143.魔眼系だ、アタリだな。
大迷宮の第七十五階層。
もはや宝箱設置係の魔力では出せない魔物が出現するようになっていた。
直立二足歩行するドラゴンに似た魔物が、〈風:攻撃〉の詠唱に入る。
詠唱中も両手の爪、両足の蹴り、尻尾による薙ぎ払いがベルナベルを襲う。
既にイチロウこと俺が〈寄生〉しているから、弱体化しているはずなのだが、それでも素早い動きと膂力を誇る強敵だ。
まあベルナベルは攻撃を全部回避しているし、爪で足から斬り刻んでいるが。
俺たち四人も見学ばかりしてはいられない。
強敵を相手にするいい機会なので、前衛をベルナベルに任せつつ、ボーンガーディアンに身辺警護をさせながら魔術を撃つ。
「「「「我は創造する。剣より長き刃もつもの。汝の名は槍」」」」
〈高速詠唱〉により魔物より速く魔術が完成する。
「「「「〈ペネトレイトジャベリン〉!!」」」」
〈同時発動〉によりひとり三本の槍を射出する。
竜の硬い鱗を想定して作られた、あらゆるものを貫通する十二の魔槍が魔物の上半身をズタズタにして吹き飛ばした。
「……ぬ、もう終わりか」
ベルナベルは赤い残光を帯びながら数歩、下がった。
魔術の使用を縛ってこの強さなのだから、本気を出したらまだまだ格上の魔物とも戦えるのだろう。
余裕を感じる。
……実際、余裕なんだろうなあ。
「吹き飛ばしてしまって良かったのか? 錬金術の素材になる部位はなかったか」
「もう前人未到の領域だから、魔物についての情報がそもそもないんだよ」
「なるほどな。ドラゴンに似ておるが、まったく違う種族だからのう。素材がどんなものか少し気になるところではあったが」
「そうなのか。魔王城の生産系に見せれば何か分かったかもな」
「まだこの階層で遭遇するじゃろ。心臓だけを貫通させて全身を持ち帰るのも手ではないか?」
「そうだな。オーバーキルする必要もないし、次からそうしてみるか」
〈精霊:使役〉で示された場所に向かうと、確かに宝箱があった。
俺は宝箱に対して〈精霊:使役〉で罠の有無を調べる。
どうやら罠はないらしいので、そのまま開けた。
「お、スキルオーブじゃないか」
「ほう、さすがは〈天運〉の持ち主じゃな」
スキル〈ダンジョンマスター〉によれば、これは〈麻痺眼〉のスキルオーブらしい。
魔眼系だ、アタリだな。
「さてこの階層にはもう宝箱はないみたいだ。階段を目指そう」
「うむ」
俺たちは〈精霊:使役〉を駆使しながら第七十五階層を突破した。