表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

152/177

152.大神殿を出たら良い酒を飲もう。

今回は2月26日まで更新する予定です。どうかお付き合いください。

「かくして聖痕はすべて我が身から剥がれ、天井に向けて舞い上がった。そして創世の女神が礼を言って、もとの場所に戻された。……これが聖痕収集の顛末だ」


 俺はサイネリア神殿長とクックアロン司祭、そして書記官に向けて聖痕収集の物語を一通り語った。

 書記官の羽根ペンを走らせるシュラシュラという速記の音だけが鳴り響き、それも止んだ。

 静寂を破ったのは、クックアロン司祭だった。


「素晴らしい!! 創世の女神の使徒、その口からことの顛末が聞けるとは!! これほど研究者冥利に尽きることはない!! ありがとう、本当にありがとう!!」


 感動しきりなのはクックアロン司祭だけではない。

 サイネリア神殿長も、書記官も、俺の語った物語の余韻に浸っているようだった。


「使徒同士を最後に殺し合わせる残忍な面はここだけの話として、記録は添削が必要になりますね。しかしコウセイ、あなたが他のすべての使徒を出し抜き、聖痕を一身に集めた勝利者だったとは。今、私は歴史の証人からすべてを事細かに聞けて身震いがする思いでいます」


「おやおや、サイネリア神殿長も神学の素晴らしさをようやく理解できたようですな!?」


「……なにも私は神学を低く見ているわけではありませんが」


 クックアロン司祭の煽りにサイネリア神殿長が静かに応える。


「それで。満足いただけたようだが、報酬はどうなる?」


「分かっています。これだけの話を聞かせてもらったのですから、聖遺物をひとつ……いえふたつ持っていくといいでしょう。ただしダブっているものからひとつずつにしてください」


「十分だ」


 俺はサイネリア神殿長の言葉に満足した。


 速記で記された記録は清書されるが、それは神殿長が再編集するから決して誰にも見せたり語ったりしないように、とサイネリア神殿長は書記官に念をおした。

 そして俺とともに聖遺物の保管庫に向かう。


 ダブっている中からふたつ聖遺物を選ばせてもらう。


 ひとつは短剣だ。

 なんでも時の使徒全員に配布されたもので、邪悪なる魔神の使徒を打ち破るために使用されたそうな。

 魔神も地球人を拉致して使徒にするのか、と思ったが違うらしく、強力な手駒をこの世界に送り込んできたことがあったそうである。

 通常の武器が通用しないため、この短剣が配布されたとのことだ。

 普通の長さの剣じゃない辺り、創世の女神がチカラをケチったのが察せられる。


 もうひとつは神像だ。

 創世の女神をかたどったそれは、人類史の早くに創世の女神が与えたとされる聖遺物だ。

 己の存在誇示と信仰の対象となるようにいくつかの奇跡を起こした際に残された物ということで、複数ある。


 サイネリア神殿長はダブっている聖遺物にも関わらず、俺がふたつを持っていくのが悔しいらしい。


「本来は大神殿が他者に聖遺物を譲渡するなどあり得ないのですからね?」


 などと念をおしてくる始末だ。


 ともかく俺は使命を達成した。

 喉が乾いたな。

 大神殿を出たら良い酒を飲もう。

 そう決めて、俺はサイネリア神殿長に辞去の挨拶をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