14.おっと、ハッタリが効きすぎた。
白米は〈個人輸入〉で見つけた。
画像を見る限りは短粒種だ。
入手したくもあるが、需要が地球人にしかないので見送っている。
黒パンも悪くないのだ。
しかしスレの伸びが速い速い。
みんなきっとこういう現代的な娯楽に飢えていたんだろうなあ。
分かるよ、うん。
朝食を食べたら〈忍び足〉を習得してみるか。
〈簡易人物鑑定〉と〈聞き耳〉は俺以外も習得していた奴がいたらしい。
経験値増幅スキルについては誰も書き込んでいなかったので、単純に隠しているのか、それとも俺だけ特殊なのか?
まあ情報収集に使えるから〈匿名掲示板〉の運営はしっかりしていこう。
朝食を摂っていたら、護衛を連れた商人が俺を訪ねてきた。
まっすぐに俺の元へやって来たので〈簡易人物鑑定〉を使う。
《名前 レイドリック・オーバン 種族 人間族 性別 男 年齢 42》
オーバン、ということはオーバン商会の人間らしい。
この街で最大手の商会だ。
「食事中に失礼。君が商人のコウセイかな?」
「……そうです。何かご用ですか?」
「シルクを旅商人に売っただろう。もう何反か入手できないか?」
「あれはたまたま入手できたものですので。ちょっとまた入手できるか分かりませんね」
「そうか?」
疑り深い目だ。
レイドリック・オーバンの後ろから、黒髪黒目の青年が進み出る。
どう見ても日本人だ。
「なにかのスキルじゃないのかな? 初めまして、僕はタクミ。君も同郷だろう? レイドリックはしつこいから、入手できないといつまでも付き纏われるよ」
「タクミ、ねえ。リバーシと石鹸をオーバン商会に売って儲かっただろ。あんまり欲をかくものじゃないぞ」
「……驚いた。リバーシはともかく石鹸は極秘に貴族に売っているんだけど。どこで知ったの?」
おっとやぶ蛇か?
……いや、ハッタリかましてけばいいか。
「シルクの反物を入手できる立場にあるんだ。貴族向けの商売の情報だって入ってくるさ」
「……それもそうか。王家御用達の商人とのコネ、一体どこでどうやって繋がりを持ったんだい」
「それこそ極秘だ」
「そうかい。で、なんとかシルクの反物、もう少し手に入らない? そのコネ使ってさ」
「気が進まないな」
タクミではどうにもならないと見たのか、レイドリックが再び前に出てきた。
「コウセイと言ったな。シルクの反物は金貨四枚で買い取れる。一週間待つ。気が変わるのを期待しているよ」
背後の護衛たちが鋭い殺気を飛ばしてきた。
どうやら荒っぽい手立ても辞さないらしい。
「まったく……いいぜ、三反用意してやるから、金貨十二枚もってこい」
「ほう。それは重畳。では一週間後にまた来る」
「ああ。こちらも頼んでおくから、忘れずに来いよ」
レイドリックと護衛は立ち去った。
しかしタクミは残り、興味深そうに俺を見ている。
「ねえ、君は冒険者なのかい? コウセイさん」
「いや。戦うのは怖いから、出来るだけ外出は控えている。レベルも一のままだ」
「ふーん。じゃあさ、僕と手を組まない? リバーシと石鹸で儲かってるし、次は〈匿名掲示板〉にあった通りトランプを作ろうかと思ってね」
「分け前を折半するほど余裕なのか? 俺と組むメリットはないぞ」
「君のコネはかなり強力だ。王家に先にリバーシとトランプを持ち込みたい」
おっと、ハッタリが効きすぎた。
釘を刺しておくか。
「おいおい、あくまで俺のコネは善意で俺によくしてくれているだけだ。王族に渡りをつけてくれるほど、公私混同はしない」
「んー、それもそうかな。でもシルクの反物は用意してくれるアテがあるんでしょ?」
「まあな。でも最大限の譲歩を引き出してそれだと思っておいてくれよ」
「そっかそっか。まあ気が変わったらオーバン商会を訪ねて来てよ。悪いようにはしないからさ」
タクミはそう言い残して立ち去った。
やれやれ。
〈個人輸入〉でシルクの反物を三反、購入しておくか。
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