21.ドクン、と心臓の音が鳴った気がした。
宿に戻ってきた。
道行く人――主に男性――の目を引きまくったベルナベルだが、まったく気にせずに俺の横を歩いてきた。
さて宿に入ると、女将のアナベルが俺のことを見咎める。
「おや、コウセイさん。そちらの女性は?」
「はい。魔術で召喚したベルナベルです」
「ふむ……コウセイさん、そちらの子は人類じゃなくてもひとりとして数えますよ。ふたり部屋に移ってもらえますか?」
「あ、そうか。そうですね、分かりました。差額を支払いましょう」
「ええ、お願いします。……ええと残り十八日分ですから、銀貨二枚と銅貨五十枚で構いませんよ」
「はい」
〈アイテムボックス〉から銀貨二枚と銅貨五十枚を支払う。
なお一ヶ月の宿代はひとり当たり銀貨五枚だ。
食事付きで安いように思えるが、それはシルクの莫大な利益で金銭感覚が狂っているせいである。
まっとうに冒険者をやって稼ぐとなると、普通に負担になる額なのだ。
201の鍵を返却して、303の部屋の鍵を借りる。
そこで201の部屋に〈隠れ家〉を設置してあったことを思い出した。
「あの、荷物を置いてあるので、201の部屋に寄りたいんですが。鍵はすぐ返しに来るので、201の鍵を借りてもよろしいですか?」
「あらそうでしたか。分かりました」
俺たちは201の部屋に向かう。
ベルナベルは大人しくついてくるのみで、特に喋らない。
201の部屋に入ると、〈隠れ家〉の扉のある方にベルナベルが視線を向けた。
「ほほう、これまた変わった魔法じゃ。別の空間に繋がっておるようじゃな。もしやお主とようやくご対面できるのかのう?」
「さすが。よく分かるね」
「なに、このくらい造作もない」
〈隠れ家〉の扉は通常、不可視なのだが、それが視えるうえにどのような性質かまで見抜かれた。
魔術師ギルドのマスターであるリリアレットが騒ぐのも分からないでもない気がしてくる。
隠れ家の中に入る。
ベッドで眠っている俺が無事であることを確認して、〈代理人〉を解除した。
「……おはよう、ベルナベル。初めまして、というべきかな?」
「うむ、お初じゃな、主よ。しかし面白いスキルを持っておるのう」
「まあね。少し変わったスキルばかり持っている。ひとまず201の鍵を返して、303の部屋に行こう」
「うむうむ」
何故か上機嫌なベルナベルを連れて一度食堂へ戻り、201の鍵を返してから303の部屋に向かった。
303の部屋はツインルームで、ふたつベッドがあり若干ながら201より広い程度の部屋だ。
「ダブルじゃないのか。気の利かない女将じゃのう」
「ツインだと不都合があるのか?」
「ベッドが狭いではないか。それ、さっそくまぐわろうぞ」
スルリとベルナベルのゴスロリ衣装が解けて消えた。
「…………は? いやまだ日も高いのにいきなりなんで臨戦態勢なんだよ」
「目の前にいい具合に発酵した純潔があるのじゃ。主よ、お預けにするのは酷というものぞ」
発酵した純潔ってなんだ。
三十歳にもなって童貞だが、発酵していたとは気づかなんだよ。
「この宿、壁が薄いんだけどなあ」
「ならば先程のスキルを使えば良かろう」
チ、気づいていたか。
〈隠れ家〉の中ならどんなにフィーバーしても外に音が漏れることはない。
「じれったいのう。ほれほれ、さっさとせんか」
「分かった分かった……はあ、まったく。自ら“淫蕩の”なんて名乗るだけのことはあるよなあ」
「ふふ……じゅるり」
俺は〈隠れ家〉の扉を開く。
背中を押されて、ベッドへ招かれた途端、ベルナベルの瞳が怪しく輝いた。
ドクン、と心臓の音が鳴った気がした。
途端、いきなりギンギンに勃起する。
「んな……っ」
「ふふふふふ」
その日の日中、俺は使い物にならなくなった。
《〈性豪〉のスキルを習得しました》
《名前 コウセイ 種族 人間族 性別 男 年齢 30
クラス 自宅警備員 レベル 17
スキル 〈人類共通語〉〈簡易人物鑑定〉〈聞き耳〉〈忍び足〉〈性豪〉
〈闇:召喚〉〈通信販売〉〈新聞閲覧〉〈隠れ家〉〈相場〉
〈個人輸入〉〈匿名掲示板〉〈魔力眼〉〈代理人〉
〈アイテムボックス〉〈経験値5倍〉〈契約:ベルナベル〉》
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