149.ミウは頭に疑問符を浮かべる。
夕食時にディアリスが不機嫌そうだった。
しかしミウに当たるわけにはいかないのだろう、だからといって俺に当たっていいわけでもないが。
そして俺に理不尽を言うディアリスからミウがかばってくれる。
そして勝手にショックを受けてまたディアリスは機嫌を悪くする。
なんだったんだあの食卓は。
そして夜になった。
ともあれ世界樹が気を利かせた結果、世界樹の葉を入手した。
これはコウセイに売るという形で手放す必要がある。
しかし一枚だけというのもケチくさい。
せっかくこちらには〈緑の手〉があるのだ。
ちょっくら試しても良いだろう。
というわけで、本体にゴロウをもうひとり用意してもらう。
俺はこのまま自室で待機だが、もうひとりのゴロウは〈気配遮断〉と〈魔力隠蔽〉を使いながら世界樹に接近して、〈緑の手〉を使いさらに葉っぱを落とさせる。
できれば実も欲しいところだ。
というわけで、ここからはもうひとりのゴロウに任せるとしよう。
俺は〈天冥眼〉で世界樹に向かうゴロウのサポートだ。
* * *
メルシヨン氏族の族長宅を抜け出してから、世界樹のもとへと歩く。
誰にも見咎められていないようだ。
「こちらゴロウアルファ。ベータ、周囲に人の気配はないか?」
「こちらゴロウベータ。周囲に人の気配はない。このまま世界樹に接近する」
〈ホットライン〉で自室に残っているゴロウとやり取りしながら、世界樹のある場所に辿り着く。
風もないのにザワザワと葉がさざめくように音を立て始める。
生憎と植物との意思疎通は無理なので、何を伝えたいのかは分からない。
そのまま距離を詰めていくと、〈危険感知〉が反応する。
〈感覚遮断〉で痛覚を無くしてから、〈寄生〉を発動して世界樹のステータスを奪う。
ゴウ、と俺のいた場所を世界樹の枝が薙ぎ払う。
俺は数歩、下がってそれをやり過ごした。
枝が届く距離にいないためか、世界樹は攻撃してこない。
ともあれ接触しなければ発動しない〈緑の手〉を使うには、間合いの内側に入らなければならないのだが。
あの枝の勢いを見るに、回避などは無理だろう。
「大丈夫かベータ?」
「この距離だと攻撃されないらしい。アルファ、通常の接近は無理そうだ。支援を頼みたい」
「どうすればいい?」
「〈空間:防御〉でかまぼこ型のトンネルを形成して欲しい。もちろん俺が通行できる大きさで」
「了解した。いくぞ?」
「頼む」
「世界を仕切る壁。拒絶、隔絶。空間障壁ッ!!」
「助かる」
素早く〈空間:防御〉のトンネルを進む。
間合いに入ったので枝が俺を殴ろうとするが、その程度の物理打撃では〈空間:防御〉は破れない。
何度も、何本もの枝が乱れ撃つ。
バッサバッサと枝が葉を揺らしながら空間障壁のトンネルを叩く。
だが無駄な試みに終わった。
俺は樹皮に触れて、〈緑の手〉を発動した。
まずは攻撃の停止を命ずる。
次に世界樹の葉を十枚、落とさせた。
さらに世界樹の実をいつつ、落とさせる。
「アルファ、今ならトンネルを解除してくれても大丈夫だ」
「了解、――解除した」
「〈天冥眼〉越しに〈アイテムボックス〉が使えるか? 地面に落ちている葉が十枚と実がいつつだが」
「……駄目そうだな。〈アイテムボックス〉を開くことはできるが、拾って中に入れることができない」
「ふむ、どうするか……」
「ベータ、〈アイテムボックス〉は開いておくから、〈緑の手〉で自分の落とした葉と実を〈アイテムボックス〉に入れるように命じることはできないか?」
「なるほど、試してみよう」
俺は世界樹に自分で落とした葉と実を拾わせる。
器用に枝葉を使い、自分の葉と実を拾わせることができた。
後はこれを〈アイテムボックス〉に入れさせるだけだ。
世界樹は命令通りにそれを遂行した。
よしよし、植物を相手に接触してしまえば〈緑の手〉は絶大な効果を発揮するな?
