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139.ミウの頬を一筋の涙が伝う。

 族長の就任の儀式が略式で行われた後、祝いの宴になった。

 里の人々はもともとディアリスに同情的だった者も多く、ディアリス新族長はスムーズに受け入れられていた。


 上座でディアリス、ミウ、そして俺が酒を飲み交わしていた。


「ではゴロウさんは怪我をしたお姉ちゃんを助けた人に頼まれて、ここに戻ってくる手伝いをしてくださったんですね」


「ああ。最初は確かに頼まれただけだが、同族のよしみもある。ディアリスの事情を聞けば、死罪になるのは納得がいかないと感じたのでね。自分の意思でディアリスを守ると決めてここまで来た」


「そうでしたか……」


 ミウという少女はもとが病弱だったからか、人と話すのにも不慣れな様子だったが、姉の恩人である俺に対しては一生懸命に会話を続けようとしてくれていた。

 その様子を優しい目で見守るディアリス。

 本当に妹想いな姉だな。



 深夜から始まった就任の儀式と宴だったから、日が昇る前にお開きになった。

 もともと小さな里だ、全員が顔見知りらしくてその人々に承認された時点で、ディアリスが族長になった経緯は誰も口にせずに、ただ祝福の言葉を贈っていた。

 今後、ディアリスが族長となっても困ることはないだろう。


 俺は客間を用意してもらっている間に、応接間でディアリスと向き合っていた。


「本当にここまでありがとう、ゴロウ。あなたがいなかったら、私ひとりじゃきっと両親を殺す前に、殺されていたわ」


「いいんだ、俺の意思で助けた。ディアリス、背中を預けあった俺たちは戦友だ。実の両親を斬った罪悪感の一部でも肩代わりしてやりたい気持ちでいる」


「そこまでゴロウに甘えるわけにはいかないわ。その罪は私のものだから」


「そうか、強いなディアリスは」


「そうでもないけど……。そういえばゴロウのこと、ほとんど何も知らないのよね、私。見たこともない魔術を使う凄腕の魔術師ということしか分からない。あなたは一体、何者なの?」


「ただの流浪の魔術師だ」


「そう……じゃあまた流浪の旅に戻るのね」


 さて、ここらでプロポーズをしようか。

 気配察知でミウが扉の外で聞き耳を立てているのには気づいているが、これから家族になる関係だ。

 聞かれていても構うまい。


「流浪か……それなんだがな。ディアリス、俺と結婚してくれないか」


「……え?」


「俺はディアリスのことを好きになってしまったらしい。ちょうど当てのない旅にも疲れていたところだ。君となら、いや君の傍で一緒にこれからの人生を生きていきたい」


 ディアリスは視線を逸して、目を伏せる。


「…………ごめんなさい」


「信頼関係は築けていたと思っていたんだがな。他に好きな男がいたか?」


「それは……」


 ディアリスは自分の肩を抱きながら、何かを迷っているようだった。


「違うのか? なら俺の何が至らなかった」


「至らないだなんてことはないの。ただ、私は……」


「……?」


「ええ。私もゴロウを信頼している。だから言うわね。私は、――ミウのことを愛しているの。ひとりの女性として」


「…………ん?」


「だから! 私は、ミウのことを愛しているの。妹じゃなくて、恋人にしたいという意味で。家族の好きじゃない。私の愛は本物よ」


 つまり、ディアリスは重度のシスコンで同性愛者だったのか。

 プロポーズが失敗するわけだ。


「お姉ちゃん、それ、どういうこと……?」


 聞き耳を立てていたミウが、扉を開けて立っていた。


「み、ミウ!? 聞いていたの!?」


「お姉ちゃんが私に優しいのは知っていたけど……その……そういう意味だって気づかなかった」


「……そ、それは。だって知られたらミウに嫌われるから! そんなの耐えられない!」


「嫌いになんかならないよ。お姉ちゃんは、私が世界で一番好きな人だよ。ただ、この好きはお姉ちゃんの好きとはきっと違うんだろうけど……」


「ミウ……」


 ミウは姿勢を正して、俺に向き直る。


「ゴロウさんには恩義があります。姉ではなく、私を娶ってはくださらないでしょうか」


「ミウを? なぜだ。初対面の俺との結婚をなぜ望む?」


「ゴロウさんはお姉ちゃんのことを好きで、一緒にいてくれると言ってくださったから。これから族長をひとりで務めるお姉ちゃんを支えて欲しいんです。そのための重しに、私がなります。初対面だけど、私、多分、一目惚れだと思うんです。ゴロウさんがお姉ちゃんに告白したとき、胸がズキズキ痛みました。私、嫉妬してたんです」


「…………」


「骨ばって貧相な娘ですが、できる限り尽くします。どうか私を、私のことを少しでも見てくださいっ」


「ああ、なんというか突然のことで驚いている。しかしそうだな……ディアリスを支えながら、ミウと愛を育むのも悪くはない。そう思ってしまった。こんな男でいいのか」


「大丈夫です。ゴロウさんの中でお姉ちゃんが一番でもいいんです。でも二番目は私にしてください」


「…………分かった。ディアリスとも実際、知り合って一日程度だ。ミウのことをこれから知っていこうと思う。改めて俺からも言わせて欲しい。ふたりでディアリスを支えていこう」


「っ、嬉しい!!」


 ミウの頬を一筋の涙が伝う。

 俺たちを呆然と眺めていたディアリスが、


「なんでそうなるの!!?」


 と叫んだ。


 かくして俺は百合の間に挟まる男として、ミウとの結婚を決めた。

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