169.従順なルシエルは命令に従う。
「旦那様、アサエモン様が城から戻りました」
「ありがとうルシエル。私はアサエモンの私室で待っている。その間、私は店を手伝えないから、従業員の疑問には君が答えるように」
「かしこまりました」
俺はルシエルの横を素通りして、アサエモンの私室に向かう。
ルシエルの物欲しげな視線にはそそるものがあるが、それは今すべきことではない。
しばし待つと、長髪をダラダラ伸ばしたアサエモンが自分の部屋に入ってきた。
顔色が悪い。
「アサエモン、大丈夫ですか?」
「少し記憶にアテられた。五人とはいえ、死刑囚ばかりだったからな」
アサエモンは〈魔力隠蔽〉で人並みに魔力を減らし、かつ〈記憶奪取〉をする度に〈魔力隠蔽〉で魔力を消費しているように見せかけている。
だからアサエモンが一日に記憶喪失にできる人数は五人だと予め、先方には伝えてあった。
「死刑囚を記憶喪失にして犯罪奴隷に落とす、ということですか?」
「聞いてはいないが、多分そういうことだろう」
「王国所有の鉱山は劣悪な環境で、犯罪奴隷たちも刑期を終える前に死ぬ者が後を絶たないという噂ですからね。働き手が欲しかったのでしょう」
「だろうな」
「技能に関する記憶だけ受け取ります。いいですね?」
「ああ、やってくれ」
俺は〈記憶奪取〉でアサエモンから技能に関する記憶を抜き取る。
その悪辣な記憶を受け取り、俺は少し気分が悪くなった。
「技能の記憶でこれですか……。死刑囚たちの記憶はかなり凄惨なものだったのでしょうね」
「正直、ヘドが出る記憶だ。もういいか? 自害しても」
「……はい」
「こんな記憶は確かに本体を歪めるだけだ。俺とともに破棄すべきだな」
アサエモンは〈アイテムボックス〉から首狩りの短刀を取り出し、一息に動脈を掻っ捌いた。
吹き出た鮮血もろとも魔力となり、アサエモンは霧散する。
俺は本体に〈ホットライン〉で新しいアサエモンを寄越すよう要請しておき、商会長室に戻った。
〈監視カメラ〉で店内の様子を確認する。
問題なく従業員たちは客の相手をしているようだ。
しかし店頭に並ぶ商品が少ない。
今日もまた、たくさんの商品が飛ぶように売れ、予約も多く取っているのだろう。
魔王城の〈代理人〉たちにはしばらく働いてもらうしかなさそうだ。
開店して数日だが、この店舗の土地と建物の改修費を合わせた初期投資分は、既に回収できている。
店に商品を置いておけば、客はこぞって買っていく上に予約注文までして更に購入していくのだ。
売上はすさまじいことになっている。
〈代理人〉と悪魔たちの労働力のみという格安な原価が利益に拍車をかけており、金貨は増える一方だ。
従業員たちの給料を支払ってもなお余りある利潤を、どう使おうか。
採算度外視の慈善事業か?
悪くない。
孤児院は既にあるから、それとは方向を別にしたものがいいだろう。
例えば、才能も実力もあるが、パトロンに恵まれていない芸術家などの後援者などどうだろうか。
そういうことをしている王侯貴族もいるが、それでも芸術家の数に対してパトロンは少ない。
商会長の部屋に絵画の一枚でも飾るか。
扉がノックされる。
ルシエルだ、またお茶でも持ってきてくれたのだろう。
「開いています」
「……失礼します」
お茶を持ったルシエルが楚々とした仕草で俺にお茶を持ってきた。
頬を朱に染めて、ルシエルが「旦那様、今の時間なら誰も来ません」と告げた。
人払いは済ませてある、か。
〈記憶奪取〉で得た技能の記憶が俺を昂らせていた。
今日は酷い目に合わせてしまいそうだな。
「ではルシエル、今から君は私のモノだ。衣服を全て脱ぎ、四つん這いになれ」
「――はい」
従順なルシエルは命令に従う。
これからメチャクチャにされる自分のことを思って、上気した顔で悦んで俺の命令を受け入れる。
すっかり俺の虜になった彼女を満足させるべく、俺は上着を脱いだ。