「任務完了。アルファに再度、トンネルの形成を頼む」
「分かった。――世界を仕切る壁。拒絶、隔絶。空間障壁!!」
「助かる」
俺は樹皮から手を離す。
すると世界樹の枝が一斉に攻撃してきた。
しかし〈空間:防御〉の障壁を破壊することはできない。
俺は悠々とした足取りで射程外に避難する。
世界樹はワナワナと震え、そして凪いだ。
もう俺に手出しはできないと判断したようだな。
なかなかに賢明だ。
「悪いな、世界樹。また素材が欲しくなったら来る」
抗議するように枝を横に振るが、無視した。
任務を完了して気分良く族長宅へと戻る。
アルファのいる部屋へ窓から侵入しようとすると、
「待てベータ。ミウが接近している」
「なんだと?」
〈天冥眼〉で空から観察していたアルファが警告を放つ。
〈気配察知〉すると、ミウがだんだんとこちらに近づいてきているのは確かなようだ。
なぜ?
俺は窓から離れ、ミウと正面から遭遇する。
ミウはソロソロと静かに歩いていたが、目の前に俺がいたので「!!!?」声にならない叫びを上げた。
「こんな時間にどうした、ミウ?」
「……ご、ゴロウさん? ええと、なんでって……その……」
世界樹の異変でも感知したか?
俺が警戒心を高めていると、ミウは耳まで真っ赤にして「こ、これからゴロウさんの部屋に行こうとしてたんですっ」と白状した。
…………つまり?
「夜這いか?」
「――――っ」
「婚前に、女性の側からとは……はしたない子だな、ミウ?」
「だ、だって……」
「ん?」
「ひとつ屋根の下に好きな人がいるんだもん。我慢なんて、できないよ」
「――――」
可愛い。
アルファが〈ホットライン〉越しで「俺は〈隠れ家〉に戻る。ミウと一緒に部屋を使え」と言った。
俺は無言でミウに近づき、その細い身体を抱きしめた。
「あぅ……」
「今から俺の部屋に来るんだろ、ミウ? 窓は開いているからそこから入ろう」
「は、はい」
手を引いて窓から部屋に侵入した。
そしてそのままベッドに押し倒す。
抵抗はない。
火照った身体。
潤んだ瞳が俺を欲情させた。
唇を重ねる。
一旦、離してからもう一度。
今度は舌を入れた。
熱い吐息が互いを高めていく。
〈精密作業〉で舌を絡めながら、唾液の交換。
衣服は剥いでいきながら、小ぶりな胸へと手を伸ばしたところで、
「なにやってるの――ッ!!!?」
ディアリスがバァン!!と扉を開けた。
ベッドの上の半裸のミウ。
口元は互いの唾液でベタベタに濡れている。
それを見たディアリスは、ショックを受けたようによろめいた。
「――ディアリス、いま良いところなんだが」
「ミウ……お姉ちゃん、もう死のうかなあ」
「死ぬのはもったいないな。どうだディアリス、お前も混ざらないか?」
ミウは頭に疑問符を浮かべる。
ディアリスはそれが意味するところに気づき、立ち直った。
「し、姉妹丼!?」
「俺にとってはな。ディアリスにとっては、ミウと肌を重ねる良い口実だろ?」
「くっ……なんという、なんという、――名案!?」
「あくまでディアリスはミウの添え物。俺の慰み者になる扱いだ。それでいいなら、扉を閉めてこちらへ来い」
ディアリスは後ろ手に扉を閉めて、ベッドにやって来る。
ミウは「えっえっ、どういうことですかゴロウさん!?」と慌てるが、もう遅い。
ミウの片手を取り自分の胸ぐらに招き入れるディアリス。
俺は三度、ミウの唇を塞ぎ、その衣服を脱がせていく――。