159.キョロキョロするニアちゃんは可愛い。
「お仕事はよろしいのですか?」
「ええ。俺の仕事は市場調査なものでして、実際に購入を決めるのは商会長のエチゴヤです。俺は下っ端に過ぎませんから」
「そうなんですね」
「だからこうして、市場をセエレさんとニアちゃんと一緒に歩くのは、仕事なんですよ?」
「まあ。女性と腕を組むのもお仕事なのかしら?」
「参ったなあ、それは仕事じゃないってことくらい分かって言ってるでしょ。いじわるしないでくださいよ」
クスクスとふたりで笑う。
「おじさん!! あれが食べたい!!」
「もう……ニアったら少しは遠慮しなさい」
「いいんですよ。……ニアちゃん、その屋台の肉まんでいいかな? それともあっちにも美味しそうな肉まんがあるけど」
「え、どっちにしよう」
キョロキョロするニアちゃんは可愛い。
こんな子がもうすぐ娘になると思うと、ほっこりする。
ニアちゃんには「お母さんとおじさんは結婚したいんだ。ニアちゃんの家族にしてもらえる?」と打診してある。
その対価にニアちゃんが求めてきたものは「屋台食べ放題」だった。
……それでいいのかな?
まだ三歳じゃ再婚の重みも分からないだろうから、家族としての絆はこれから重ねていけば良い。
屋台の食べ歩きをしていたら、「もう疲れた」とニアちゃんが言い出すので、セエレさんの家に戻ることにした。
ニアちゃんをおぶさり、帰路につく。
「ごめんなさいニアがワガママで」
「三歳でしょう? こんなものですよきっと。それに可愛い将来の娘のワガママなら幾らでも聞きたいですね俺は」
「……もう」
甘い言葉を囁く。
セエレさんとの時間は至福だ。
高校生くらいの頃は「未亡人? 年増な上に非処女の中古の何がいいんだ」などと思っていたが、三十年も生きていると価値観はアップデートされる。
他の男のものだった女性が自分に心酔するほど愛情を抱いて、過去に貞節を誓った亡夫への罪悪感に苛まれることの色気よ。
堪らないね?
なお実際にはセエレさんはまだ十九歳と若いのだが、それはそれ。
俺たちはセエレさんのお宅に戻って、ニアちゃんを布団に寝かせた。
「ふたりきりだね、セエレ?」
「……っ」
「どうした? 身体がもう火照ってきているぞ?」
「……ミカワヤさんが丁寧な口調を止めるときは、いつも意地悪になるんだもの」
「でもそれがいいんだろ?」
「…………」
セエレさんが顔を俺の胸の中に埋める。
「昨日は危うく声が大きくなってニアちゃんが起きちゃったね。誤魔化すのが大変だったね? 今日はどうかな?」
「ぁ、ミカワヤさん、そこ……」
熱に浮かされたような声で俺を求めるセエレさんに、欲しいモノをあげることにした。