142.ミウとの仲を深めておくか。
族長の妹であるミウと謎の助っ人ゴロウの婚約は、すぐに里に知れ渡った。
別に隠す必要もない。
だから朝食のときの会話でミウとの婚約を使用人がいる前で明言していたのだが、小さな里ゆえに噂話が行き渡るのが凄く早かったのだ。
そんな里を騒がせている当事者三人はというと、リビングでのんびりしていた。
「結婚反対! ミウ、考え直してよ~……、お姉ちゃん、悲しいよ~……」
ディアリスがミウを抱っこしながらブーブーと文句を垂れている。
ミウは姉に抱きしめられつつも、抵抗はしていないがその言葉には反対の意を示した。
「お姉ちゃん、私が好きなゴロウさんとの仲を応援してよ。結婚はするよ」
「そんな……ミウが、私のミウがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
駄々をこねる子供の様相だ。
使用人には見せられない光景なので、リビングの傍からは人を遠ざけている。
話題がこんななのは、未だにディアリスが俺とミウの結婚を飲み込めていないからだ。
病弱だったかつてのミウは、ベタベタに甘やかしてくれる姉のことが大好きだったらしい。
それはもう、仲睦まじい姉妹だったようだ。
しかしそこに挟まるゴロウという名の俺。
「ミウ、ディアリスのことは放っておけ。それより隣に座らないか?」
「っ、はいゴロウさん!!」
シュババ!!
ディアリスの腕の中からすり抜けたミウは、素早い動きで俺の隣に座った。
「ああ、ミウ、駄目よ。そんな男の隣に……」
立ち上がったディアリスは俺と反対側の腕を持ち上げるが、ミウはすげなく払い除けた。
「お姉ちゃん。いい加減にしてよ。お姉ちゃんが殺されずに族長になれたのはゴロウさんのお陰でしょ。ゴロウさんならいいじゃない。私のことずっと守ってくれそうで」
「だーかーらー!! ミウを守るのは私の役目なの!!」
「お姉ちゃんはこれから族長の仕事で忙しいでしょ。その間、私たちは愛を育んでいます」
「嫌ぁ」
俺は苦笑しながら、ミウの肩を抱く。
ミウの身体が緊張で固くなるが、まだまだ俺に慣れてくれるのに時間がかかりそうだ。
ディアリスは自分の手は振りほどいたのに、俺が肩を抱くことに対しては受け入れたのを見て酷くショックを受けていた。
「あ、あ、ミウが悪い男に駄目にされちゃう……」
「何が駄目な男だ。俺たちは背中を預けあった信頼できる戦友だろ、ディアリス?」
「うう、こんなことなら手を借りるんじゃなかった……ああでもそうしたら私、生きてない……うう、八方塞がりだ……」
やれやれ。
ディアリスがぶっ壊れている間に、ミウとの仲を深めておくか。
ちなみに〈簡易人物鑑定〉によるとミウは十四歳だ。
難しい年頃だが、虚弱なせいで外のことを知らないミウは純真そのものである。
反抗期とかが来たら、ディアリスに当たりそうだな。
……いや、今まさに反抗期というか独立心が高まっているのかもしれないな。
世界樹の実を食べて健康体になり、自由に出歩くこともできるようになったミウは毎日が楽しいらしい。
熱を出して寝込むことも、咳が止まらなくて息苦しくなることもない。
自由を謳歌する楽しみを覚えた少女なのである、無敵かな。
「ゴロウさん。いろいろなところを旅してきたんですよね。私、里のこともよく知らないから……旅の話とか聞きたいです」
「そうだなあ……」
実際には俺は旅人ではない。
自宅警備員の〈代理人〉という胡乱な立場だ。
とはいえ、各国のことは詳しいつもりだし、実際に聖痕収集のために色々な場所を訪れた記憶はある。
俺は大陸にはみっつの大国があり、そのいずれも微妙に文化が違うのだと話し始めた。
ミウは羨望の眼差しで俺を見上げている。
ディアリスは「ほげー」と謎の声を出しながら、呆けていた。