは角、翼、尻尾を出して、どうやら〈淫夢〉で精を搾り取りに行くらしい。
「さしもの主も毎日ではキツかろう。今晩は男を漁りに行ってくるのじゃ」
「分かった。気を使ってくれてありがとう」
「ぬふふ、今宵はどんな性癖を隠した変態が見つかるかのう」
シュン、とベルナベルは姿を消した。
ベルナベルが本気を出せば本人も気づかない性癖を暴露することもできるだろう。
恐ろしい奴だ。
《名前 コウセイ 種族 人間族 性別 男 年齢 30
クラス 自宅警備員 レベル 21
スキル 〈人類共通語〉〈簡易人物鑑定〉〈聞き耳〉〈忍び足〉〈性豪〉
〈闇:召喚〉〈空間:防御〉〈時間:治癒〉〈創造:槍〉〈通信販売〉
〈新聞閲覧〉〈隠れ家〉〈相場〉〈個人輸入〉〈匿名掲示板〉
〈魔力眼〉〈代理人〉〈隠れ家Ⅱ〉〈写し技Ⅲ〉〈アイテムボックス〉
〈経験値10倍〉〈契約:ベルナベル〉》
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