153.それはテンション上がる。
幾重もの赤い残光が走った後、魔物は細切れになった。
ベルナベルの爪だ。
それより俺たち〈代理人〉らは今の魔物を見て興奮していた。
何故ならば、
「ベルナベル、喜べ。この階層からオリハルコンとエリクシールが宝箱から出るぞ」
「なに? なるほど、今の魔物がその印じゃったか」
「ああ。今の魔物が出現する魔力帯から宝箱の中身が変わるんだ。この階層以降、オリハルコンとエリクシールが出る可能性がある」
「なるほどのう。ではいつも通り、宝箱は全回収じゃな」
まあそうなのだ。
宝箱設置をしているダンジョン管理人の魔力帯を越えたところからは、宝箱はどのみち全部回収している。
しかしここからは〈天運〉の出番だ、しっかりと働いてもらいたい。
現在は第百二十階層、ここからが俺たちの本番だ。
出現する魔物はいずれも凶悪だが、俺たちだって戦えている。
もちろんベルナベルがいなければ大苦戦は免れないだろうが。
地下へ潜るほどに階層は広くなっていく。
巨大な魔物が増えるためか、天井も高くなる。
移動に時間がかかるようになるが、そこはボーンガーディアンに〈寄生〉してなんとか早足で進んでいくのだ。
ひとつ目の宝箱を発見した。
〈精霊:使役〉で罠の有無を調べる。
毒ガスの罠があることが分かった。
勢いよく噴出して広範囲に広がるため、少し離れている程度では巻き込まれる。
〈精霊:使役〉で罠を解除してもらう。
つくづく万能な魔法だな。
少し時間はかかるが、精霊にできないことはほとんどない。
しばし待つと、罠の解除が終わったことを知らせてきた。
「よし、開けるぞ」
俺は宝箱を開けようとした。
しかし鍵が掛かっているようで、蓋はびくともしない。
「ベルナベル、鍵を破壊してくれ」
「分かった」
罠がなければ、鍵はベルナベルが爪で破壊できる。
赤い一閃が鍵を破壊した。
「よし、開けるぞ」
もう一度、気合を込めて蓋を開けた。
しかし気合むなしく、オリハルコンでもエリクシールでもなかった。
「〈天運〉が仕事をしねえ」
「いや待て、スキルオーブじゃねえか」
ジロウが中身を覗き込み言った。
まあね、大当たりなのは違いないけど、これじゃないだろ?
「このスキルオーブは……」
「ああ。凄いだろ。ここからは宝箱の中身はかなり良いものばかりだが……これはその中でも大当たりの部類だ」
ベルナベルが興味深そうに目を細める。
このスキルオーブは〈追加召喚〉という。
召喚特性の魔術で召喚できる魔物を一体、増やすというものだ。
「今の主には〈天運〉もあるし、魔力量も人類の中では桁違いじゃ。かなり強い魔物を引き当てるじゃろうな」
「そう思うか? ベルナベルほどとはいかなくても、役立つ魔物が出るといいな」
「ふむ……これは休憩にして一旦、本体の元に戻るべきではないか?」
「そうだな。召喚陣はベルナベルが描けるか? 魔術師ギルドへ行った方がいいか?」
「魔法陣ならわしが描ける。ドラゴンの血で魔法陣を描いて、大迷宮の深い階層で入手したブラックダイヤモンドを消費すれば、かなり高位の魔物を召喚できるじゃろ」
「マジか。それはテンション上がる」
「魔法陣を描くのに時間が少し必要じゃがな。ゆえに戻るべきだと思うが」
「ああ、今そこに〈隠れ家〉の扉を設置するよ」
俺たちは本体の元へと戻ることにした。