175.俺の肩に本体が触れた。
大迷宮――第百五十四階層。
俺たちは第百二十階層へ向けて登っているところだ。
宝箱を〈精霊:使役〉で探しつつ、進路上にいる魔物を撃破していく。
陣容は大きく変わっていた。
俺を含めた四人の〈代理人〉とスカルガーディアンたちは鬼馬に騎乗している。
宝箱の罠探知及び解除要員としてスカルアサシンも一体だけ召喚されていた。
変わらないのは四体のボーンスナイパーくらいか。
ベルナベルとアカリリスは相変わらず無敵で、魔物を蹴散らしていく。
俺たちも負けじと攻撃するが、アカリリスという競争相手が出てきたせいか、ベルナベルの動きはより俊敏さを増して魔物へ爪を振るっていた。
「お、この階層には宝箱があるな」
「ふむ? では回収しておくべきじゃな。イチロウ、どっちだ?」
「イチロウ、進むべき方向を告げるべき」
俺たちは魔物を処理しながら、宝箱の在り処へと進んだ。
宝箱が見えると、スカルアサシンが慣れた風に歩み寄り、罠の有無を調べ始める。
鍵穴を覗き込み、宝箱の周囲に変なものがくっついていないかグルリと一周してから、おもむろに腰のピッキングツールで鍵穴をガチャガチャやりだすのだ。
スケルトン系は喋ることはないため、罠の有無などを報告してくることはない。
ともあれ罠解除に失敗したことはないので、信頼しているが。
ピッキングツールを仕舞って立ち上がり、スカルアサシンが宝箱から離れる。
罠と鍵はもうないということだろう。
俺はスカルガーディアンに鬼馬から降ろしてもらい、宝箱を開けた。
中にあったのは緋色のインゴットだった。
「…………あれ、これオリハルコンじゃないか?」
「む? 本当じゃな。遂にオリハルコンを入手したか」
「本当。オリハルコンの色艶はよく覚えている。回収して主様に渡すべき」
俺は〈ホットライン〉で本体に連絡を取った。
「もしもし本体、イチロウです」
「ああ、イチロウ。何かあったか?」
「オリハルコンを入手しました」
「なに!? そ、そうか。遂に素材が揃ったわけだな」
「探索を切り上げてそちらに戻ろうかと思うのですが」
「ああ、構わないぞ。楽しみに待っている」
俺は〈ホットライン〉を切り、オリハルコンを〈アイテムボックス〉に入れた。
壁に〈隠れ家〉の扉を設置して、背後を振り返る。
「どうせ本体は錬金術で魔力を消耗しているだろうから、俺たちの召喚した魔物は本体に〈リサイクル〉してもらうか」
「お、それは悪くないな」
ジロウが賛同し、めいめい鬼馬から降りる。
そして扉を開けた。
隠れ家では本体が笑顔で待っていた。
「おかえり。見事に賢者の石の素材が揃ったわけだ。ご苦労さま」
「本体、魔力を消費していると思って、召喚した魔物はそのまま連れてきた。〈リサイクル〉するといい」
「お、気が利くじゃないか。確かに全快じゃないんだよな、遠慮なく使わせてもらうよ」
本体は〈リサイクル〉で召喚された魔物たちを魔力の足しにした。
そして俺たちを眺めて、顎に手をやる。
「イチロウたちもお役御免か……」
「そうですね。もう俺たちは必要ないでしょう。記憶を統合してください」
「ん、そうだな。…………本当に、ご苦労さま」
俺の肩に本体が触れた。